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第26話

 走り出して暫く皆人は、自分の体の具合を確めるように、ゆっくりとしたペースで走っていた。夏の日差しは強く、何もしていなくてもで汗が出て来るほど強い、

 皆人は少し恨みがましそうに太陽を睨む。左足の擦過傷と肩の怪我が響くのか、走るフォームも崩れがちになるのを自覚した皆人は溜息を吐くと、走るのを止め、ゆっくりと歩き始める。


「これ以上走るとフォームに変な癖が着きそうだからなぁ……」


 皆人はそう口に出すと、先程より深い溜息を吐き、母親の言った病院を目指し歩き始める。太陽も中天を目指し一定のペースで進み、太陽が進む度に日差しと温度は高くなる。

 その中を進む皆人の額からは汗が流れ落ち、服も既に汗で濡れている。それに不快に感じながらも、皆人は歩き続ける。

 通りに面したコンビニが見えて来ると皆人は迷わず店内に駆け込む。店内は空調が効いており外とはまるで別世界だった。

 皆人は店内を見渡すと、制服姿の学生や元気の良い小学生などの比較的若い客層でそこそこ混雑してい

た。


「考える事は、皆大体同じだよね……」


 外の暑さにやられ、少しでも涼を求めてコンビニに入店したのは、どうやら皆人だけではないようだった。流石に涼みに来ただけとは言えないので、皆人は飲み物を手に取るとレジに向かおうとする。

 レジへの通り道の、お菓子売り場に居る、空色の半袖のパーカーを着て野球帽を被った小学生が、何かを一心不乱に見つめているのが目に入る。

 何を見てるのか気になった皆人は小学生の傍に行くと、棚に吊り下げられる形で陳列してある。トレーディングカードのパッケージを見つめているのに気付く。


(うんうん、僕も昔はこうやって、分かりもしない中身を想像しながら選んでたなぁ……頑張って良いのが出るといいな少年)


 皆人は懐かしい気持ちに浸りながら、小学生の傍を離れようとすると服の裾を引っ張られる感覚に驚く。


「お兄ちゃん、この中でどれが良いと思う? 俺の代わりに選んでくれよ」


 いきなりの小学生の行動と言葉に皆人は驚きながらも言葉を返す


「そういうのは自分で決めた方が後悔しないぞ……他人に何かを委ねる時は本気でその人の事を信頼してないと、後で、その委ねた人を恨んでしまう事もあるからな」


「お兄ちゃんの言ってる事は難しすぎて良く分からん! いいから選べよ! 俺が良いって言ってるんだから!」


 少年は皆人の言葉を軽く流すと、服の裾を引っ張りながら催促してくる。


「だから! 自分で選んだ方が後悔しないから! 自分で選びなって!」


皆人は裾を引っ張る少年に、そう言い聞かせようとするが。小学生は皆人の言う事などまるで聞いていない。


「頼むよ! もし良いのが出なくても、お兄ちゃんを恨んだりなんかしないぞ! それは約束する!」


 約束というその言葉に皆人は、溜息を吐くと小学生に皆人は告げる


「よし! それじゃあこうしよう! 君の分は僕が選ぶ、そして君は僕の分を選ぶ。これで良いなら選んであげる」


「あれ、お兄ちゃんもGod World集めての?」


「God World?」


「これだよ、これ。トレーディングカードゲームGod World、今すげぇ人気なんだぞ!」


 小学生は棚に下げられている、パッケージを指差す。そこには昨日大助が買っていた物と同じものが下げられているのが皆人の目に入る。


「これが、そうなんだ……うん、凄い人気だって聞いた事があるよ」


「うんうん、俺は流行る前から集めてんだぞ! これでもGod Worldの日本大会にも出た事もあるんだぞ!」


 小学生は自慢げに胸を張る。その姿を微笑ましく見ながら、下げられてるパッケージを一つ手に取ると、只今EOTCとのコラボキャンペーン中と書かれているのを発見する


「やっぱり昨日大助が買っていた物と同じだね……」


「お兄ちゃんは、それにしたのか? 一番手前か……意外と盲点かも知れないな」


 小学生は皆人が手に持ったパッケージを見つめると、少し遠慮がちに聞いて来る


「俺がお兄ちゃんの分を選んで良いのか?」


「うん、頼むよ、僕はあまり詳しくないけど、少し興味はあったんだ」


「よし! お兄ちゃんのために良いのが出る奴を選んでやるよ!」


 小学生は嬉しそうに、吊り下げられているパッケージを選んでどういう理屈か分からないが一番下の段の一番奥のパッケージを選ぶと、皆人に見せてくる


「これだ! きっと凄いのが入ってるぞ! 期待してろよお兄ちゃん!」


「ああ、楽しみにしてるよ。それじゃ会計しよう」


 二人はレジに並ぶと、急に後ろにお客が並び始める。皆人はそれをみると小学生に言った


「混み始めたから、一緒に会計しよう」


 そう言って皆人は小学生から、パッケージを受け取る


「はい、お兄ちゃん。お金!」


 小学生はポケットの中らからお金を出すと、それを皆人に渡してくる。体温で暖められた硬貨の数を確認すると三百三十円だった。

 皆人はそれを受け取るとレジで会計を済ませると、二人はコンビニから出る。夏の日差しは益々強くなり気温もかなり上がっていた。その中を二人は歩いていく


「うぇ~、暑っついな~」


 そう言いながら、被っていた帽子を橘花が取ると、帽子の中から長く綺麗な髪が流れ落ちてくるのを皆人は驚きの目で見つめた。


「君……女の子だったの?」


「そうだぞ! あっ、そういえばまだ名乗って無かったな! 俺は橘橘花(たちばな きっか)だ! よろしくな! お兄ちゃん!」


 橘花と名乗った少女は、元気いっぱいの笑顔をつくり、右手でピースサインをしてくる。

 皆人は驚きの表情のまま橘花を見つめる。黒髪は帽子の中にあったはずなのに少しも癖がついてなく、大きくくっきりとした瞳は綺麗に輝いて、小柄で色白の体は儚い様に見えるが、生命力で溢れていた。


「なんだ、お兄ちゃん、俺のビボウに見とれたか? まぁ、仕方ないがな、こんだけ美しければ」


 橘花は自慢げに胸を張り、皆人をからかう様に見てくる。それに皆人は素直な感想が思わず口から出た


「うん、凄く可愛くてびっくりした……先輩や凪沙である程度は慣れていると思ったけど、橘さんも凄く可愛くて本当にびっくりしたよ!」


「にゃっ!!?」


 橘花は妙な声を上げると、全身を真っ赤にして、皆人の向けていた視線を一気に下に下げる。それを見た皆人は、自分が言った言葉を思い出すと、顔を赤くしながら橘花に謝る


「ご、ごめん! いきなり変な事言って……でも、言った事に嘘はないと言うか……」


 皆人はしどろもどろになりながら、橘花に言い訳にならない言葉を続けようとすると、小さな声が皆人に届く。


「可愛いなんて言われたの初めてだから……」


 橘花は先程までとは打って変わって、自信の無さそうな声で皆人にそう告げると、伺うように皆人を見つめると意を決したように聞いて来る


「俺って……本当に可愛いのか?」


 その姿は、本当にただの可愛い年相応の少女にしか見えなった。皆人は笑顔を浮かべると


「うん、橘さんは可愛いよ。それは僕が保障する……当てにならない保障かもしれないけどね」


 皆人の言葉に嬉しそうな笑顔を浮かべると、橘花は顔を赤くしながら聞いて来る


「お兄ちゃんの名前はなんて言うんだ? 俺だけ名乗るのは不公平じゃないか!」


 元気が戻ったのか、先程と変わらない調子の男言葉に皆人は安心すると、改めて名乗った


「僕は、結城皆人(ゆうき みなと)。改めてよろしくね。橘さん」


「橘花」


「ん?」


「橘花って呼んでもいいぞ……お兄ちゃん……皆人ならそう呼ぶの許してやる」


 顔を赤くして、そっぽを向きながら言ってくる。その橘花の姿に微笑を浮かべると、皆人は手を差し出しながら橘花の名前を改めて呼ぶ


「よろしくね、橘花」


 橘花は差し出された手を不思議そうに見つめるが、それが握手のサインだと気付くと、服で手の汗を拭くと勢い込んで皆人の手を握ってくる。


「こっちこそよろしくな! 皆人!」


 二人は笑顔で手を握り合う、皆人が先に手を離そうと力を抜くと、橘花は少し残念そうな顔をしてから手を離す。


「皆人、早速空けてみようぜ! きっと良いのが入ってるぞ!」


 橘花はそう言うと、皆人が持つコンビニ袋を見つめる。皆人は苦笑を浮かべると、袋から二つのパッケージを取り出すと、片方を橘花に渡す


「お、ちゃんと皆人が選んだのを渡してきたな……分からなくなってるかと思って、俺、覚えていたのに」


「せっかく橘花が選んでくれたんだから、間違える訳にはいかないだろ?」


 二人はニヤリと笑い合うと、皆人は左側パッケージを開けようとする、それに待ったをかける声が響く


「待った、まずは良いのが出ますように願ってからだ! それが儀式ってものだ!」


 橘花はそう言うと、パッケージを両手で挟み込むようにして手を合わせると、目を閉じて祈るような仕草をする、片目を開けて見つめて来る橘花に、皆人は苦笑を浮かべ同じ仕草をする。


「よし! もう良いだろ、開けてもいいぞ皆人」


 橘花の許しが出ると、皆人はパッケージを開ける。中には十枚程のカードが入っており、一枚一枚確認して行くと、隣から橘花の声が響く


「うぉーーーー! やったーーー! 出たぞ! 遂に出たーーー!」


 橘花が興奮した様子で皆人の肩を叩きながら、顔を赤くしながら話しかけてくる


「ありがとーー! 皆人愛してる! もうお前になら何されても良い!!」


「ちょっ!? 橘花、僕の人生を終わらせそうな危険な発言はやめてよ!?」


 皆人は周囲に人が居ないのを確認すると、一つ息を吐いてから橘花の方を向くと、一枚のカードを輝く瞳で見つめ続けていた。


「橘花が欲しかったカードが出たの? それなら良かったよ、どうにか役目を果たせたみたいで」


「おう! えへへ~、皆人に頼んで良かった! ずっと欲しかったんだ~」


 橘花は、嬉しそうにそのカードをしまうと、今度は皆人の手にあるカードを見つめて来る。


「僕は、このトレーディングカードの事は良く分からないけど、綺麗なカードも在るんだね? 僕らが昔集めていたのは、此処まで綺麗じゃなかったなぁ」


 皆人は手の中から一枚、凄く綺麗なカード橘花に見せるとそれを見た橘花の動きが止まる。皆人が不思議そうな顔で橘花を見つめていると


「お、おおおおぉぉぉぉぉぉぉ!! これは……スゴイ初めて見た……本当にあったんだ……」


「どうかしたの? そのカードって凄いの?」


 その発言を聞いた橘花は、キッと皆人を睨むと、皆人が渡したカード突きつけると説明を始める


「凄いなんてものじゃないんだ! 幻と言われたカードだよ極端に枚数が少なくて……実在を怪しまれれる位なんだぞ! 俺も実物は初めて見た……とにかく! とんでもなくレアなカードなんだよ!!」


「へぇ~、そうなんだ?」


「軽っ!? もうちょっと何かあるだろっ!!」


 橘花はカードを振り回しながら、皆人にじゃれ付く、それをあしらいながら、皆人は袋からスポーツドリンクを取り出し、蓋を開けて飲み始める、その姿にさらに橘花が激しくじゃれ付いてくる


「あのな! 皆人! このカードはなGod Worldを集めている人にとっては、物凄いお宝なんだ!!」


「僕だって少しは分かるよ? 昔似た様なカード集めてたし、幻とか超レアとか良く聞いたもの」


 皆人は苦笑を浮かべながら言うが、一生懸命そのカードの凄さを説明している橘花には、皆人のにわか知識などで言われても納得出来ない、

 そんな皆人の態度に我慢がならないのか、溜息を吐くとおもむろに言ってくる


「俺は、あんまりこういうのは、好きじゃないから普段は見ないんだけど、ここを見れば、そんな風にしてられないのに気付くはずだぞ!!」


 橘花は自分の端末を使ってあるサイトを開き、皆人に見せてくる。そこはトレーディングカード専門のオークションサイトでGod Worldは取引項目の一番上にあり、その人気の高さが窺い知れる。

 橘花は端末を操り、目的のカードの取引状況を皆人に見せる。


「カード自体が少ないから、取引されたのは大分前になっちゃうけど……着いてる値段を見て、恐れ戦け!」


「そんな事言っても、大した金額じゃないだろう…………」


 皆人が橘花の持つ端末を見つめ、取引金額を確認すると。皆人の顔色がどんどん変っていく、それを見て橘花は漸く自分の言い分が伝わったのに満足していると。


「あの~、この値段って本当なの? このカード一枚がこの値段?」


「そうだよ、この位の値段で取引されるほど、人気があるんだGod Worldは!」


 皆人は、橘花から返されたカードを改めて見つめると、今一歩信じられないような顔をして、橘花を見つめる


「ようやく、事の重大さに気付いたな! 皆人はどうするんだ? そのカード……やっぱり売るのか?」


 橘花が少し寂しそうに聞いて来るのを見ながら、皆人はそのカードを橘花に渡す。

 カードを受け取った橘花は不思議そうな顔で皆人を見つめて来る、


「そのカード、橘花にあげるよ……元は橘花が選んだ物だし、僕が持っていても多分取り扱いに困るから……」


「ちょっ!?ちょっと待て、どうしてそうなるんだ? このサイトに登録して売れば良いじゃないか!」


 橘花は受け取ったカードを返そうとするが、皆人は受け取らない。


「多分、こういうのは純粋に好きな人が持つべきなんだよ、橘花はこのカードゲームが好きなんだろ?」


「うん、大好きだけど……それでもタダで貰うなんて事は絶対できないからな!!」


 皆人は苦笑を浮かべると、手の中にあるカードの一枚がEOTCのアイテム交換カードなのを発見すると、橘花を見つめ、話し始める


「じゃあ、このカードの本当の使い方、トレーディング(交換)しよう!」


「俺が持ってる物で、同じ価値のカードなんて無いぞ……今日出たカードもレアだけど、皆人のカードには及ばないし……」


 悔しそうに俯く橘花に、皆人は告げる


トレーディング(交換)は常に同じ価値のもの同士の交換とは限らないだろう? 僕が欲しいカードを橘花が持ってる、それと交換なら価値なんて関係ないだろ? 僕はこのカードより、そっちのカードが欲しいんだから」


「えっ? でも皆人はGod World集めてないんだろ? それなのに欲しいカードなんて在るのか?」


 橘花は疑わしげに、皆人を見つめて来る、その瞳に笑顔で返す


「コレだよ! EOTCのアイテム引換券カード! 僕はこのカードが欲しいんだ!」


「えっ!? こんなのが欲しいの?」


 橘花は皆人の言葉に驚くと、


「うん、僕は最近EOTCってゲームを始めたんだけど……橘花は知ってる?」


「知ってるよ! spirt worldは持ってるし、少し興味あるから、調べたりした事あるからな」


「僕は最近始めたばかりだから、この手のアイテム引換券は持っていても困るものじゃないし、完全にランダムらしいけど、中には凄いアイテムを貰える可能性もあるからさ」


 皆人のその言葉にも、橘花は今一歩納得出来ない表情を浮かべる。皆人はその様子に苦笑を浮かべるが何か思いついたのか笑顔を浮かべると橘花に話しかける


「それじゃあ橘花、このカードと交換するのは、橘花のこれからの夏休みの時間って事なら、どうかな?」


 橘花は皆人のその言葉をよく理解出来ないのか、首を傾げながら聞いて来る


「それって、どういう意味だよ?」


「うん、橘花、これからの夏休み……僕と付き合ってみない? それで一緒に冒険しようよ!」


「…………えっ!? い、いきなり何言ってんだよ!? み、皆人とはまだ会ったばかりだし……つ、付き合うとか……ぼ、冒険とか、まだ俺には速いというか……いや、興味がない訳ではないんだ……皆人の事は良い奴だと思うし……」


 橘花は皆人の言葉に慌てると、全身を真っ赤にしながら視線をあちこちに向けるが、最終的に皆人を見つめると意を決したように言ってくる


「まずは、友達からだぞ!! ぼ、冒険はその後だ……俺は初めてなんだから優しくしろよ……」


「うん、まずは友達からだね、僕もまだ初心者だから、色々経験は浅いけど、橘花と一緒に冒険できるのは楽しみだよ」


「み、皆人も初心者なんだ……良かった、でも……ぼ、冒険は後で言っただろ……色々準備があるんだからな……女の子なんだぞ……」


 橘花の言葉に、皆人は頷き言ってくる。


「確かに、橘花は小学生だからEOTCを始めるには親の承諾がいるからね、確かに女の子だし、セキュリティは十分注意しないと」


「えっ!?」


「ん?」


 二人は会話が微妙に噛み合ってないのに気付いたのか、橘花が皆人に改めて問いかける。


「皆人……聞くけど、夏休みお前と付き合って冒険するって……」


「うん、一緒にEOTCを始めようよ、それで夏休みのあいだ冒険しようよ……あれ? 最初にそう言ったよね?」


 橘花は体を震わせ、全身を真っ赤にすると、皆人を手招きする。それに応じて近付くと思い切り息を吸うと天に轟けとばかりに大声で叫んだ。


「ゲームするなんて一言もいってねぇーし!! 付き合うとか!! 冒険とか!! 紛らわしい事いうんじゃねぇぇぇぇぇ」


「何を怒ってるんだーーーーー!?」


 皆人は、橘花に蹴られながら情けない声をあげた。


「まったく! 皆人は発言をもう少し気をつけないと、何時か大怪我するぞ!」


 橘花は一通りの攻撃を行い、漸く怒りが収まったのか、皆人から奪ったスポーツドリンクを飲みながら、隣を歩く皆人に説教していた。


「勘違いしたのは、橘花なのに……小学生の癖に耳年増……」


「ああん? 何か言ったか? それに俺は小学生じゃない! 中学二年生だ!」


 皆人はその言葉に驚愕の表情を浮かべ、橘花をの全身を見つめると。「クスッ」と笑う


「ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 良い度胸だ!! ここで勝負つけたらぁ!!」


 橘花が再び怒りの声をあげると攻撃を仕掛ける。その攻撃を躱しながら、皆人は目的の病院が見えてきた事に気付くと、橘花の着ているパーカーのフードの中にカードを入れると、病院を目指して走っていく。

 その行動に驚いた橘花が声を大きくして聞いて来る


「皆人! お前どこか悪いのか? 俺……全然そういうの分からなくて……」


 その姿に皆人は苦笑を浮かべると、橘花に笑いながら告げる


「友達のお見舞いだよ! 僕は何処も悪くないよ! それからさっきの話、考えておいてくれよ、一緒にEOTCで冒険しような!!」


「俺、お前の名前しか知らない! だから連絡先くらい教えろよ!」


 橘花の言葉に皆人は微笑みながらフードを指差す、橘花はパーカーのフードを確認すると、そこにはカードが入っており、驚いて病院の入り口に視線を向けるが、既にそこに皆人の姿は無く。橘花は慌てて病院に入って周囲を見渡すが何処にも姿は見えなかった。


「くそっ! 何処行ったんだよ……」


 橘花は近くの椅子に座り、カードを暫く見つめていると、小学校低学年位の女の子が話しかけてくる


「ねぇ、お姉ちゃん! これを渡してくれって頼まれたの!」


「?」


 女の子はコンビニのレシートを橘花に渡してくる。それを受け取ると女の子は嬉しそうに微笑みながら去っていく。

 受け取ったレシートの裏には、電話番号とメールアドレス、そして走り書きで一言書いてあった。


「待ってる……か……」


 橘花は椅子から立ちあがり、レシートとカードを大事そうにしまうと、笑顔を浮かべ病院を出て行く。


「さて、まずはspirt worldにEOTCをインストールしないと……約束は守らないといけないからな、このカードの交換条件は夏休みに一緒に冒険する事だもんな! 待ってろよ皆人!」


 橘花は一人、気合を入れると夏の厚い日差しを浴びながら、自分の家を目指し走り出すのだった。

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