第24話
ギルドから出ると、まだ表には沢山のプレイヤーが情報を集める為に残っている。それを横目に見ながらミナトとユズリハはギルドから離れていく。
「実際、あのお姫様はとんでもない事をしでかしてたみたいだね……」
ユズリハは隣を歩くミナトに溜息混じりに話しかける。
「うん……まさか此処までの大事になっているなんて思いもよらなかった」
「でも、幸いにもボク達がこの事件に関わってるって言う事を、知ってる人が居ないのは良かったよ」
「シルエルティさんは? 何か気付いてそうだったけど……」
ミナトは先程のシルエルティとの会話を思い出すと、ユズリハに問い掛ける。
「たぶん、エルティはボク達がこの事件の真相を知っている事には気付いてると思うよ……でも、ボク達がこの事件の直接的な原因だとは流石に思ってないだろうね」
「つまりどういう事?」
ミナトはユズリハの言葉に首を傾げる、それを見てユズリハは苦笑を浮かべると簡単に説明を始める。
「今回の事件に巻き込まれて最後まで関わってしまったミナト君とボク。事件は解決したが、真相はボク達を巻き込んだ何者かによって、口止めされているため、ボク達は何も言えずにいる……ってエルティは思っている筈だよ」
「つまり僕とユズリハさんは、ただの被害者だとシルエルティさんは思っているって事?」
「その通り! エルティの口振りから察するに、ボク達が事件の真相を知っているのには気付いているけど……直接的に今回の騒ぎの原因が、ボク達だとは気付いて無い」
ユズリハはちょっと悪戯っぽく笑いながら、ミナトの手を引っ張りながら言ってくる。
「だからそんなに心配する事無いさ! いざ聞かれたら嘘八百並べれば良いよ。相手だって、まさかボク達みたいな駆け出しのプレイヤーが、あの暴走を止めたなんて信じないだろうしさ!」
手を引かれながらユズリハの言葉に納得すると、ミナトは笑顔を浮かべながらユズリハに問い掛ける
「うん、その説明を聞いて納得したし安心もしたよ! それでこれからどうするの?」
「どうするって? 決まってるじゃない! 行くんだよ! あの塔へ! 塔の都へ!!」
ユズリハの楽しそうな声に、ミナトは遂に本当の冒険が始まった事に気付く。
遠くに聳え建つ大地と空を支える巨大な柱、|エレメンタルオブタワークライム《EOTC》のメイン舞台がミナトとユズリハを悠然と見下ろしていた。
二人は図書館の近くまで来ると、互いに微笑み合うと繋いだ手を離す。
「うん、いよいよ始まるって感じがしてきたよ! うんうん! 今から本当に楽しみだなぁ……」
そんなミナトの様子にユズリハ楽しそうに笑いながら言う。
「何だかんだで結構遠回りしたからね! これからは遠回りした分を取り返さないとね!」
「そうだね、それじゃあその前に……ユズリハさん、このギルドカードの機能について少し教えてくれる? シルエルティさんに聞く前に慌てて出てきちゃったから……」
ミナトの言葉にユズリハは頷くと、懐からギルドカードを取り出し説明を始める。
「まずこのカードは、塔に入る為のパスポートの役目を持っている。これを持っていないと塔への出入りは不可能になるから失くさないでね?」
ミナトは神妙な顔で頷く、その顔を見ながらユズリハは肩をすくめながら言ってくる
「まぁ、失くしてもギルドに行けば再発行してくれるけどね」
その言葉に肩透かし食らった様によろけるミナト
「でも、再発行には三日かかるから、失くさないに越した事は無いんだけどね?」
「三日……」
ミナトはカードを見つめると、大事そうにアイテムストレージにしまう
「そう、そうやってアイテムストレージの中に入れておけば、まずは失くす事はないから安心して良いよ、次にキャッシュカードとしての機能もある、現金を大量に持ち歩く人はあまり居ないから、大体はこのカードでの決済が多いね、だけど! 中には現金支払いじゃないといけないお店もあるから気をつけて」
ミナトは頷きながら、自分の現金の残金を確認すると、いきなり手を挙げる、その行動にユズリハはにこやかに微笑むとミナトを指差し指名する
「はい、ミナト君、何か質問ですか?」
「えーと、このカードから人へお金を振り込む事は出来ますか?」
「出来るけど……それには双方の合意が必要になるね、片方からの一方的な要請では成り立たないね。当たり前だけど」
ユズリハの答えにミナトは頷くと、カードを取り出すとユズリハに聞いて来る。
「一回、実験したいんだけど……ユズリハさん相手役してくれない?」
「構わないよ? うん、こういう事を体験しておくのも悪くないし」
そう言って、カードを取り出すとミナトを向かい合うユズリハ
「まず最初にカードの上に手をかざすとウィンドウが現れるから、そこにお金を渡したい人の名前を入力するんだ、そうすると相手方のカードに通知が来る」
ミナトは言われた通りに操作すると、ユズリハのカードに通知が届き、それに連動したウィンドウが起動する。ユズリハは現れたウィンドウを見つめながら続きを話始める
「双方の目の前に取引ウィンドウが現れたら、送金側が金額を入力すると相手側にもその金額が表示される、その金額に間違いないのを確認して、双方が合意したら決定ボタンをタッチして取引終了って感じだよ」
「ユズリハさん、実際にお金のやり取りもしてみたいんだけど……」
ミナトの言葉にユズリハは首を傾げながら問い返す
「何処か分からない所でもあった? わざわざ実際にやり取りしなくても今の説明で分かったよね?」
「そうだけど……試してみたいんだ。お願い!」
ミナトは珍しく強引にユズリハに頼み込み、戸惑いながらもユズリハはもう一度ウィンドウを開く
「じゃあ、金額を入力するから、決定ボタンよろしく」
「はいはい」
ユズリハは言われた通りに決定ボタンにタッチする。ミナトは笑顔でそれを見るとカードをしまう
「これで満足した? それじゃあ説明の続きをするよ?」
「うん、お願いします」
ユズリハはミナトの行動に首を傾げながらも説明に戻る。
「このカードは、ボク達クライマーと呼ばれるプレイヤーの身分証明の役割も果たしてる。クエストを受ける時や王国立の建物に入る時には提示を求められるし、何かサービスを受ける時なんかにも使われるね」
「本当にこのカードが無いと何も出来ないんだね……」
ミナトはユズリハの話を改めて聞きながら、一度しまったカードを取り出すとしげしげと見つめる。
「そういう事、このカードはこれからボク達が始める冒険には、欠かせない物って事だね」
ミナトはユズリハの言葉に頷いていると、通りにある街頭時計に目が止まる
「八時半か……そういえば昨日から一回もログ・アウトしてないなあ」
「うん、本当ならこのまま塔の都へ向かいたいけど……流石にもうそろそろ落ちなきゃ不味いよね?」
ユズリハは苦笑を浮かべながらミナトをを伺うと、それに気付いたミナトは苦笑を浮かべながら頷く
「仕方ないか……それじゃあ一回ログ・アウトしようか……ミナト君は何時位からIN出来る?」
「ここ二日間、まともに家族とも顔を合わせてないし、夕ご飯位は一緒に食べないと不味いから、夜か明日の朝って感じになるかな?」
ミナトは、凪沙の顔を思い出しながら苦笑を浮かべる、ユズリハは頭の中でこれからの予定を考えているのか黙り込んでしまう。その姿を横目に見ながらミナトは綺麗に晴れた空の彼方にある塔を見つめていると、ユズリハが頷き、今後の予定を言ってくる。
「うん、それなら今日は一日休みにしよう、明日の朝……今と同じ位の時間に此処で待ち合わせって事で良いかい?」
「僕は全然構わないよ。確かに昨日から色々ありすぎたからね……今日はゆっくりしよう。お互いに」
ミナトは笑顔を浮かべそう言うと、ユズリハも笑顔で頷きながら図書館の前に歩いていく。
「本当に色々あったけど楽しかったね! それと、これはボクを助けに来てくれた時のお礼!」
ユズリハはミナトに振り向きながら楽しそうに微笑むと、歌を口ずさみ始める。
その歌は朝の生まれたて空気に乗り遠く空の彼方に響いていく、朝の柔らかい日差しの中を軽く踊りながら歌うユズリハの姿に、周囲の人々も立ち止り感嘆の溜息を零しながら、ユズリハの歌に静かに耳を傾ける。
やがて歌が終わりに近付いて行くと、ユズリハミナトに視線を送るとウィンクをしてくる。そして歌が終わる同時にログ・アウトしてしまう、光に包まれながら朝露の様に消えていくユズリハの姿に、集まった人々は歓声と拍手で送る、完全に消える直前に集まった人々にユズリハは優雅に一礼をすると光と共に消えていった。広場には拍手と歓声が響き渡り、ミナトはその中で呟いた
「ユズリハさん……君は僕の事を凄いって言うけど……君の方が僕なんかより、ずっと凄いよ……」
消えていったユズリハに賞賛の言葉を送ると、ミナトも歓声が響き渡る図書館前の広場からログ・アウトした。
皆人ははspirt worldの中で目を開けるとカプセルの蓋を開ける。夏の日差しは既に暑くなり始め。家の外壁を焼いている。空調の効いたspirt worldの中から出ると、部屋の温度に、皆人は顔を顰めながらも着替えると、窓を全開に開け放つと部屋から出る。
「お兄ちゃん、約三十六時間ぶりだね……」
既に気温の上がり始めた廊下で、仁王立ちの凪沙の姿を正面から見つめながら皆人は溜息を吐くと
「凪沙、何か僕に用事?」
「それが昨日からずっとお兄ちゃんの事を心配していた、妹に対する第一声ですか? そうですか? よし、ならば戦争だ!!」
凪沙は説教と言いながら皆人に殴りかかってくるが、頭を手で抑えるとリーチ差によって凪沙の攻撃は皆人には届かない。
抑えた凪沙の頭を乱暴に撫でると皆人は、腕を振り回し続ける凪沙に一言静かに告げる
「ごめんな、そしてありがとな心配してくれて……」
振り回されていた腕は、何時の間にか頭に乗せられた皆人の手を強く握って離さず。抑えられ、俯き加減の凪沙の顔から、汗ではない雫が零れ落ちたのを、皆人は黙って見つめていた。




