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第20話

 ユズリハは驚愕の表情で巨人を見つめると、悔しげな口調で状況を分析する


「まさか、あの熊型のモンスターを盾と重りにして、竜巻から身を守るなんて……」


 巨人は地面から斧を抜き、それを軽々と回して肩に担ぐと、此方に向かって歩いてくる。


「くっ……ミナト君、此処はボクに任せて逃げるんだ……上手く森を使いながら逃げれば。始まりの都(インゼル・ヌル)まで逃げ切れるはずだから……」


 ユズリハは立ち上がろうとするが、足に力が入らないのか上半身を起こせるだけだ、ミナトはユズリハの肩を押さえ、再び横にすると。微笑みながら言う


「今までは、ユズリハさんが頑張ってきたんです、これからは僕が頑張る番ですね」


「ミナト君では無理だよ! まともな武器もない、職業にも就いてない、スキルも初期に貰った一つだけ……そんな状態であの怪物に勝てるはず……」


「ユズリハさんが、今の状態で戦うよりは可能性があります」


 ミナトからの意外なほど静かな言葉に驚き、ユズリハはミナトを見つめる


「大丈夫、きっと僕が何とかしますから…そこで休んでいて下さい」


 ミナトは優しく微笑むと、ユズリハの頭をポンポンと軽く叩くと、立ち上がり巨人に向かって歩いていく


「ミナト君!!」


 ユズリハの強く呼ぶ声に振り返らず、手だけ振り返すと。ミナトは腰に挿したジンから貰った剣の柄に手をかける。


「悪いけど、本気を出すよ……そうじゃないとお前からユズリハさんを守れそうにないから……」


 巨人はそんなミナトの言葉を理解sしたのか、また先程と同じ様に顔を歪めると肩に担いだ斧を構える。


「尋常に勝負!!行くぞ化け物……」


「グオオォォォ」


 人と巨人の戦いの火蓋が切って落とされた。

巨人が真横から斧を振り抜く、凄まじい速度でミナトの左側から鉄塊が襲ってくる、それを膝を落とし躱すと、腰の剣から一気に抜刀すると、そのまま前に走り、巨人の右足の裏に回りこむ様にして膝裏を切り裂く、巨人がその痛みで体が傾くと、斧を振りぬいた勢いが殺せず体が左に傾く、ミナトは抜刀した剣をもう一度鞘に収め、左に傾き、斧の重みで下がった右腕に駆け上がると、巨人の首を抜刀すると同時に切り裂くが皮膚の硬さで深く刃が入らない、巨人は痛みで斧を手放し右手で首を押さえようとすると、ミナトは飛び降り、地面を低く走りながら抜いた剣をまた鞘に戻す、そのまま足の間をすり抜けると、右膝をついたため、無防備になった左足の付け根、人間のアキレス腱に当たる場所を、鍔鳴りの音と共に切り裂く、斬ったはずの刃は既に鞘に収められ、もう一度鍔鳴りの音と共に同じ場所を切り裂く、二度目の攻撃で左足の傷はかなり深い傷となり、巨人の動きを鈍らせる。


ユズリハは上半身を起こし、そのミナトの戦いぶりに驚愕の表情を隠せない。


「凄い…あれが本気になったミナト君……」


 鍔鳴りと共に閃く銀光に目を奪われながら


「このまま行けば、ミナト君……勝てるかも……」


ユズリハはそう呟くと。手を強く握り締め、巨人と戦うミナトを祈るような気持ちで見つめた。


 ミナトは巨人の皮膚の硬さに驚いていた、普通ならもっと深く入るはずの刃が通常の四分の一位しか入らない上に、初期に切り裂いた右足の傷が塞がり始めているのだ。


「反則だろう……その回復力は……」


 ミナトはそう愚痴るが諦めずに攻撃を続ける、しかし、巨人もミナトの動きに慣れてきたのか、防御を固めると、ミナトの攻撃ではあまり傷を負わなくなっていた


「まずい……このままだと攻めきれない! 攻撃力が足りない…」


 ミナトは焦りを感じるが、それを無理やり押さえ込むと巨人に再び斬りかかる。硬い皮膚を薄く切り裂くだけに留まる自分の攻撃に焦りは募り、段々、攻撃が荒くなる、ミナトの攻撃が弱まったのを感じた巨人は顔を歪ませると、体を振り回しミナトに距離を取らせると、地面に落ちた斧を拾い上げると、大きく上段に振り上げると、薪を割るように斧を振り下ろす。凄まじい破裂音と共に地面が抉れ、岩や土砂が大量に飛び散り、それが距離を取っていたミナトに襲い掛かる、大きい石や土塊を躱し、後の小さい石などは無視し、ダメージを最小限に抑えると、ミナトは果敢に前に出る。地面に減り込んだ斧の上を走り抜け、腕を登り、巨人の胸の上に着地すると正面から喉を切り裂く、他の場所とは違い、手応えも十分なのを感じると、ミナトは一瞬だがそれで気を抜いてしまった。それを見て、巨人が顔を厭らしく歪める、


「おびき寄せられた!?」


 ミナトは巨人の意図に気付き、胸から飛びのこうとするが、それより速く伸びてきた巨人の右手に捕まってしまう。


「ぐぅぅぅっ」


ミナトは巨人の怪力に握り潰される寸前に、腰から無理やり抜いたショーとソードで手の平を突き刺す、巨人は顔を歪ませると、ミナトを放り投げる。バランスを戻そうとするが先程の握り締めのダメージで思うように体が動かず、そのまま受身も出来ずに地面に叩きつけられる。


「ぐはっ、げほっげほっ……はぁはぁはぁ」


 ミナトは遠くなる意識を繋ぎとめ、どうにか立ち上がろうとするが体が動かない、どうにか体をうつ伏せにして、視界を確保すると、巨人が厭らしく顔を歪めているのが見える、巨人はそのままミナトを無視して、ユズリハの倒れている方を向くと、そちらに向かいゆっくりと歩いていく。


「ま、待て……」


ミナトが動かない体を引きずる様にして、巨人の後を追う。


「まだだ……まだ僕は戦える……お前なんかに負けてない……」


()を額から流しながら、ミナトは体を起こそうとする。


「守るって……約束したんだ……」


痛み(・ ・)に震える体に力を込め、立ち上がろうとする。


「だから、その人に……ユズリハさんに……」


 巨人は地面で、のたうつミナトの姿に顔を歪ませせると、厭らしい目でユズリハを見ると、口から涎を垂らす。

 ミナトはそんな巨人の姿を朦朧とした意識で見つめる。もう半分以上意識を失いかけているのか、瞳も空ろになっている。


『………が……しい……なら……わた……を……べ……』

(空耳か? それとも僕はおかしくなってしまったのか……)


『……らが……しい……なら……わたし……を呼べ……』

(誰だ? 何を言っているんだ?)


 ミナトは、消えかける意識の中で、自分を呼ぶ声に気付く


(誰だ……僕を呼ぶのは……)


『力が欲しいか?ならば、私の名前を呼べ……そなたはもう私の名前を知っているはずだぞ……』

(知らない……僕は君を知らない……)


『知らない筈がないだろう? 私の名前を呼ぶ許しを出したのは、そなたが初めてだからな……』

(憶えてない、僕は君を憶えてない……)


『憶えてない筈がないだろう? 一緒に旅をしたではないか? 私の過去の記憶の旅を……』

(……君は……)


『漸く思い出したか? ならば私の名を呼べ、力をほんの少し貸してやろう…何、この程度の騒ぎを収める位の力なんぞ、私からしてみれば、腕を動かすのと変らない位の労力でしかない…』


『名を呼べ、我が主よ、さすれば私が貴方に力を与えよう、人知を超えた力をな…』


「…………ァ」


『これで契約は果たされた、さぁ、我が主よ、私を使え! 私こそが……』


 巨人はユズリハの十数メートルの所まで迫っていた。覚悟を決め、震える足に力を入れ立ち上がると。ユズリハは巨人を睨みつける




「悪いけど、怪物(お前)なんかに食われやるつもりなんてないからな!!」


 ユズリハは此方に迫ってくる巨人にそう言うと、視線をモンスターから外し、少し離れた場所に倒れているミナトを見つめながら、優しい表情で言葉をかけた。


「君は本当に頑張ったよ……あの怪物にあれだけの傷を与えられる、初心者なんて君以外には居ないよ……」


ユズリハは弓を取り出し矢を震える手で番える。


「あれだけ頑張ってくれた、ミナト君に悪いもの……唯ではやられないよ!」


 弓から矢が解き放たれるが、山なりに飛ぶ矢は、巨人の厚い胸板に弾かれ地面に落ちる


「あはは……弓を上手く引く力も残ってないなんて……」


 巨人はそんなユズリハを見て、顔を歪ませると、恐怖を煽るように更にゆっくりとした速度で歩くと、遂にユズリハの目の前に辿り着く。


「もう怖くなんかないよ……ボク達は精一杯戦った……悔しいけど……今はお前の方が強かった……でも、次は負けない!!」


 そう言って、巨人を睨みつける。巨人はその瞳を悠然と見返すと、右手を伸ばしてくる。ユズリハは覚悟を決め、目を閉じて自分の最後を待った。

 その時、大きな衝撃音と地響きが鳴り響いた、ユズリハは目を開けると、そこには倒れている巨人と、ボロボロの姿でユズリハの前に立つミナトの姿だった。


「ミ、ミナト君……」


 ユズリハがそう声をかけようとすると、ミナトは物凄い速さで駆け抜け、起き上がろうとしている巨人に飛び蹴りを放つ、とても肉体同士がぶつかって出る音とは思えない重い衝撃音がすると巨人は吹き飛び、ミナトは綺麗に地面に着地すると、今度は腰の剣の柄に手をかける。

 巨人は獲物を目の前にしていたのに、不意の攻撃で獲物から距離を取らされた事に怒り狂うと、地面に落ちた斧を拾い上げ、雄叫びを上げながら上段に振り上げ更に自分も飛び込むようにして、己の邪魔をしたミナト()に振り下ろす、その勢いは凄まじい風圧と共にミナトを襲う。

凄まじい破砕音が響き、巨人は己の勝利を確信したのか顔を歪ませる。だが、巨人の斧を押し返す力に気付くと、巨人は驚愕して舞い上がる土煙の中を見ると、左腕一本で巨人の斧を受け止めるミナトの姿に雄叫びを上げる


「うるさいよ、お前……」


ミナトはそう静かに言葉にすると、受け止めた斧を押し返すと、腰から剣を抜刀すると、鍔鳴りの音と共に甲高い音が響き、またも鍔鳴りのチンという乾いた高い音がすると、次の瞬間には巨人の斧は刃の部分を半ばから断ち切られていた。巨人は更に怒り斧を投げ捨てると、その巨大な拳をミナト目掛けて打ち下ろす、それを巨人の右側に回り込みながら躱すと、銀閃が瞬き、静かな鍔鳴りの音が聞こえると、巨人の右腕がまるで冗談の様にゆっくりと地面に落ちる。

巨人は今まで一番大きな声で雄叫び(悲鳴)をあげると、切り落とされた部分を押さえ暴れ、血走った目をミナトに向け、怒り狂いながら地面に落ちた己の右腕を拾い上げると、それをミナト目掛け振り下ろそうとするが、ミナトの姿はすで其処には無く、巨人が気付いたときには振り上げた左腕が右腕と共に地面に落ちて行くのを間抜けな顔で見ていることしか出来なかった。両腕を無くした巨人は、恐怖に顔を歪ませ逃げ出そうとするが何かに躓き転んでしまう。立ち上がろうともがくが両腕が無い巨人は上手く立ち上がれないやっとの思いで体勢を立て直すと、今度は己の右足が自分の躓いた場所に落ちているのを見ると恐怖と混乱で駄々っ子の様に暴れていると、巨人の耳に酷く静かな声が聞こえた


「苦しませて悪かったな……だがこれで終わりだ……」


 その声が聞こえて来た時には、巨人の意識ははもう既になくなる寸前だった、最後にチンと乾いた音が聞こえると巨人の目の前は真っ暗になった。




「ミナト……君?」


 ユズリハは目の前で起こった出来事に頭が着いて行かないのか呆然とその光景を見ていた。あれほど苦しめられた巨人をミナトは圧倒した、ユズリハはその圧倒的な強さに恐怖を抱く、


(あれは本当にミナト君なの……?)


 恐怖を抱きながらも、ミナトから視線を外せないユズリハに気付いたのかミナトがユズリハを見た、その瞳はユズリハの知っている目だが、雰囲気が違うのを感じたユズリハは、恐る恐る声をかける


「ミナト君……だよね?」


「そうだよ? どうしたの? ユズリハ……」


 ミナトか普段通りの声で返事が返ってくる、しかし、それに妙な違和感を感じたユズリハは、ミナトを強く見つめると、


「ああ、気付いたか……さすがは女は勘が鋭いのう」


 ミナト口から、女性の声で言葉がもれる、それに驚きながらもユズリハはミナトの姿をした別人に話しかける


「ミナト君じゃないよね?貴女……誰?」


「フム……まだ言えんな……そなたがもう少し、こやつ(ミナト)と親しくなれば、おのずと私とも縁が深くなるはずじゃ、慌てずともそのうち分かる……それに心配せずともこやつ(ミナト)は無事じゃ、あの巨人を倒したと同時に意識を失ったからのぅ……まだ仕事が残っておるのいだらしない奴じゃ」


 ユズリハは何となく納得が行かない表情()で見つめるが、それ以上は何も答えそうもない


「はぁ……取り敢えずは納得しておきますけど……本当にミナト君は大丈夫なんですよね?」


 ユズリハは念を押すように聞くと、


「心配は無用じゃ、今は眠っているだけだ、暫くすれば目も覚める……じゃがその前に私は一仕事しなければいけないからのぅ」


 そう言って、地平の彼方を見つめる、ユズリハも釣られてそっちに視線を移すと、地平の彼方には土埃が見えた


「あれって……まさか……」


「フム」


 二人が見つめる先には、膨大な数のモンスターの群れが此方に向かって来ているのが見える


「なんで……暴走(スタンピード)の原因であるリーダーモンスターは倒したのに……」


 ユズリハは驚愕した様子で、此方に向かって来るモンスターを見つめている


「確かに、そなたらは群れのボスを倒したが……規模が規模じゃ、やはり急には収まらんさ」


「それじゃあ、暴走(スタンピード)は続くの? ボク達のやった事は無駄だったの?」


 ユズリハは目に涙を浮かべながら、隣に立つミナトの姿をした別人に問いかける


「そなたらが成した事は決して無駄ではない、私が無駄にはさせない……こやつ(ミナト)とも約束したからのぅ」


 そう言って、立ち上がると、モンスターの群れに向かって歩き始めようとすると、立ち止りユズリハに何かの小袋を渡してくる」


「これを持って、あの巨人が斧で大地に穿った穴の中で待っておれ…」


「何をするつもりなの? 一人であのモンスターを止めるつもりなの?ミナト君も承知している事なの?」


ユズリハは受け取った小袋を両手で握り締めると必死に問いかける


「そんなに一度に聞かれても、答えられん……じゃが、心配せずとも良い。私が行くという事は、もう事態は解決したと同じ事じゃ……」


「貴女は……」


 ユズリハは何かに気付いて口を開こうとすると、それを止められる


「おっと、それ以上は後の楽しみがなくなるぞ?取り合えず今はそこで大人しくしておれ……詳しい事はこやつ(ミナト)が目覚めた時にでもゆっくり聞け」


 そう言い残すと、ゆっくりとした足取りでモンスターの群れを目指し歩いていく。その後姿を見送ると、ユズリハは言われた通りに巨人が作った穴に入り、小袋を握りながら目を閉じる。


(次に目を覚ました時には、きっとミナト君が傍に居てくれるよね……もしボクを忘れていたり、置いていったりしたら許さないから!)


ユズリハは次に目覚めるのを楽しみにしながら意識を手放した。




 その日、始まりの都(インゼル・ヌル)の北の全フィールドに影響をもたらす程の大爆発が起こり、同地域で起こり被害が懸念されていた暴走(スタンピード)もこの爆発によって鎮静化、始まりの都(インゼル・ヌル)に迫っていたモンスターもその影響で散り散りになり、北の城門の前で数十匹のモンスターが現るだけで済んだ、それも、クライマー達よって素早く討伐され、始まりの都(インゼル・ヌル)への被害は無かった。


後に大暴走(グラン・スタンピード)とも始まりの都(インゼル・ヌル)の奇跡とも呼ばれる。

この事件は、大きな謎と奇跡を残しながらEOTCで永く語られる事件()になった。










清潔で寒い位に空調の効いた、広い部屋で一人の女性が端末に向かいデータを見ている。プシュッと言う音共に鉄製の自動ドアが開き、草臥れた感じの一人の青年が入ってくる


「主任!とうとう彼女が目覚めました、私たちの(システム)を撃ち破り、力の行使を確認しました!」


「そうかい……これで漸く全ての高位精霊達が目覚め、契約者を得たか……結構時間がかかったね」


草臥れた青年は白衣の下のポケットからタバコを出すと


「主任……ここは禁煙です!」


「おっと、そうだったね……しかし、何処に行っても喫煙者には厳しい世の中になったとは思わないかい?」


「知りません、私はタバコは吸いませんから」


女性の言葉に肩をすくめると、主任と呼ばれた青年は強化ガラスの向こう側に並ぶ、無数のカプセルを見つめると、ニヤリと笑い


「さて、それでは本格的に始めようか、EOTCの大規模アップデートはこれからが本番だ!」

一章終了です。


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