第14話
夏の熱い日差しに焼かれながら、皆人は自宅を目指し急いでいた。しかし、怪我が思いの他響いているのか一向に走る速度は上がらず、
皆人は膝に手を着くと荒い息で呼吸を繰り返す。そんな姿の皆人の肩に手を置き、冷えたスポーツドリンクを首に当てられる、皆人は驚き横を向くと大助が心配そうな顔で皆人を見つめていた。
「何やってんだ? そんなにボロボロの姿で……」
皆人は一つ息を吐くと、力なく笑って、その場にしゃがみ込んだ。
「なるほど、委員長を助けたのはいいが、自分が思いのほかボロボロなのに気付かず、それでもEOTCをする為に家に急いでいたが体力が尽き、ぶっ倒れる寸前で俺に助けられた……と」
通り面したコンビニの前のベンチに座りながら、大助が笑いながら皆人の今までの状況を解説する。
「その通りだけど、まるで僕がゲーム馬鹿みたいに聞こえるからやめてよ……」
皆人は客観的な事実を指摘され、自分の行動を改めて思い出すと、ちょっと無茶をしすぎたなと思い反省する。
「でも、良かったよ、今EOTCが臨時メンテナンスで入る事が出来ないなんて、知らなかったからさ」
「公式ページ位は見ておかないと、他のプレイヤーから馬鹿にされるぞ、そうじゃなくても攻略系ページも見てないんじゃ、いざと言うとき困るのは自分だぞ…情報を知ってると知らないじゃ全然違うんだからな」
大助は皆人にそう言うと、コンビニの袋から調理パンを出し、それを皆人に渡す。それを受け取ると袋を破り大きな口をあけて食べ始める皆人に、呆れ顔になりながらも、自分の分であったであろうトマトジュースも渡す大助。
「ありがとう大助、何でこんなに力が出ないのかと思ったらお昼食べてなかった……」
皆人はあっと今にパンを食べ終えると、トマトジュースを飲みながら大助に視線を送る、その視線に気付くと大助はコンビニの袋からおにぎりを取り出し皆人に渡す。
「いいか、これは貸しだからな! 何時か返せよ!」
大助はそう言いながら、袋から取り出したカップのアイスを出して食べ始める。二人は暫く無言で食べていると大助がニマニマしながら皆人に聞いて来る
「で、何処までいったんだ? 塔の都までは来たんだろ? 早速塔に入ったか? あっ、それと職業は何にした? LVは? それに今話題なのは猟兵からの上位職へ転職でな……」
「ちょっと待って、一度にそんなに聞かれても答えられないし、ゲームの攻略に関する情報はなるべく避けてよ!」
皆人は大助にそう言うと、手の中にあった残りのおにぎりを口に入れる。残ったトマトジュースでそれを一気に飲み込むと、改めて話を聞く体勢に戻る。それを見た大助もアイスの残りを一気にかきこむと、頭を抑え体を振るわせる。
「大助、慌てすぎ……そんなに急がなくても僕は逃げないよ」
「いや、折角身近にEOTCの事を遠慮なく語れる、友達が出来たんだ! この状況で語らないでどうする!」
大助は突然立ち上がると、コンビニに入っていき、ジュースとお菓子を買ってくる。ジュースを皆人に渡しながら本当に嬉しそうに話しかけてくる。
「で、さっきの話の続きだけどな…」
大助は本気でこの場所で語る事にしたらしく皆人は苦笑を浮かべつつも案外乗り気で喋り出す、それから二人は一時間ほど互いのゲーム状況を話し合った。
「まともにプレイしてるとは思ってなかったけど、初っ端から新職業を探すとか……どんだけ非効率な事してるんだよ」
大助は呆れながら、皆人を見つめると溜息を吐く
「そうは言うけど、まだ誰も達成してない事が、こんなゲーム序盤にあるなんて、凄い事じゃない?」
「確かに、新職業が見つかれば暫くは掲示板も、その話題で盛り上がるだろうけど…実際問題は新職業が本当に在るかどうかも分からないんだぞ、そんな未確定な事に時間をかけるより、さっさと既存の職業から選んだ方がゲームを楽しめそうだけどな…」
「そこは、プレイスタイルの違いって言うかね……」
皆人が少し困った顔で答えると、大助も苦笑を浮かべながら仕方ないか見たいな表情をすると、皆人に聞いて来る
「それで、もし新職業が見つかったら、その職業に就くのか? 皆人が想像しているのと全く違う職業かもしれないんだぞ?」
「うーん、改めて聞かれると確かにそういう事もありえるんだよね……」
「なんだ考えてなかったのか? 皆人自身はどんな職業に就きたいと思ってるんだ?」
皆人自身も其処は考えていたのか、はっきりと大助に言う
「近接系の物理攻撃職だね、それ位で、あとはそんなに拘りはないかな……」
「ふむ、という事は既存の職業だと戦士、盗賊の二職か……」
大助はそんな事を言いながら、一人考え込んでいる。皆人は少し温くなったジュースを飲むと、二人の座るベンチに広げられたお菓子を摘みながら、空を見上げる、太陽は頂点から僅かに傾向いているが、相変わらずの強さで地表を焼いていた。遠くの道路を見ると逃げ水が見え、夏特有の景色を皆人に見せていた。
「皆人は新職業が魔法系だったら、やっぱり既存の職業から選ぶんだよな?」
思考の海から戻ってきた大助が聞いて来る、その質問に躊躇う事無く答える皆人
「うん、多分そうなると思う……やりたいプレイスタイルを曲げてまで新職業に拘る気はないよ」
その返事を聞くと大助はニヤリと笑い、皆人に言ってくる。
「へへへ、旦那いい情報があるんだけど聞かない?」
「うん、聞かない」
「…………」
「…………」
二人は笑顔で見つめあうと、皆人は大助から視線を外すと強めの口調で言う。
「攻略系の情報でしょう? 僕はそういうのは聞かない主義だって知ってるでしょう?」
皆人はそう言ってベンチから立ち上がると、ストレッチ風に体を動かしながら歩く、体を動かす度に痛みに少し顔を歪ませる皆人、しかし、我慢出来ない程の痛みでは無いらしく、そのままストレッチを続けていく。大助は皆人の言葉に困った顔を浮かべながら、言葉を続ける。
「ちょっと待てって! 攻略系と言っても、皆人にはあまり関係ない話だから、聞くだけ聞いてけよ」
大助が必死に訴えてくるので、仕方なくベンチに戻って座ると、大助は安心したような顔で続きを話してくる。
「実はな、上位職がまた見つかったんだ、たぶん特定スキル指定か特定クエストクリアで転職可能な職業……吟遊詩人って分かるか?」
「それは、まぁ、ファンタジー世界での流しの音楽家でしょう?」
「認識的にはそれで間違ってないけどな……でもEOTCではかなりの優遇職らしいんだ…」
「らしいって……随分はっきりしない感じだね…」
大助の言葉に疑問をぶつけると、
「実は、今回の大型アップデートで実装されたみたいで、未だに転職に成功したプレイヤーはいないみたいだな……」
「なら、なんで優遇職って分かるんだよ、誰も転職に成功して無いなら、強さなんて分からないはずだよね?」
皆人の至極当然の疑問に、大助はニヤリと笑うと嬉しそうに種明かししてくる
「言ったろ、プレイヤーには居ないって……」
「もしかしてNPC?」
「正解! あるクエストで依頼してくる人物がこの吟遊詩人という職業に就いている。このNPCが結構強いんだよ!今までもNPCが就いている職業はプレイヤーにも転職可能な事が、ほぼ実証されているからな、吟遊詩人の職業は決定してるって事だな」
誇らしげに言ってくる大助に少し疑問に思った事を聞いてみる
「NPCが就いてる職業はプレイヤーにも転職可能な事はほぼ確定しているって事は……極少数プレイヤーが就けない職業があるって事だよね?」
「ああ……そこが気になったわけだ……あるよ、王様って職業だよ、いや最早称号に近いのかな……」
大助は暫く考え込むと、自分の考察を語りだす
「このEOTCってゲームは自由度が凄く高いんだ、ある程度ならゲームとして掟破りな事も出来る。そういう意味では凄くリアルに近いんだと思う、そしてこの王って職業は、そのリアルさが壁になって未だに誰も転職出来ないんだ…だって、プレイヤー自身で国を作って、自分が王様にならないといけないんだからな……」
「それが王という職業に就く方法……」
「たぶんな…実際に大手の検証系ギルドが、作ってるよ自分たちの国を…まだ村としか言えない様な規模らしいけど入植者を募って頑張ってるらしい」
大助は遠くを見るようにして話をする、皆人も空を見上げ国を作っていると言うギルドに興味を覚える何時か時間が出来たら尋ねて見ようと皆人は心にこの話を留め置いた。
大助は遠くを見つめていた視線を皆人に移すと、話を閉めにかかる
「この事から考察すると勇者や英雄なんてお決まりの職業も、実際にその称号に相応しい活躍をしたプレイヤーに送られる物じゃないかと俺は思っている訳だ」
「なるほど……勉強になったよ、確かに色々な事を知っておくのは悪い事じゃないね」
皆人のその言葉に、満足そうな顔をすると大助は携帯を取り出し時間を確認する、
「そろそろメンテ終了の時間も近付いてきたし、お開きにしますか」
そう言って、ベンチから立ち上がると、広げていたお菓子の袋やジュースのペットボトルを片付け始める。皆人も手伝いごみを片付けると、大助と皆人はコンビニを後にする。
「そういえば聞いてなったけど、メンテって何時に終る予定なの?」
「十五時終了予定、EOTCの運営はしっかりしてるから、メンテ延長なんて滅多にないからな」
大助は小さくなった、コンビニの袋から小さなパッケージを取り出す
「なにそれ?」
「ああ、EOTCとのコラボ商品、10枚トレーディングカードが入ってるんだけど、その内の一枚がアイテムカードなんだ、カードに書かれているパスワードをいれると、アイテムが貰えるんだ……ランダムで」
「課金ガチャ?EOTCにはそういうの無いって聞いたけど?」
「うん、無いよ、これだって月に登録できるパスワード数が決まっていて、それ以上は出来ないから……課金っていうより、本当にコラボ商品だな。こっちのトレーディングカードも凄く人気があるらしいから、集めてるEOTCプレイヤーも多いんじゃないかな?」
大助はアイテムカードだけ抜いて財布にしまうと、残りのカードをコンビニ袋に入れる
「大助は集めてないみたいだね、その様子から見ると」
「ああ、俺も嫌いじゃないんだけど、この手の趣味はお金がかかるからな…」
大助は遠くを見つめるている、それを見た皆人は何となく理由を察すると大助の肩叩く
「誰もが通る道だよ……大助だけじゃない……」
その言葉に大助は微笑むと、皆人に抱きついて来る。
「やっぱりそうだよな! 男なら誰でも通る道だよな! 決して無駄じゃなかったよな!! あのカードは!!!」
皆人は頷きながら、ポンポンと大助の頭を軽く叩く、大助は皆人の胸に顔を埋め体を震わせていた
『あら、若いわね……昼間から』
『相手の女の子、小さくて可愛いわね。』
『今夜は仲直りの夜戦(意味深)が激しくなりそうね。私も昨日に続いて頑張っちゃおうかしら……』
「昨日に続いて、また貴女達か!? あと最後の新藤さん家のおばさん、仲が良さそうで何よりです!」
通りを歩く主婦に声高に噂されながら、皆人は大助の耳を塞ぎながら突っ込みを入れた。
その後、大助と別れ、自宅に帰ると、母親から頼まれていた洗濯物を取り込もうとすると、バスタオルの陰に隠れて、色取り取りの下着が干されているの見つける、一瞬顔が赤くなるが、洗濯ばさみに挟まれた『縞々とピンクの紐が凪沙のよ!黒と白のレースがわ・た・し・の きゃっ!』と書かれたメモを発見すると、グッタリと肩を落とす。
「もう、どう突っ込んで良いのか、分からないよ海深さん……」
皆人は疲れた顔をしながらも、取り込んだ洗濯物を畳むと、風呂場に行きシャワーを浴びようと服を脱ぐ綺麗巻かれた包帯をみると、解くのは勿体無いような気がしたが、覚悟を決めて解くと温めのシャワーを浴びる、傷にしみたが、体を洗い、シャンプーもする頃になると、慣れて気にならなくなった。皆人は風呂から出ると、冷蔵庫からジュース出しコップに注ぐと、メモを取り出し夕飯は後で食べると書くと、それを冷蔵庫の伝言板に貼り付ける。消毒液とガーゼを救急箱から取り出し、解いた包帯を持って自分の部屋に戻ると、皆人は慣れた手つきで傷口を処置していく、五分程で処置を終らせると、テーブルに置いたジュースを飲み干し、時間を確認すると、皆人はspirt worldに横になると、カプセルの蓋を閉める
十五時になったのを確認すると、皆人はEOTCに向かうための言葉発する。
「ダイブ・スタート!」




