第13話
皆人の体に抱きついたまま、泣き続けた委員長は漸く落ち着いたのか目元を拭いながら、皆人を見つめると自分の今の体制に気付く、顔を真っ赤にして飛びのくが、まだ足腰に力が入らないのか膝から力が抜け腰から落ちて尻餅を着いてしまう。
「ああああ、あの、結城君、ほほ、本当にありがとうございます! もし結城君が居なかったら、私、とんでもない事になっていたかもしれません……」
委員長が尻餅を着いた格好のまま、皆人に礼を言ってくる。顔はまだ赤いままだが、見た目には怪我の様子がない事を確認すると、皆人はすっと視線を委員長から逸らす。その行為を不自然に思ったのか、委員長が聞いて来る。
「あの! 何か気に障ること言いましたか? 勿論こんな事態を引き起こした、私に対して何か思う事は在るかもしれないですが、それでも真剣にお礼を言う人から視線を逸らすのは失礼だと思います!」
委員長は至極当然の事を言ってくるが、それでも皆人は視線を委員長に合わせる事をしない、それを少し疑問に思い、更に皆人に言葉をかけようとする、委員長を皆人は無言で指をさしてくる。
「言い難いけど……さっきから見えてるから……」
委員長は皆人が何を言っているのか分からない様子で、指をさされた場所を確認すると、先程、尻餅を着いた時に立てた膝が制服のスカートを巻くりあげ、皆人の位置からだと見事にスカートの中が丸見えなのに気付くと慌てて、両手でスカートを押さえる。真っ赤になった顔に、先程、止まったはずの涙を瞳に浮かべ、委員長は皆人を睨む。
「見ましたね! 見たんですね!! 偶々今日がクマさんパンツなだけで普段はもっと可愛いのを穿いてるんですよ!! 本当ですよ!! 大人っぽいショーツ? だってはくんでしゅから!!!」
羞恥で混乱しているのか、委員長は言わなくて良い情報を皆人に噛みながら暴露していく。
「分かった、分かったから!! 落ち着いて委員長……」
「ふぅ~ふぅ~」
委員長は、まだ若干興奮気味な呼吸でいると、皆人が落ち着かせるように委員長に近付くと、先程までしていたように頭を撫でると、委員長は赤い顔をしながら俯いていく。暫くそうしていると落ち着いたのか委員長が神妙な顔で謝ってくる。
「ごめんね、結城君、助けて貰ったばかりか、気まで使ってくれたのを勘違いして……」
「気にしなくて良いよ、それより本当に痛い所とか無い? かなり派手に転んだから……今は興奮で痛みを感じてないだけかも知れないから……一応病院に行って診て貰った方が良いかも知れないよ?」
皆人は、尻餅を着いたままの委員長の手を取ると立ち上がらせる。その挙動に傷みを感じている素振りは無いが、あれだけの事があったのだ、いくら庇ったとはいえ、もしもという事がありうる以上、素人の皆人には、病院に行く事を進める事位しか出来なかった。
「本当にありがとう、結城君は大丈夫? ごめんね私、眼鏡を落としたみたいで良く見えてないの……結城君こそ大丈夫?」
「僕は平気だよ……少し擦り剥いてるくらいだから、それより委員長の眼鏡探さないと……不便でしょう? あれ? 見えてないのに良く僕だって分かったね?」
「あれだけ近くで見れば、幾ら目が悪くても顔位は分かるわよ……」
「あっ……そうだったね……」
先程までの互いの体勢を思い出し、顔を赤くすると皆人は、周囲を見渡して眼鏡を探し始める。そうでもしてないと間が持たなかったからだ、皆人は先程の出来事を思い出す、たぶん自転車から委員長を抱き上げた時に落としたのだと思い、皆人は委員長を抱きかかえた場所まで歩いて行くと、草むらの中にある眼鏡を見つけると、拾い上げ、壊れたいないか確認すると委員長のところまで戻り、眼鏡を渡す。
「ちょっとフレームが歪んだみたいだけど、レンズには問題ないから大丈夫だと思うよ」
皆人から渡された眼鏡を受け取り、委員長は眼鏡をかけると、頭を深く下げ改めてお礼を言って来る。
「結城君、本当にありがとう、これだけの惨事なのに、私も怪我してないみたいだし、これも結城君が助けてくれたおかげ……」
そう言いながら、下げていた頭を上げ、眼鏡をかけた目で皆人を見ると、委員長の顔が見る見る驚きに歪んでいく。
「結城君! その怪我……どうしてそんな怪我をしているのに黙っていたの!! 服のあちこちに血が滲んでるじゃない! ああ、服もボロボロに……早く治療しないと!」
委員長は慌てて皆人を座らせると、何かを探すような視線を辺りに向けると、柵にぶつかりフレームや籠の歪んだ自転車の傍にある、学生鞄を見つけると、一目散に取りに行く、鞄を持って、皆人の所に戻ってくると鞄の中から白い綺麗なハンカチを出して、一番目立つ左足の膝の擦過傷に当てようとする。
「委員長、そんな綺麗なハンカチを使わなくていいよ! 僕なら平気だから…」
「こんなにボロボロな癖に何を言ってるんですか! 速く消毒しないと治るものも治りません! ああ!! 消毒薬も無ければ、ガーゼもありません! これではまともな応急措置も出来ない……」
委員長は瞳に涙を溜めながら、懸命に皆人の傷を治療しようとするが、何も道具がない状況に悔しそうに唇を噛む。
「委員長、そんなに大袈裟にすること無いって! こんなの唾付けとば治るよ」
皆人はそう言って立ち上がると、体の痛みで体制を崩すと、慌てて横から委員長が皆人を支える。
「何を格好つけてるんですか!! そんなに痛そうなのに…無理しないで下さい!!」
委員長は少し涙ぐみながら、皆人を怒る、その怒りが心配から来るもので目に浮かぶ涙は自分のためだと理解した皆人は委員長を優しい顔で見つめながら苦笑を浮かべると、
「分かったよ、無理はしない。でも本当に大した事ないから……だから、泣かないでよ委員長……」
「本当に無理はしないで下さい……それに私、泣いてませんから!」
強がりを言う委員長を見て、皆人は微笑みながら
「うん、泣いてないね……」
と言うと、委員長は顔を赤くして、そっぽを向く。その意外に子供っぽい仕草に可笑しくなり、皆人が少し笑うと、委員長は益々顔を赤くしていまう
「そうだ! 私の家に行きましょう! 此処からならそんなに遠くは無いですし。結城君の家より近いですから……本当なら病院に連れて行きたいのですが……」
「それだけは勘弁して……今の委員長の家にお邪魔するって話も無しにして貰いたいのだけど……」
皆人は伺うように、委員長を見つめるが、それをニッコリと笑って却下すると、委員長は皆人を支えて歩き出そうとすると、
「痛っ……」
「委員長! 大丈夫?」
委員長が顔を顰めて、足首を押さえる。どうやら皆人の予想通り緊張と興奮で痛みを感じていなったのが気持ちが落ち着くにつれて傷みを訴えてきたらしい、皆人は委員長の腰を抱き支えると、ゆっくりと委員長を地面に座らせる。
「やっぱり……あれだけ派手に転んだんだ、無傷なんて事は無いと思っていたけど……ちょっと触るね委員長……」
皆人は委員長の靴を脱がせると、右足を押さえる委員長の手をゆっくりと外させると、患部に手を当ててみる、かなり腫れているのが靴下越しでも分かる、熱もかなり持っているようでそこだけ体温が高い。
「かなり強く捻ったみたいだね……これで良く立ち上がって歩く事が出来たね……」
「これこそ、結城君に比べればかすり傷よ……私は大丈夫だから……早く家に行きましょう」
そう言って立ち上がろうとする、委員長の肩を押さえつけると皆人は怒ったような顔で委員長を叱る
「無理はしない! 捻挫は場合によっては骨折より厄介なんだ! 無理をすれば癖になるし、良く治さないと後まで痛みを引くよ!」
皆人は、柵にぶつかって大破状態の自転車の状態を確める、フレームの歪みは確かに酷いが、タイヤが廻らない程ではないのを確認すると、曲がったハンドルと歪んだフレームを力任せ矯正すると、その自転車を引いて、委員長の元に戻ってくると、委員長に背中を向ける。
「何? どうしたの? 結城君……」
「背中に乗って、取り合えず土手の上まで行かないと……何処にも行けないでしょう?」
その言葉に委員長は、首まで真っ赤にして俯くと、小声で言う
「うう~ダイエットして置けばよかった……」
その声を聞こえない振りをして、皆人は委員長に言う
「ほら、速く乗って……何時までも此処にいる訳にはいかないでしょう」
「結城君、私重いかも知れないよ……ううん……かもじゃなくて確実に重い……」
自ら、自己申告して気を使った皆人の心遣いを無駄にする委員長に可笑しくなりながら、皆人は言う
「大丈夫! 委員長みたいな可愛い子を、おんぶ出来るんなら僕は気にしないよ、それに委員長小柄だし重いなんて事ありえないよ」
委員長は皆人の言葉に、一瞬呆気に取られると、次の瞬間には一気に全身が赤くなる
「ゆっゆっゆ、結城君!!! そんな恥ずかしい事言わないで!! 私、その…免疫ないんだからそういう事言われるの凄く困る!!」
委員長は、またも自爆気味に言わなくて良い事を暴露する。皆人は今まで持っていた学校での委員長の固くて真面目なイメージが良い意味で崩れていくのを感じた。
「分かった、もう言わないから……それより早く乗って、委員長の家、僕は知らないんだから案内してもらわないと行けないよ」
皆人のその言葉に漸く観念したのか、委員長は皆人の肩に手をかけながらゆっくりと体を預けてくる
「本当に重いんだからね……後悔しても遅いんだからね!」
「大丈夫、委員長は、全然重くなんて無いよ」
皆人はそう言って委員長が背中に乗ると立ち上がる。
「ぐっ、委員長……意外に……」
「何? 結城君?」
「な、なんでもないよ!!」
背中に感じる委員長の胸の感触が意外に大きくてびっくりしたとは言えない皆人だった。
皆人は委員長を背負うとゆっくりとした足取りで土手を登ると、設置してあるベンチに委員長を降ろし、自転車を取りにもう一度土手に下りて行く。自転車を押しながら土手を登り委員長の座るベンチまで戻ってくると、自転車の荷台を指差すと。
「乗って、委員長、僕が自転車を押すから道案内よろしく」
「でも、結城君も怪我をしてるのに……」
「怪我をしている、女の子を歩かせるなんて出来ないでしょう? 男としてはさ…」
「ごめんね……本当にありがとう……」
委員長はそう言ってから自転車の荷台に横座りで乗ると、皆人は自転車を押しながら土手を歩いていく。
「それで、委員長の家ってどの辺りなの?」
「この土手を少し行って、降りたら直ぐだよ…言ったでしょう? 結城君の家より近いって」
「そうなんだ……あれ? でも良く委員僕の家の場所知ってるね?」
「そそそそ、それは! ク、クラスの連絡網を見ていたら、憶えただけよ!!」
「そっか、クラス委員て大変なんだな、住所をまで覚える必要があるなんて」
皆人は感心していると、委員長は荷台の上で顔を赤くして俯いている。土手のあるスロープを下りると。住宅街に出る、この辺は新興の住宅街で利便性が良いと評判の場所だ、だからそれなりの価値があり、所謂お金持ちが集まる区画としても有名なのを配達のバイトの時に教えて貰ったの思い出す。綺麗で敷地面積の大きい家が立ち並ぶ住宅街の目抜き通りを、自転車を押しながら歩いていると。
「見えてきたわ、あれが私の家だよ」
荷台から委員長が指差す場所には、この住宅街の中でも飛び抜けて大きい家が建っており、皆人は暫く呆然とすると。
「委員長って、お嬢様だったんだ……」
「やめてよ、そんな柄じゃないわ…結城君、自転車は玄関の脇にでも止めておいて、私、お手伝いさんに救急箱の場所聞いて来るから」
そう言って、荷台から降りようとすると、やはりかなり痛むのか右足を地面に着けないでいると、皆人は委員長の元に行くと、
「ちょっと、ごめんね……」
謝ると、委員長を抱きかかえると
「えっ? 何? きゃあ!」
いきなりのお姫様抱っこに委員長は驚き、皆人の首に手を回す。それを確認すると皆人は玄関でチャイムを鳴らそうとするが両手が塞がっているので、委員長を見つめると、委員長がその視線の意味を理解したのか首から手を離し皆人の変わりにチャイムをならす、
『はい、どちら様でしょうか?』
「私、ちょっと転んでしまって手当てをしたいから、救急箱をお願いできる?」
ドアマイク越しにそう言って委員長は鍵の開いた、ドアノブを握ると扉をあける。皆人もその動きに合わせるように中に入ると、広い玄関の入り口には一枚の絵と、綺麗な花が生けてあり、その花の香りが薄く漂っていた。皆人は恐る恐る委員長を抱えたまま、玄関からリビングらしい広い部屋にある、ソファーの上に委員長を静かに降ろす。
「大丈夫? 委員長……?」
ソファーに座ったまま微動だにしない委員長を不思議に思って声をかけると
「えっ? ええ、私は大丈夫! 平気なんだから、お姫様抱っこにウットリしていたなんて事は、欠片も無いわ」
委員長がまた自爆していると、幾つかある扉の一つから、一人の綺麗な女の人が救急箱を持って現れる
「双葉様、お怪我をなさったんですか? 直ぐに応急処置をして病院の手配をします!」
「神流さん、私は大丈夫、ただ足を捻挫しただけよ、それより結城君の手当てをするから救急箱を貸して」
神流と呼ばれた女性は皆人を不審な目で見ると、委員長に救急箱渡す、そしてそのまま委員長の直ぐ傍に立つと此方を威圧しながら観察してくる。綺麗な女の人が威圧して来るのが怖いのは、星奈先輩で知ってはいたが、久しぶりに受けるその視線に皆人は苦笑を浮かべていると
「神流、此方の方は、私の命の恩人なの、そういう態度は許さないわ」
委員長はそう言って神流を嗜めると、神流は無表情な顔で頭を下げると、無言で先程出てきた扉からリビングを出て行く。
「ごめんね、結城君、神流さんは、親から家の留守を任されているから……その責任でああいう態度を取ったの……」
「僕は、全然気にしてないよ、でも良いの? なにかちょっと怒ってる感じがしたけど……」
皆人はリビングを出て行った事を心配するように、委員長に聞く
「良いの、彼女も頭を冷やしに行ったんだと思うわ、それに後でちゃんと私が説明しておくから!」
「でも、さっきの委員長、凄くお嬢様ぽかったよ」
「やめて、公の場では、ああ言う物言いを求められるから仕方なく憶えただけの唯の飾りよ」
委員長は何処か怒ったように言うと、心配そうに見つめる皆人に気付くと、一転笑顔を浮かべると
「さぁ、速く手当てしましょう。見ていて痛々しくて仕方ないから……」
そう言って、皆人の治療をしようとする、それを止めると皆人は委員長の前に行くと
「僕より、委員長の手当が先! ほら、足を貸して…こう見えてもこういう処置は慣れてるんだ」
「でも……」
「いいから! ほら靴下脱がすよ!」
「きゃっ!? こら!いきなり足を掴むなぁ……」
皆人は救急箱を見ると、ありとあらゆる器具と医療薬品が入っているのを確認すると、冷感シップを取り出し、大きさを調整して切ると患部に貼る、その後、患部を圧迫しながら包帯を巻き、最後に医療用テープでしっかり足首を固定していく
「本当に慣れているのね……」
委員長は皆人の応急処置の的確さに感心していると。皆人が応急処置を終え委員長に声をかける
「後は、アイシングしておけば、取り合えず大丈夫だと思うけど、今日中に病院に行った方が良いよ」
「ありがとう、随分と楽になったわ。今度は私が結城君の手当てをしてあげる」
委員長は救急箱から消毒液を出して、笑顔を浮かべる、その笑顔に若干引き攣りながらも皆人は笑顔で『オテヤワラカニ……』と言う事しか出来なかった。
委員長の手厚い看護も済むと、皆人は立ち上がる
「そろそろお暇するね委員長、ちゃんと病院に行かなくちゃ駄目だよ?」
「えっ? 助けて貰ったお礼もまだしてないのに……」
「そういうのは良いよ……あと、ちゃんと自分の乗る自転車は整備しておく事!」
皆人は委員長にそう告げるとリビングを出て行こうとする。その時後ろから委員長の呼び止める声が聞こえてくる。
「それじゃあ、私の気が済まないの! 絶対にお礼はするから……覚悟しておいて」
そんな捨て科白めいた事を宣言すると、委員長はそっぽを向く、皆人は苦笑を浮かべると
「それじゃあ、委員長お大事にね、それとありがとう手当してくれて、僕としてはこれが十分にお礼になってるよ……またね委員長、お邪魔しました」
皆人はそう言ってリビングを出て、広い玄関から外に出ようとすると。またも後ろから呼び止められる
「お待ち下さい。結城様……」
神流と呼ばれていた女性が皆人を呼び止めると。大きな包みを手渡してくる
「これをお受け取り下さい」
「要りません、委員長にも、そういうのは遠慮すると言って置きましたから……」
皆人は差し出された包みを受け取らずに、帰ろうとすると
「それでは私が叱られてしまいます。詳しい事はまだ存じ上げませんが、命の恩人と双葉様は仰っていました。その様な人に何もせずに帰らせてしまったなどと言えば、叱責は免れません。どうかお納め下さい」
神流は本当に困った顔で、皆人にそう告げると包みを渡そうとする。皆人もそう言われると断り難いがやっぱり包みを受け取るのは違うような感じのする皆人は神流に頭を下げると
「お気持ちは分かります、神流さんの立場からすれば当然の事をしているだとは思いますが……やっぱり受け取れません。唯、友達を助けたと言う行動には、そういうものは不要な気がしますから……」
皆人がそう言って、受け取りを拒否すると神流は包みを下げる。
「結城様のお気持ちを大事にして、この場は引き下がります。ですがせめて、連絡先だけはお教え願えないでしょうか?」
「僕の? それなら委員長が持っている連絡網に家の電話番号が……」
「いいえ、結城様、個人の連絡先をお願いします。お家の方に知られるのは、今の結城様のご様子からあまり望まないのでは思いましたので」
皆人は、神流のその言葉に頷くと、携帯を出すと番号を渡そうとすると
「すみません、双葉様にも教えて差し上げても宜しいですか?」
神流は皆人にストップをかけるとそう言ってくる。
「なんで? 委員長なら僕の連絡先知ってるよ連絡網で」
「ですから、結城様個人の連絡先です……」
神流は疲れたように言うと、皆人を見つめ言ってくる
「今回の件は、きっと双葉様のご両親にも知られると思います。それなのに助けられた本人が、恩人の連絡先を知らないのは流石に不味いと思いますので」
皆人はそういうものなのかと納得すると、改めて携帯を操作して連絡先を送ろうとすると、また神流からストップがかかる
「暫しお待ち下さい。双葉様から携帯をお借りしてきますので」
「そんな事しなくても、貴女が直接教えてあげれば良いのでは?」
「結城様は、大変鈍感な方なのですね…とても残念です」
いきなり失礼な事を言うと、神流はリビングに戻っていく、中で何か揉めている様な声が微かに聞こえるが防音がしっかりしていて此処からでははっきりと聞こえない。皆人はそのまま暫く待つと、リビングの扉が開き中から、神流に支えられた委員長が一緒に出てくると。
「ちゃんとお礼もしたいから……結城君の携帯の連絡先、聞いても良い?」
何故か顔を赤くしながら聞いて来る委員長に、皆人は頷きながら携帯を操作して番号を交換する
「あの、メールも教えてくれると嬉しいな……」
さらに委員長が恥ずかしそうに小声で聞いて来るので、空メールを送る。携帯の画面を見ると嬉しそうに笑い、携帯を大事そうに仕舞う。皆人はもう一度同じ操作をして、神流とも番号交換すると、今度こそ委員長の家を出ようとすると
「結城君、今日は本当にありがとう、また連絡するから……」
「結城様、後日必ず連絡致しますので、よろしくお願いします。」
そんな言葉と共に二人に見送られながら、皆人は玄関を開けると外に出ると、ドアを閉める前に改めて皆人は言った。
「お邪魔しました。委員長も安静にしてなよ!」
「ありがとう、結城君、またね!」
委員長のその声を確認すると皆人は玄関の扉を閉めた。
外に出ると、夏の暑い日差しが真上から皆人を照らすと、その眩しさに目を細めながら携帯で時間を確認すると、皆人は慌てて走り出す。
「不味い、遅刻かも……」
ユズリハとの約束のお昼を食べた後でと言う、曖昧な待ち合わせ時間を思い出し、皆人は走る速度をさらに上げるのだった。




