第11話
ミナトの弓から放たれた矢が突き刺さると光と共に猪型のモンスターは消滅する。ドロップアイテムが現れ夜露に濡れた草原の地のフワリと落ちる。魔法のカンテラの光で照らされた空間には其処彼処にアイテムとこの世界の貨幣である銅貨が散らばっている。今まで戦闘を行なっていたミナトが弓を構えたまま森を見つめている、モンスターが襲ってくる気配がなくなるのを確認すると、深く息を吐き、構えていた弓を降ろす。
「今ので最後みたいです。ユズリハさん一休みしても良いですか? 流石に疲れました……」
ミナトは暗闇に向かって声をかけると、そこからユズリハが現れる。周囲を見回しながら呆れた様な顔をするとミナトに近づいてくる。
「ミナト君……貴方一体何者なのですか? これだけの戦闘が出来る人なんてそうそう居ないですよ」
ユズリハはミナトを軽く睨むと、真剣な顔をして聞いて来る。
「何者って言われても……今日初めてEOTCに参加した新規プレイヤーですけど?」
「聞き方が悪かったみたいだね……ミナト君が新規プレイヤーなのは知ってる、ボクが聞きたいのはどうして此処まで戦い慣れているのかって事!」
ユズリハは少し怒った様な声でミナトを問い詰める、
「えっと、これ位は誰にでも出来る事でしょう? スキルアシストがあるんだから……」
「はぁ~、君はスキルを初期に獲得したものしか持って無いでしょう? なのに何を一人で無双してるんですか……理由を教えなさい!!」
ユズリハは不思議そうな顔をしているミナトを見て、呆れると溜息を吐きながらミナトが行なった戦闘の凄さを説明する
「いいかい? まずVRでの初めての戦闘は怖いんだ、初心者は慣れるまでに、それなりの時間がかかるものなんだ……現にボクも戦闘に慣れるまで結構な時間がかかったし……それにもっと驚いたのは、ミナト君の継戦能力だよ。あれほど長い時間一人で戦い続ける事が出来る初心者なんて、見た事も聞いた事もないよ……」
ユズリハはそう言って、ミナトを見つめると答えを待つかのように黙り込む。
「そう言われても、僕としてはそんなに難しい事をしたつもりはないのだけど……」
「…………それならミナト君は、何の経験もないのに此処までの事が出来たと言い張るんだね?」
ユズリハがいい加減爆発しそうなのを察すると、ミナトは心当たりのありそうな事を口にする
「ちょっと待って下さい! 経験と言われれば小学校から中学まで近くにある道場に通っていました。そこで色々と修練したのがこの世界で生かされてるのかも……」
「なるほど、道場通いですか……それだけとは思えないですけど……でも、ミナト君がこれだけ強ければ、時間の短縮もできるし、取り敢えずは納得しておこう」
そう言って、これからの予定を考え直しているのか、ユズリハは自分の思考に沈んで行き、それを見てこれ以上の追求がない事にミナトはホッと息を吐くと。地面に散らばっているアイテムを拾い集める。こういう作業も手動な所が変にリアルでミナトは笑う。
全部拾い集めると、アイテムストレージにはそれなりの数のアイテムが並んだ。(狼の牙)(猪の毛皮)などはかなりの数になっている。ミナトはステータス画面を開くと自分のLVを確認する
「わぁ! 結構上がったなぁ……ユズリハさん、目標のLVは幾つなんですか?」
ミナトはユズリハに尋ねると、まだ思考の中から帰ってこないらしく返事が無い、ミナトは溜息を吐くと使った矢を回収していく。どれも壊れた様子も無く使用に問題は無さそうと判断し、矢筒に収めていく
「ミナト君、LVは幾つになったの?」
突然の声に、少し驚きながらミナトは先程確認したLVを告げる
「LVは6になってたよ、結構簡単に上がるんだね?」
ミナトの言葉に苦笑を浮かべながら、ユズリハは今後の予定をミナトに伝える
「ミナト君が、ここまで戦えるなら、かなり今後の予定が短縮できそうだよ、さっきミナト君が聞いてきた目標はLV20!このままのペースで戦えば、明日の夕方には達成出来そうだよ」
「良かった……三日と時間を区切ったから……もしかしたら時間が足りないかも知れないと思ったから……」
ミナトはホッと息を吐くと、ユズリハに笑顔を向ける。その笑顔に答える様にユズリハも微笑む。
「うん、時間的余裕が出来たのは良い事だよ! 無理をしないで安全に戦えるからね! 一回でも負けたら、今までの経験値が全損してしまうんだ…慎重に行こう、ミナト君もあまり無理をしないようにね」
「了解、それじゃあまた始めようか、ユズリハさん、援護をお願いします!」
ユズリハは頷くと、モンスター寄せの匂い袋を仕掛けると、また夜の暗闇に紛れていった。匂い袋の効果が表れると再びモンスターがミナトを襲う、ミナトは無理をしない様に十分に安全管理をしながら、またモンスターとの戦闘に集中して行く。そうして二人は夜が明けるまで戦闘を繰り返したのだった。
東の空から、夜の闇が少しづつ薄くなり、空が紫紺に染まる頃、ミナトとユズリハの戦闘は終了した。アイテムが切れてこれ以上の戦闘が続行できなくなったのだ。その事にユズリハは苦笑を浮かべながらもミナトを賞賛した。
「本当に凄いよ……ボクの援護なんて要らなかったんじゃない?」
「そんな事ないよ、何回か危ない場面で助けてくれたじゃない……これだけ戦闘を繰り返したのに集中力を落とさないで最後まで援護してくれて……凄く心強かったよ!」
ミナトはユズリハに礼を言うと、笑顔を向けてくる。その笑顔に照れたように笑いユズリハは首を振る
「ううん、ボクは唯、見ていただけだから……ずっと戦闘を繰り返して少しも集中を乱さなかった、ミナト君の方がやっぱり凄いよ」
ユズリハにじっと目を見つめられながら賞賛されると、ミナトは顔を赤くして俯いくと、照れ隠しなのかドロップアイテムを拾い集める、ユズリハもその作業を手伝いながら、ミナトの横顔を見つめる
(本当に凄い子だ……少なくとも私なんか相手にならない位強い……このまま行けば、大手の攻略系ギルドに目を付けられてもおかしくない……)
ユズリハは少し自分が寂しがっているのに気付き、その心理を分析すると思わず顔が赤くなる
(この三日でお別れなのが、ボク自身寂しいと感じてる……これからも一緒に居たいって思ってる……可笑しいな出会ったばかりなのに……)
赤くなった顔を俯かせると、ユズリハは目を閉じて首を小さく左右に振る気持ちを切り替えるためにドロップしたアイテムを拾う事に集中しているとミナトから声がかかる。
「ユズリハさん、LVが上がったのにSTポイントが溜まってないんですけど……」
ミナトの声が情けなくなっているのに気付き、ユズリハは可笑しそうに笑いながらもミナトの疑問に答える。
「一般って言う職業は、STポイントの振り分けが出来ないんだ、ランダムでどれかの能力値が上がってるはずだよ……まぁ、上昇するポイントも少ないから、今一歩強くなったという感想を持ち難いのも、新職業を探そうとする人達のモチベーションを下げている要因の一つだと思う……」
「ううっ、折角LVが上がったのに……確かにこれは気持ちが落ち込みますね…」
ミナトの言葉に苦笑しながらも、アイテムを拾う手を止めずにユズリハは困った顔で言う
「ボクもそうだったよ、やっぱりLVが上がっても強くなった実感がないと悲しくなるよね」
ユズリハの言葉に頷きながら、ミナトはステータス画面を改めて見つめる。
キャラクター名 ミナト・ユウキ
LV 16
種族 ハーフエルフ
年齢 17歳
性別 男
血液型 A型
職業 一般
基本能力値
HP 15/12
MP 25/25
筋力 19
体力 11
器用 19
速さ 25
知力 17
精神 20
魔力 29
運 24
残りSTポイント 0
アビリティ ≪精霊一体化≫
スキル 効率行動LV1
契約精霊 ????
確かにステータスが少し上がっているのが分かるが、ランダム上昇のお陰で自身が上げたかった能力とは別のものが上がっているのを見て、溜息を吐くミナト。
「はぁ~、でもこのステータスの振り方って、極振りが良いのかな? それともバランス型?」
「その辺は、人それぞれだね、生産系のキャラだと極振りの人が多いみたいで、戦闘系キャラだと、バランス型で能力値のどれか1つに大目に振っていくのが主流みたいだね」
ユズリハはミナト一人言に近い問い掛けにも丁寧に答えると、その言葉にミナトは考え込む仕草をする
「なるほど、バランス型が主流なのか……それじゃ戦闘系の極振りって何が駄目なの?」
ミナトは今度はちゃんとユズリハを見ながら質問する。その質問に考えながらユズリハは答える
「駄目って言う訳ではないんだけどね……このEOTCは、武器や防具の装備条件に、LVの他に各能力値の一定数値が求められるんだよ……だからどうしても極振りだと装備面で不利になるからね……」
「そういう理由なら仕方ないか……幾らLVが上がってもゲームの世界では最終的にものを言うのは装備の良し悪しだから……プレイヤースキルで補うにしても限界もあるし……なるほど、そう言う理由で戦闘系はバランス型が主流なんだね」
ミナトは納得した顔で頷くと、自分のステータスを改めて、見つめるていると、東の空が明るくなり、太陽が昇り始め、空の色を紫紺から蒼へと変えて行く。
「夜明けだ。久しぶりに徹夜でゲームをしたよ。やっぱり楽しいね! こう言うのって!」
ミナトは朝方の高いテンションでユズリハに話しかける。それに少し戸惑いの色を見せながらも、ユズリハが微笑み頷くと
「うん、やっぱりこういうのもゲームの醍醐味だよね!」
二人はそうやって暫く楽しそうに笑い合っていると、空は完全な青空になり、朝の涼しい風が木々の間をすり抜けながら、二人の元に届くと緑の匂いと少しの花の香りを届けてくれる、その空気に深く深呼吸すると、ミナトのお腹が鳴る。
「そういえば、お腹減ったなぁ…」
ミナトの言葉にユズリハも同意すると、懐から懐中時計を取り出し時間を確認する。
「一回落ちて休息を取ろう。そしてお昼頃から始めれば、夕方には目標LVに達する事ができると思う。ミナト君もそれで良いかな?」
ユズリハの問い掛けにミナトは頷くと、弓をアイテムストレージに収納すると周りを確認して、忘れ物がないのを見て取ると、周囲に置かれた魔法のカンテラを集め始める。
「ああ、ありがとうミナト君」
そう言うとユズリハも集め始める。数はそれ程多くは無いので直ぐに集め終わると、ミナトは自分の集めた分を渡すと、ユズリハはそれをアイテムストレージに収納して行く。
「さて、後片付けも終ったし、インゼル・ヌルに戻って落ちようか?」
それに頷くと、ミナトは始まりの都に向かって歩き始めると、後ろから近付いてきたユズリハが隣に並ぶと、少し微笑み、そのままミナトの隣を歩き始める。二人はそのままゆっくりとしたペースで都までの道のりを散歩するように歩いていった。




