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Interlude actual world Ⅰ

お兄ちゃんにお休みの挨拶をして、自分お部屋に戻る机に座り、抽斗から日記帳を取り出し今日の出来事を丁寧に書いていく。


「えへへ、今日は嬉しい事がいっぱいあったなぁ……お兄ちゃんとあんなに長い時間過ごしたのは、久しぶりだったから……」


私のにやけた顔が近くの鏡に映ると、そのダラシナイ顔に思わず自分自身で引いてしまう、相変わらず家だと隙が多いと感じ、表情を引き締めると日記に集中していく、しかし、今日の出来事を思い出しながら日記に綴って行くと、どうしても顔がにやけてきてしまう。


私は少し落ち着くために、昔の日記帳を本棚から取り出し読み返す。これは私の癖で嫌な事や落ち込んだ事などがあると、何時もする精神安定の儀式の様なものだ。何故か昔の日記を読んでいると気持ちが落ち着いて、嫌な事を忘れる事が出来たのだ。


「今日はどの辺りを読み返してみようかな……?」


私は取り出した何冊かの日記帳から一際古い絵日記帳を手に取る、これは私が日記をつけ始めた記念すべき一冊目だ、何せ今からもう十年近く前のモノだ、大事にしてきたとはいえ表紙や装丁に汚れや傷みが目立つ、その絵日記帳を丁寧に静かに開くと、そこには子供ならではの極彩色で描かれた絵と解読が困難な字である日の出来事が書かれていた。


「あっ……この日は……」


私はそこに描かれた食卓をを囲む四人の楽しげな姿に、思わず涙が溢れそうになる、この日は私と母にとって忘れられない日になった、本当に思い出深いクリスマスだったのだ。私は日記帳を見つめながら当時の事を思い出す。


その日はクリスマスだったのだが、私の家ではクリスマスツリーを出す事も無く、赤や緑のオーナメントが飾られる代わりに、白と黒の大きな幕が飾られていた、その日は私とお母さんが、お父さんとお別れをした日だった。


クリスマスを控えたある日、私のお父さんは交通事故で亡くなった…私と同じ年くらいの女の子を助けようとして事故に合ってしまったのだ、その時、私は保育園でお母さんの迎えを一人で待っていたのだと思う、お兄ちゃんは卒園して居なかったので私は当時何時も一人だった。そんな私に保育園の先生が慌てた様子で何か言ったような気もするが、そこから私の記憶は曖昧になっている。


私のその次の記憶は、お母さんに手を握られお線香の匂いのする部屋で寝ているお父さんの姿を不思議思いながら眺めていた事だ。私はお母さんに≪お父さん、こんな知らない所で寝てないで家で眠れば良いのに≫と言った記憶が残っている。

 お母さんは、そうだねお父さんを連れて帰ろうと言って、私の手を痛いほど握ったのを憶えている、その時も母は泣いていなかった。


 そこからまた私の記憶は飛び、大勢の親戚の人達に囲まれ、何か色々な話を聞かれた場面が思い出されるが殆ど憶えていない、ただ母だけは何かに抵抗するような顔で親戚の人達を見ていた気がする。唯一、憶えているのがそんな私とお母さんを心配そうに見ている、お兄ちゃんと洋おじさんの顔だけだ。


 次に記憶から出てきたのは、綺麗なお花に囲まれたお父さんの大きな写真が飾られた広い会場に並べられた椅子に座り、隣に座るお母さんに手を握られている場面になる。この時になって漸く私はお父さんが死んでしまった事に気付いたのかも知れない、自分でも滑稽だと思うが当時見ていたアニメで同じ様なシーンを見た事があったからだと思う。そこから私は泣き続けた…そんな私をお母さんは励まし、時には抱き締めてくれた事を良く憶えている…しかし此処でもお母さんは泣いていなかった……


 ここから一気に私の記憶はクリスマスの夜まで過ぎてしまう、泣き疲れた私は、お母さんの手を握りながら寝ていたのだが、ふと目が覚めると隣で寝ていた筈のお母さんが居ない事に気付いて、私は自分の部屋から出てお母さんを探しに行ったのだ、階段を降りてダイニングに行くと明かりが点いていたので私は安心した、お父さんが居なくなり、今度はお母さんまで居なくなってしまったのかと心配だったのだ。


 ダイニングのドアに近づくと、ドアが少し開いているのに気付いてそっと中を覗いたら、お母さんが体を震わせ、声を殺して泣いていたのだ、私に気付かれないためだろう、涙を流しながら、唯、ひたすら歯を食い縛り声を必死に殺して泣いていた。


 私はその姿を見ると、走って近付き、お母さんを抱き締め一生懸命慰めた、今日まで私にお母さんがしてくれた事をしてあげようと、子供心に必死だったのだろう…でも、当時の私は幼過ぎたのだろう、泣いている母を見ている内に自分も泣き出したのだ、それも大声をあげて…その声にお母さんも我慢出来なくなったのか、私を抱き締めると声をあげて泣いた…私とお母さんがそうして泣いていると、


 家の庭に面する窓が叩かれる音に気付いた…その音のする方向をみると、隣に住んでいたお兄ちゃんが真剣な顔で私とお母さんを見ていた。お母さんが私を連れ、勝手口を開けると、お兄ちゃんが中に入ってくると、突然私とお母さんの手を取って自分の家に歩き出す。私達は驚きながらも手を引くお兄ちゃんに着いて行く、お兄ちゃんの家の玄関を潜りダイニングに向かいそのドアを開けるとそこには綺麗に飾り付けられたクリスマスツリーと、赤や緑のクリスマスオーナメントが所狭しと飾られた凄く煌びやかな空間に私とお母さんはあっけに取られる。先程まで二人で声をあげて泣いていたのに、お兄ちゃんの家に来たら、クリスマス真っ最中、この落差に私とお母さんは溢れていた涙も止まる。

そして、そこに洋おじさんが現れ、テーブルに大きいクリスマスケーキを置くと、椅子を引いて私とお母さんを誘う、戸惑いながらも席に着くと、洋おじさんが口を開く


「僕達が今している事は、一般には褒められた事ではないのだと思う、故人を想い、その思い出に浸る大切な時間なのだろう、でも、それでも僕達は、あんな悲しい泣き声で、この聖夜を過ごす事になる君達母娘を放って置けなかった、どうぞ、常識知らずとなじって良い。あんな馬鹿とはもうお付き合いは出来ないと思ってもらって構わない、それでもどうか……このクリスマスが終るまでは、僕達、馬鹿で常識知らずの父子のクリスマスに付き合っては貰えないだろうか?」


 洋おじさんの言葉にお母さんは、止まっていた涙を溢れさせ、私もこの今の気持ちを持て余し涙が流れるお兄ちゃんと洋おじさんは、優しい顔で私たち母娘を見つめると、手作りの料理をテーブルに並べていく。

 お母さんが手伝おうと立とうとすると、今日はお客さんだからと言ってお兄ちゃんがお母さんを止める手伝わせて貰えなくて困った顔をして私を見つめていたのを良く憶えている、大皿にのったスパゲッティに、鶏のから揚げ、ふわふわの卵の乗ったオムライス、色取り取りの料理が並べられ、あっという間にテーブルがいっぱいになる。


 その光景は本当にクリスマスっぽくて、幼い私は目を輝かせてそれを見ていた、そんな私を見てお母さんも笑顔を浮かべる、さっきまで泣いていたのが嘘のように自然と笑顔を浮かべる事が出来るようになっていたのだ、そこからは本当に楽しかった、洋おじさんは手品を披露してくれて、私とお母さんはその腕前に拍手喝采、お兄ちゃんも近所の道場で習っているという剣の演舞を見せてくれた。私もお礼という事で歌を披露したが余り上手に歌えなくて苦しんでいると、お母さんやお兄ちゃん、洋おじさんまで一緒になって歌ってくれた。

 楽しい時間は過ぎるのが速いとはよく言ったもので、あっと今に夜の十二時を過ぎようとしていた、クリスマスが終ってしまう、この楽しい時間が過ぎて、またあのお父さんの居ない寂しい家に帰らなければ行けない…私は悲しくなりまた涙が溢れてくるのを止められなった…そんな私にお兄ちゃんが綺麗にラッピングされた包みを渡してくれる。


「サンタクロースもきっとプレゼントをくれると思うけど、これは僕からクリスマスプレゼント……自分のお小遣いで初めて買ったプレゼントなんだ! 大事にしてくれると嬉しいなぁ」


 そんな風に少し照れながら、渡してくれたプレゼントを私は直ぐに開けたくて仕方無かった、お母さんを見つめ、お兄ちゃんに視線を送ると…


「開けて良いよ」


 そう言ってくれたのを聞くと私は急ぎながらも丁寧にラッピングを解いて行く、そこには綺麗なピンク色に装丁された絵日記帳が出てきた。私は嬉しくてその絵日記帳を抱き締めるとお兄ちゃんにお礼を言う


「凄く可愛い! 大事に使うね! お兄ちゃん!!」


 私は、先程までの寂しい気持ちも忘れ、絵日記帳を見つめていると、洋おじさんが私の頭を撫でながら


「その日記帳が、楽しい思い出でいっぱいになったら、お父さんに教えてあげると良い、凪沙ちゃんは幸せに暮らしているよって……天国に居るお父さんに報告してあげるんだ、そうすればきっとお父さんも凪沙ちゃんも寂しくないからね……」


「うん、私この日記帳に楽しかった事いっぱい書くね、そして、それをお父さんに教えてあげるんだ!」


私は大きな声で返事をすると、洋おじさんは笑顔を浮かべると撫でてくれた頭に青いカチューシャをしてくれる。


「これはおじさんからのプレゼント、もう立派な女の子だもの、オシャレに気を使わないとな!」


 おじさんはそう言って、最後にまた私の頭を撫でると、今度はお母さんに何かを渡していた。それを受け取る、受け取らないで、少し揉めたが、お兄ちゃんもお母さんにもプレゼントを渡すとそれに便乗する形で強引に渡していた。お母さんは最初は困った顔をしていたが、最後は二人から渡されたプレゼントを大事そうに抱え微笑んでいた。


 結局その日は、お兄ちゃんの家に泊まる事になり、私とお母さんはお兄ちゃんの部屋で、お兄ちゃんと洋おじさんは、ダイニングで寝る事になった。私はお母さんと一緒の布団入りながら、興奮気味に言った


「今日は悲しかった日だったけど、それ以上に楽しかった! 明日この事をプレゼントしてもらった絵日記帳に書くんだ!! そしてお父さんにほうこくする!!」


「うん、そうしてあげてれば、きっとお父さんも喜ぶわ……」


お母さんは私を抱き締めると、


「楽しかったね、凪沙……」


 そう言って、お母さんは少し涙を流した。私はその涙は家のダイニングで見たものと違うような気が子供心にも感じたのか、母に強く抱きつくとその胸の中で元気良く返事をしたのだ


「うん!! 楽しかった!!」



私は思い出の中から帰還すると、少し頬が湿っている事に気付いた、どうやら気付かないうちに少し泣いていたようだ。鏡を見ると少し目が赤くなっている。


「明日腫れなければいいけど……」


 そんな独り言を口にしながら、古い絵日記帳を静かに閉じると元あった場所に丁寧に戻す。


「今、思い出しても、洋お父さん…格好良すぎる……勿論お兄ちゃんも格好良かったけど、あれじゃあ、お母さんも参っちゃうよね……」


 あの日以降、お母さんが洋お父さんを意識し始めたよね…昔を思い出しながら凪沙は少し苦笑を作る、私とお父さんの事を気にして、最後まで素直になれなかったからなぁ……あれにはきっと洋お父さんもやきもきしただろうなぁ。二人の結婚に至るまでの長い道のりを思い出しながら私は笑った。

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