Lv.9 剣を持とう!
翌日目が覚めると、俺の目の前にはなぜか仁王立ちするゴメスがいた。
はっきり言って朝からこんな濃い顔を見ると怖いんですが・・・。
「どうした…と、あぁ、そうか、昨日」
辺りを見回すと、そこは共同浴場である温泉の近く。
ここの温泉は天然の湯で、周りの土も暖かいため、昨夜の祭りで酔っ払った男たちはここに転がり込んだようである。
見事に記憶がないが・・・。
「頭が…痛いが…修行だ」
ゴメスの言葉に、無理しなくていいのにと思ったが、ゴメスがフラフラしながらも俺の腕を掴んで立たせたので、俺も立ち上がった。
途端に襲い来る二日酔い。
あ…頭が割れそうだ。
「今日は休まないか?」
頭の痛みに顔をしかめながら尋ねたが、ゴメスは首を横に振った。
「いついかなる時も動けなければ死ぬ確率が上がるだけだ」
事実、ゴメスは二日酔いの最中に魔物に襲われたことがあるらしい。
まさに油断大敵ってやつだな。
だが、そうそうあるわけ無いシチュエーションだ。できるなら今日は休ませてほしいと思うのは俺が甘いのか…。
そんなことを考えている間に俺はゴメスに引きずられるようにして移動した。
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ゴメスから教わることは剣の使い方だ。
俺が知っている剣と言えば剣道くらいなもので、それも中学校の時に授業でやっただけだ。当然この世界のような実用な剣とはかけ離れている。
まぁ、段持ちなら案外通用するかもしれないが。
「剣かぁ…じゃあ私は後で魔法の使い方を教えてあげるわ」
どこにいても契約者の居場所がわかるというロマが、村の子供達が着ているような質素なワンピースを身に纏い、なぜかウサギのぬいぐるみを片手に見学に加わった。
可愛いからいいんだが・・・なぜぬいぐるみ?
他にもちらほら数人の村の若い奴らが興味津々に見学している。
「そう言えば魔法の使い方もまだよくわからないんだよな」
想像魔法はまさに想像で操れる魔法のようだが、おかしな想像をした瞬間に俺の品位を疑われる意外と危険な魔法だ。余計な想像をしないように精神統一とか必要かもしれない。
メルニア婆さんのリンボーダンスを思い出して二日酔いにさらなるダメージを覚えながら、俺はゴメスから木刀を受け取った。
「とりあえず…うぅぅ…俺の攻撃を防げばいい」
喋りながら嘔吐くのはやめてくれ…。
俺はリバース攻撃を避ける自信はないぞ…。
ゴメスの手がぐっと木刀を握りしめたかと思うと、その瞬間に俺の背筋がぞぞっと寒気を覚えて顔に風を感じた。
「な…」
目の前、額数センチ前にゴメスの木刀があった。
俺とゴメスが離れていた距離は50メートルほど。その距離を、一瞬で詰めたというのか…。
「寝ぼけてないでちゃんと防げ、アキ」
寝ぼけてはいない。だが、油断した。
いや、油断以下だ。ぼんやりしている間に俺は命をとられてたって事になるぞ。
現実の戦闘を考えてぞくりと寒気を覚える。
ここは異世界。ゴメスは元傭兵とはいえ今は村の狩人だ。そんな男にも相対できずに俺が生きていく術はないだろう!?
俺は木刀をしっかりと握ると、まっすぐ構える。
剣道の基本とか、自分のスタイルとか、そういったものはどうでもいい。今はとにかくゴメスの剣を防ぐことが重要だ。
幸い身体能力は上がっている。これを生かして必ず全ての攻撃を止めてみせる!
数十分後
最初はこんなもんだ!
二日酔いで顔は真っ青。ゴメスと共に数度のリバースもしたし、ふらつきながらも俺はゴメスの攻撃を全て受けてやった!
・・・・・
もちろん自分の肉体で…
まぁ、要するに全攻撃かわしきれずにぼこぼこにされたんだがな…。
「じゃあ癒しの魔法をかけてあげるわ」
ロマはやれやれと子供らしくない仕草で肩を竦め、俺とゴメスに癒しの魔法なるものを施した。
緑の靄に包まれ、体がふわりと暖かく感じたかと思うと、体の傷や痛みが引いていく…
「うあっ!?」
俺は傷の痛みが引いていくのと同時に叫んだ。
「な、なにっ?」
ロマは何か間違ったかと慌てるが、そうではない。
俺はガクリと項垂れ、そして一言つぶやいた。
「先に癒しを受けとくべきだった…」
癒しの力により、俺達の二日酔いは消えていたのだった。