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伝説の勇者にはなりたくねぇ!  作者: のな
トリップ編
8/61

Lv.8 異世界の知識

 その夜は村を上げてのお祭り。

 まぁ、男は男に戻れたし、女は老婆から美女軍団に変わったのだからはしゃぎたくなるのもわかる。


 丸太を組んで火をつけ、村の中央広場で飲めや食えやのお祭り騒ぎだ。

 そこになぜかハイテンションなメルニア婆さんが加わり、俺の膝を枕にしてロマが眠っている。


「アキ、風呂入ってけー」


「うちに泊まるか?」


「お、そうだ。小さい頃の古着があるぞ。いるか?」


 最後の『小さい頃』ってなんだよ。

 まぁ、この世界の住人は外人張りに背が高いからな。

 だが、俺だってそこそこあるんだが、やはり顔か? この日本人張りの平たい顔が子供に見えるということか?


「アキは1週間ほどゴメスのところで修行じゃ」


 巫女のくせにほろ酔い状態の婆さんが突然おかしなことを言い出した!

 聞いてないぞそんな話は!


「へぇ、勇者なのに修行するの?」


 女性陣も混じって俺は村の人々に取り囲まれる。


「勇者じゃないって…。だいたい勇者って何するんだよ」


 勇者を否定して試しに訪ねてみた。

 なんだかんだいって俺は基本的なことを全く聞いてないのだ。


 この世界がどういった世界なのか、勇者の役目や俺ができそうなことなど。この世界から帰れないというのならば学ぶことは山ほどある。


「勇者の使命といえば魔王退治だろう?」


「魔王なんているのか?」


 男達に尋ねれば、シワの数が数えられそうな距離にメルニア婆さんが顔を寄せた。

 

「おるぞい。今代の魔王はなっかなかの男前でのぅ~。現在ハーレムを建設中じゃ。おかげで奴の居城の近隣の村や町からは魔王退治の依頼が出ておる」


 やはりいるのか…と、それはともかく婆さんの顔がちけぇ。

 グイッとメルニア婆さんの顔を押しのけると、婆さんはひょっひょっひょっと不気味な笑いをあげながら離れていった。

 妖怪じみた婆さんだ…。


「依頼ってどこに依頼するんだ?」


 婆さんは放っておいて、皆に尋ねる。

 メルニア婆さんに頼ると良くない方向に転がるからな、いないうちにいろいろ知っておかねば。


「冒険者ギルドか傭兵ギルドだな」


 酒瓶片手に村長のゴメスが加わり、皆がそれぞれ自分の持つ知識を披露しようと話し出すものだから俺はまとめるのに苦労する。


 どうやら、この世界には魔王がおり、魔族がいるらしい。彼等は海を越えたこの大陸の向こう、北の大陸で暮らしている。

 ゲームの話などとは違って、美女が根こそぎ心を奪われる以外は特に被害はないそうだ。(いや、すでに被害甚大というべきなのか?)


 では、なぜ冒険者ギルドや傭兵ギルドがあるかと言えば、魔族とは別にこの世界には有象無象の魔物が溢れているのだという。

 俺が見た魔物は今のところ洞窟のスライムだけだが、他にもいろいろ凶悪なのは存在するという。この辺りはファンタジーだな。


 ギルドの主な仕事は人からの依頼を受けて問題、特に魔物の退治等を片づけていくことだが、傭兵ギルドはそのほとんどが国同士の戦争介入なのだそうだ。


 ゴメスは元々傭兵をしていたらしく、その辺りを教えてくれた。どうも世界の文化は中世ヨーロッパあたりまでしか進歩していないようで、土地や領地争いは頻繁に起こっているようだ。


「その辺りは勇者の関わる仕事じゃないがな」


 ゴメスはガハハと笑って豪快に酒をラッパ飲みする。


「気を付けるのは町から町への移動だ。傭兵ギルドであらかじめ争いが起きそうなところを聞いておけば回避できる」


 冒険者はそうやって危険を回避すると傭兵ギルドの使い道を教えてくれ、俺はそれを頭に叩き込んだ。


「傭兵ギルドも冒険者ギルドもまともな生活を望んでいない荒くれ共ばかりだからなぁ、アキみたいななまっちろい奴じゃバカにされるぞ」


「ちげぇねぇ」


 男達は俺を見て笑う。

 まぁ、現代もやしっ子だからな、そこは否定しない。


「だが伝説の勇者だろ?」


 そこは否定するぞ!


「俺は勇者じゃねぇよ」


 差し出された酒をクピりと飲んでみると、喉がカッと燃えるように熱くなった。

 どんだけ度数高いんだ!


 差し出されたのは火酒とかいう部類か? そうなのか?


 それなりに酒を(たしな)む俺でも喉が焼けるように熱いその酒で頭がぼうっとなる。この世界にウコンドリンクはないから明日は二日酔いになるかもしれない。


 そんなことをぼんやり思っていると、横で不穏な会話が…


「伝説の勇者ってあれだろ。全ての勇者を打ち倒し、魔王を滅ぼすとかいう」


 ちょいまてぃ! 

 全ての勇者を打ち倒すってなんだ! 勇者ってそんなにいるのか!? 


 つっこみどころ満載な会話に俺は口を開いたが、驚くことに俺はたった一杯の酒に酔わされて声が出ずその場にごろりと転がる羽目になった。


「酒に弱いのぅ、勇者よ」


 メルニア婆さんの呆れた声にくそぅと思ったが、睡魔に勝てず俺はそのまま落ちたのだった。


 


 翌日、俺の頭からは全ての勇者を打ち倒すという伝説の勇者の存在がすっぽりと抜けていた。

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