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伝説の勇者にはなりたくねぇ!  作者: のな
完結したらヤバい!編
59/61

Lv.59 チミは過去の…

 それはとても幻想的な光景だった。


 行く筋もの光の筋が、闇の中浮かび上がるアキの掌へと吸い込まれていき、光の全てが手に納まると、アキを中心に、闇に塗りつぶされた絶望のような世界に色が付き、光が広がり始めた。


 さぁぁぁぁっと風が吹いたかと思うと、目の前から外へと向けて闇が晴れていく。


 闇と光の境界線が視界から遠ざかると、あんなに降っていた大雨も止み、曇り空からは日が射して、その光に照らされたアキは、まさに…


「水も滴るいい男じゃのぅ」


 ロマはびくっとなった。

 いつの間にか隣にメルニア婆さんとアキの弟ユートが立っていたのだ。


「お婆ちゃん、アキの雰囲気がなんだか少し」


 近寄りがたい神々しさを纏っているように見える。

 そう続けようとして躊躇い、(うつむ)いて、足も動かせずにいると、ユートがさっさとアキの元へと向かってしまった。


 さすがは弟ね、あの雰囲気を気にしないなんて。


「わしらも行こうかのぅ。何やらアキの様子がおかしいことじゃし」


 そう言われて顔を上げ直せば、何やらアキはげっそりとした表情を浮かべている。

 

「・・・そうだわっ、アキは大きな力を使うと疲れやすいのよ。癒してあげなくちゃっ」


 癒しで支えてあげる。それが私の仕事だものっ。

 私はアキの契約精霊。だから、傍にいていいのだものっ。


 ロマは自分に言い聞かせるように肯き、駆け出した。


 その背中を見やり、メルニア婆さんはため息をついたのだった。


「けな気じゃのぅ・・・・」



______________



「アキくぅ~ん、光を全部吸い込んだらぁ、次はスカッと一発、こう溜めこんだものをブリブリブリッと」


「他に表現は無いのか、表現は! 世の中表現の自由はあっても下品の自由は無いぞ!」


「うえぇ~? 面倒臭~い あれも臭~い」


 くそぅ! 思いっきり叩き落としてやりたいのに動けん!

 

 おいちゃんはえへえへ不気味な笑いを浮かべながら俺の目の前を跳ね回る。

 ハエや蚊が可愛く見えてくるほど腹立つオッサンだ。


「あぁ~っ!」


「今度は何だよ!?」


「鼻水でたー」


 にゅろんっと掌に鼻水を付け、鼻から手へ鼻水の橋を作ってにへら~と喜ぶおいちゃんは、そのすぐ後それを袖でごしごしと拭い去った。


(きたな)っ!」


 拭った後しばらくじぃぃぃぃっと掌を見つめ続け


「じっと手を見る・・・・」


「意味わからんし!」


「え~ 啄木ちゃん知らないのぉ~? アキ君過去のおいちゃんなのにあったま悪いねぇ」


 そこは否定だ! 絶対俺はこんなオッサンにはならん!

 大体鼻水を手に付けるだなんて潔癖症が直り切ってない俺がするはずもない!


「鼻出れど~鼻出れど~我が鼻水止まらず、じっと手を見る」


「そんなおかしな詩は無い!」


 全否定した! 当たり前だが全否定!

 そんな詩が今も残るようなものだったら誰だって天才だ!


 とにかく誰かなんとかしてくれとそう思ったその時、ようやく光が手の中に納まり、俺はおっさんへの怒りを込めて光を解き放ってやった。




 ごぉぉっっと風が外へと吹き抜け、驚くほどの勢いで世界の闇が晴れていく。


 光は闇を塗り替えていくけれど、俺の脳裏に浮かんだ言葉は


「怒りばっくはつぅ~」


 読まれた…。


 怒りで闇を払うってどんな勇者だよ…ホント。


 がっくりきたが、闇が晴れると共に空覆っていた曇天も所々晴れ間を見せ、雨も止みつつあった。

 俺はとりあえずホッとして息を吐くと、ぐしょぐしょに濡れてへばり付く前髪をかきあげオッサンを見やれば、ささっとおっさんが腹巻の中から再び鏡を取り出す。


「ちっさ!」


 豆粒サイズのおっさんの出す鏡だから小さい。それを、覗けとばかりに押し付けてくるので、イヤイヤ覗いてみれば、そこにはおいちゃんの顔が!


「まさか!」


 俺の顔がおっさんの顔に!?


「全部おいちゃんの顔に映る鏡ぃ~」


「紛らわしいわ!」


 ぶんどって思いっきり叩き割った。

 心臓に悪いわ!


 魔力を使ったことよりも、おっさん相手にぐったりしていると、そこへ優斗とロマが駆け寄ってくる。


「アキ!」


 どこか焦るような、心配そうな声で駆け寄ってきたロマに微笑みかけると、ロマはほっとしたようにはにかんで、俺の元へ一直線に…


「ちっさいロマちゃんは、ひさしぶりぶりぃ~」


 ロマの目の前にばばんっと現れたおっさんに、ロマは驚いて足を止めると、じっとおっさんを見下ろし…


「飴ちゃんいるぅ~?」


 再び腹巻の中から飴を取り出したオッサンがにんまりと黄色い歯を見せ、笑いかけると、ロマはヒッと息を飲み、さらに…


「気持ち悪いぃぃぃぃぃ~!」


 ばしぃぃぃぃん!とものすごい音を立てておっさんを叩き落とした。


「ごふぅ!」


 豆粒なおっさんはに2・3度地面の上で跳ね、お尻を上げた状態で地面に突っ伏した。

 顔はどうやら水溜りにはまっているようだ…?


 あのまま溺れて死ぬかな…


 思わず見守れば、おっさんは泥やら鼻水やら鼻血やらが顔中に着いた状態でにやりと笑い、親指を立てた。


「ナイスぱ~んち・・・・ごぼごぼごぼ」


 おっさんは、その言葉を最後に水溜りに沈んで消えた…。


「消えた…?」


 俺は跡形もなくいなくなったオッサンに安堵し、息を吐いたところで水溜りをもう一度確認してぎょっとする。


 水溜りにオッサンが!


『とぅ~びぃ~こんてぃにゅ~』


 水の波紋が広がると、揺らいだオッサンはオッサンの姿からあの時のちょっと格好良くなった俺に変わり、親指を立てて消えて行った。




「う…うそだぁぁぁぁぁぁ~!」



 俺は悲鳴を上げると、そのまま倒れたのだった・・・・。





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