Lv.57 ダブル技
「では・・・『神への祈りよ届け 我等は地にありて汝らに仕えし者 その恩恵を』」
ごほんっと咳払いした後、メルニアばあさんの歌のような旋律が響き渡る。
初めて聞いたばあさんの神聖呪文なるものに、本当の本当に巫女だったのか!と思ってしまうのはおそらく俺だけじゃない。
グウェンとゴルベーザは裏ボスの前を走り抜け、ロマは来たるべきのために魔力を高めている。
それぞれが己のできることをする中、俺は高速スキルを駆使し、裏ボスの巨体の背後へと向かった。
だが、どんな動きも巨大な裏ボスには見えてしまう。
何しろ隠れる場所はないし、奴は頭上から自由に見放題だからな。
いっそ近眼であってくれればいいものを!
「うげっ」
目の前にうっすらと影ができ、思わず足を止めれば、ものすごい地響きとともに目の前に巨人の足が現れた!
足を止めていなければ確実に俺はトマトのように潰れていたな…。
バクバク走る心臓の音が耳に響く中、俺はもう一度態勢を整えることにした。
これは戦闘に参加して気が付いたのだが、奴の動きは少しずつ速くなっているようだ。
はじめのうちの緩慢な動きは、おそらく使い慣れない体のサイズを試してわざとゆっくり動かしていたのだろう。
長引けば不利だ。
連戦につぐ連戦、唯一着ぐるみを着ていた時だけは体力気力ともに回復していたが、燃えて、もしくは溶けて無くなった今は疲労蓄積状態だ。早く終わらせねば皆倒れてしまうだろう。
「兄さん! もっと速く走れないんですか!?」
唯一元気に叫ぶ優斗に思わず殺意が芽生える。
「お前もなんか手伝えよ!」
「僕を兄さんみたいな変人と一緒にしないでください! 夢の中とはいえ、そんな中二病な力があるわけないでしょう!
・・・・・・・・・・・・
どうやら優斗はこの世界を夢の中だと決めつけたようだ。
この世界に順応したのではなく、夢に逃げたのか…。
ふっ、あとでたっぷり現実を思い知れってんだ。
「ゆくぞ皆の者! 受け取れ『女神の祝福』!」
メルニアばあさんの補助魔法が発動し、俺達の体に力が湧き上がる。
素早さ、体力、気力、攻撃力、防御力とあらゆるステータスが上がっていることだろう。
「ぐおぉぉぉぉ!」
よし、と拳を握ったところで響いてきた声に、俺は盛り上がってるなとちらりとそちらを確認すれば、なぜかゴルベーザが地面に蹲って転げまわっていた…
なにごとだ?
「・・・・おぉ、女神の祝福は神聖魔法の最高峰。封印されておっても元魔族にはダメージじゃったか…」
「て、さっきの雄叫びはダメージか!」
てっきり燃えてきた~! とかそういった雄叫びかと思ったのに…。
「ゴル! 耐えるんだ! 耐えてこの先を生きるために共に戦うぞ!」
チラリとゴルベーザの安否をもう一度確認すれば、グウェンが必死に励ましていた。
さすがは緑の勇者。言っていることがいちいちクサく、ゴルベーザが小さくダメージを受けているようにも見える。
だが、そこは熱血ゴルベーザだ。すぐに「まかせろ!」と痛みを振り切って(?)巨大な戦斧を構えた。
「熱い男じゃのぅ」
「変なキャラですね」
一仕事終えた婆さんはただ今木陰でいまだ降りしきる雨をしのぎ、優斗と共に見物組だ。
「アキ! 行くぞ!」
グウェンの号令に俺、グウェン、ゴルベーザがもう一度走り出す。
ゴルベーザとグウェンは囮だ。
とにかく裏ボスの目につくようにちょろちょろと動き回り、奴を引き付けてもらう。
その間に俺は裏ボスの背後へと回り、大きく飛び上がった。
「喰らえ必殺」
すぅっと息を吸い込み、ちょうどグウェン達を狙って片足を上げた裏ボスの、大地についている方の足の膝裏に、俺は衝撃破付きの蹴りを叩きこむ!
「膝カックン!」
ひざ裏に攻撃されたことでガクッと体勢を崩した巨体がぐらりと倒れこむ。
膝に攻撃をしたので、当然後ろ側に崩れてくる巨体を何とか避けると、尻餅をついた裏ボスの肩を足場にもう一度飛び上がり、額に向けて衝撃波付きの拳を繰り出した。
「止めのぉ~」
どごぉぉん!
「デコピンだ!」
指じゃなくて拳だけどな…
俺はデコピンの反動で空中にはじかれ、落下しながら様子を見守る。
裏ボスはぐらりと地面に倒れこみ、勇者軍団とグウェン、ゴルベーザ、それからギルドの者達が総出で魔王に取り付いた。
もちろん総攻撃だ。
ロマは太い木の根で裏ボスを地面に縫い止め、ギルド、勇者達が各々の持つ能力を最大限発揮して攻撃を繰り出す。
だが・・
「婆さん! なんかまずいぞ!」
「わしにもわからん! アキ、なんとかしてくれ!」
デコピンの反動で落下中だった俺は、裏ボスの体が足から黒い粒になって崩れていくのを見たのだ。
何とかしろって…どうやって!?
裏ボスは一瞬でその体の全てを粒に変えた。
意思を持つように広がる黒い粒。
それは、その場にいる者達を包むように襲い掛かり、やがて…
全てが闇にのまれたのだった・・・・・。
メルニア婆さん「なんか、ダサい技名じゃのぅ」
優斗 「あれでも有名な攻撃技なんですよ。ダサいですが」
アキ 「ダサいダサいうっさいわ! だったらお前らやれよ!」
婆さん・優斗 「嫌です」「嫌じゃ」
そして全員が闇にのまれた・・・・
うぉい!




