Lv.52 意中の人は?
「ここで消えると思ったら大間違いクマ!」
うおっ、今度はすぐに復活したよ。
面倒臭いのが増えたというべきか…
俺の前に立つ濡れ鼠の魔王がひどく不機嫌な顔で二人が這い上がってくるのを見ている。
手を出す気はないようなので、今は様子見という所なのか、それとも溜りに溜まった苛立ちのせいで爆発寸前なのかどっちだ・・?
警戒しつつ、クマと鹿が這い上がると、鹿婆さんは俺達を見やり、「なんとっ」と驚きの声を上げた。
「全員すっぽんぽんではないか!」
「誤解を生むようなこと言うな! 着ぐるみが燃えて脱いだだけだろうが! ちゃんと着てる!」
べしべし濡れた服を叩けば、「残念じゃ」と帰ってきた。
婆さんいつから人の裸を観賞する趣味になったんだ…
ぞっとしながらも俺はいまだ動かぬ魔王を見やり、ふと首を傾げた。
魔王はじっと立ち、俺達とは違う方向に目を向けて固まっている。一体何をそんなに見つめているんだと視線の先を辿れば、そこにいたのはロマ、グウェン、ゴルベーザ、それから複製の俺だ。
ひょっとして…着ぐるみを脱いだお子様に一目惚れをしたとかそういうことだろうか?
「ロマ、ロマッ」
俺はロリコンの視線から幼女を救うべくロマを呼び、ロマは複製の俺に抱っこされながら幸せそうにこちらへやってきた。
魔王の視線はというと…動いていない。
「まさか…グウェンかゴルベーザを?」
ぽつっと呟けば、ロマが興味津々に身を乗り出してくる。
「なぁにアキ?」
俺は声には出さないで魔王とグウェン達を交互に指差し、ロマは「あら」と呟き、いつの間にクマと共に俺の横に並んでいたメルニア鹿婆さんが「ほう」と面白そうに声を上げた。
「魔王は男好きじゃったか」
「意外な趣味ね」
「グウェンなら美少年だから大丈夫じゃないか?…クマ」
俺が言おうと思ったことを先にクマに言われた。
うん、普通に考えてグウェンならば美形な王子様顔、ちょっと女装すれば美人になりそうでもあるし、そう思えば何ら抵抗なく受けいれられる…ような気もする?
ただ、冑を被っていない状態でならだが。
現在のグウェンは兎の着ぐるみを脱ぎ、水に濡れた直後だというのにすでに冑を被っている。だから、顔は見えないはずなのだ。透視の魔法でもない限り…?
「婆さん、透視の魔法ってあるのか?」
ためしに尋ねてみれば、メルニア鹿婆さんはわずかに沈黙した後答えた。
「スケベじゃなアキ」
「エロいクマ」
「エッチだわアキ」
「なんでだよ! グウェンの冑の下が見えないのに惚れるものなのかと思ったんだよ!」
2人と一匹は「なんだ」といかにも不満そうに吐き捨てた。
俺がスケベなら喜ぶってどんな奴らだまったく…。
俺の叫び声が聞こえたのか、魔王を警戒しながらまずグウェンがこちらに向かってくる。そこに魔王の視線は…ついてこない。
次にゴルベーザが歩き出し、そこに魔王の視線が…
「ゴルよアキ!」
「ゴルじゃな!」
「意外な趣味クマ!」
約3匹大興奮。
いやいやいや…ないだろ!
ゴルベーザと言えば栗毛のスポーツ刈り、緑の瞳をした精悍だが男臭く、筋肉質で熱血漢のどちらかと言えば暑苦しい印象を覚える男だ。しかも年齢は30代後半にさしかかろうという…まぁ、油は乗っているけれど、普通に考えてやはりないだろう…?
半信半疑ながら全員がゴルベーザを凝視すると、その視線に怯んだゴルベーザは足を止めた。
「な、なんだ?」
「ゴルよ、そなた美少年趣味とか美青年好きとか、そういったスキルはないのか?」
ん?ん?と尋ねる鹿婆さんの姿に俺はガクリと項垂れる。
そんなスキルがあったら真っ先にグウェンに反応するだろ…俺はそんな奴を仲間にする気はないぞ。
「女好きならあるが?」
ゴルベーザは真面目に答え、ロマがつまらなそうに唇を尖らせる。
「普通すぎるわ」
・・・・そんな認識でいいのか!? スキルだぞ!? 女好きスキル!
いや、だが、幼女好きスキルよりは健全的なのか…
俺は思わず自分に大打撃を受けてガクリと膝をついた。
ゴルベーザですらまともなのに、この俺のスキルと言ったら…
激しく打ちのめされる俺と、余計な話題に気をとられたロマ達は、この時完全に魔王の存在を忘れていた。
ここで魔王が正気だったならば俺達は完全に全滅していたに違いない。
だが、魔王はいまだ呆然とゴルベーザを見つめ、そしてぽつりと尋ねた。
「ガルフォード?」
全員がはっとして魔王に視線を集中させ、そして…首を傾げた。
ガルフォードって誰? と
ちなみに、本名を呼ばれたゴルベーザも、久しく呼ばれていなかった名前にきょとんとして首を傾げたのだった…
うぉぃ!




