Lv.5 運ばれていた…
「兄さんはそれだからヘタレ勇者なんですよ」
「ゲームもへったくそだもんねー」
うるさいぞ弟達よ。勇者だって最初はレベル1だ。スライムに悪戦苦闘するんだ。現実に気絶したっておかしかないだろ。
突っ込みを入れてパチリと目を覚ますと、見知らぬ天井…というか、部屋全体が動いて…。
「ちょっとまてぇい!」
ガバリと体を起こし、天井ならぬ俺を入れた箱の蓋を勢いよくぶっとばして体を起こせば、案の定俺は棺のようなものに入れられて運ばれている最中だった。
「なんじゃ、もう眼が覚めたのか」
ピタリと止まった狩人達の行進、彼等の足元で、婆さんがやれやれと息を吐く。
やれやれじゃねぇよ…
「何する気だったんだ婆さん」
「婆さん呼ぶな。わしのことはメルニアと呼べ」
え? ここにきて初めて婆さんの名前を知ったよ。て、今はそれはどうでもいい。
「じゃあメルニア婆さん」
「メルニア」
「…メルニア。俺をどこに連れて行く気だったんだ?」
不本意だがメルニアと呼ぶことにして、尋ねると、婆さんは杖を進む方向へひょいっと動かし、男達が再び動き出す。
やられたっ
危なくて降りることができなくなった…。
「精霊の森じゃ。一人しか住んでおらんが」
「それって例のコエェおばさんのとこかっ!」
男に絶望を与える魔女。
精霊と言えば美人で儚げで神々しいといったイメージがあったが(あくまで明人のイメージです)、ここの世界の精霊は地上のもつれで連帯責任をとらせる恐ろしい癇癪持ちのおばさんのイメージだ。そんな奴の元に連れて行かれてるのか俺はっっ。
「人が気絶している間に何してくれてんだっ」
抗議する!
「勇者は人を助ける者じゃ。伝説の勇者ならばなおさら」
「勇者はやめろっ、こっぱずかしい! 俺は村人一でいいっ」
眠ってる間に勇者について夢の弟達に反論してしまったが、年を考えるんだ俺! 俺は26歳! たとえ帰れないとしても職業勇者なんて後々に困りそうな恥ずかしい職業は嫌だっ。
心の中で格闘している間に村人の歩く速度が弱まり、棺が土の上にどさりと降ろされる。
そっとではない、どさりとだ。おかげでケツは打ち付けるわ、バランスの悪い木の根の上に乗っていたせいか箱ごとひっくり返るわで散々だ。
泥だらけになってしまった…
あぁ、切実に風呂に入りたい。
気絶前の集団浴場でなくて、貸切露天風呂がいい。
今思えば、日本って恵まれてたよなぁ。
服に付いた泥を気持ち綺麗になるよう払い、周りを見回せば、いつの間にか村人たちが遠くの茂みに身を隠していた。
「何してんだ?」
よく見ればメルニアまで混ざっている。
「よろしく頼みますっ、勇者様! おいらの命がかかってるんですっ」
必死に茂みの向こうから懇願してくる一人の村人は、明らかに他の村人の敵意を背負っていた。
なぜわかるかって?
そりゃあ、強面の村人に背後に仁王立ちされて睨まれてる姿を見たらわかるだろ。
あれが全ての呪いの元凶となった男のようだ。
「自分で」
何とかしろよと続けようとしたところ、ひやりと首筋を何かが撫でたような気配がして、俺はぞくっと体を震わせた。
周りを見れば、緑色の靄のようなものが俺を取り巻き、手のようなものが首をなで、頬を撫でてくる。
精霊ってそっち系!?
『あなたも、あの村の男達のように私を否定するの…?』
するすると体に絡む靄。身動きがとれずにぎこちなく身じろぐと、女のほっそりした手が俺の股間に…
ぎゃああああああ~! と~ら~れ~る~!