LV.45 着ぐるみ達の暴走
「久しぶりの戦闘は血沸き肉躍るクマ~!」
クマは意外に好戦的だった。
・・・クマだからいいのか?
どっさりと着ぐるみスーツを冒険者達に届け、冒険者達が怖々「装着!」と唱えている中、武器も持たずに素手で魔物を倒していくクマの戦うその姿は…ファンシーなのに怖い…
俺は仲間達に地下での経緯を全て話し、それぞれに合いそうな着ぐるみスーツを渡す。
グウェンは鎧が邪魔だったので脱いでもらって装着してもらったが、奴はなんとその上に鎧を着こんだ!
「すっげー動きにくそうだな…」
ちなみにグウェンが着込んだのは兎だ。
ピンクの兎が緑の鎧を着ている。そのミスマッチさはどうなんだと言いたくなったが、すでに戦闘モードで殺気が駄々漏れているのであえて見なかったことにした。
とりあえず頑張って敵を減らしてくれ。
「おぉ、なんか力が上がった気がするな」
ゴルベーザはぶんぶんと戦斧を振り回しつつ飛び跳ねている。着ているのはパンダだ。
男達が着られるサイズの着ぐるみって微妙だよな…
「皆可愛いわ」
ロマはうっとりしているコグマだ。色は茶色。グリズリーだな。
「う・・・うぅ」
知らんうちにぎっくり腰になっていたメルニア婆さんは鹿の着ぐるみだが…プルプルしているのは生まれたてか?
なんにせよ、みんな笑える姿だ。
戦闘状況は激化しているし、町の様子も悲惨なものだ。魔物の死骸をじっくり見て我に返れば俺はいくらでもリバースする自信があるが、今はそれらを見ないようにしている。
あ、視界は良好だ。この着ぐるみは来ていても服を着ているのと変わらないような違和感のない作りなのだ。
これが日本にあれば、多くの着ぐるみバイトの人間が楽なのにな…とつい思ってしまったり…。
「アキ! また来たわ!」
コグマが…じゃなかった、ロマが空を指さすと、再び空を覆う黒い点。全て魔物の群れだ。
「そこの精霊! ぶっとい蔦を空に向けて伸ばすクマ~!」
クマが「クマッ クマッ」と叫びながら敵を倒し、さらにロマに指示をだす。
ロマは戸惑ったように俺を見上げ、俺は頷いた。
「ああ見えても前の伝説の勇者…のカスらしいから俺より経験豊富だ。信じていい…と思う」
言いきれないのはクマ姿の為なのか…
ロマは頷くと蔦をいくつも固めて人が乗れそうな太さにし、空の敵軍へとのばした。
「我に続けクマ~!」
クマは叫んで蔦を駆け上がり、その後ろを自動歩行するぬいぐるみが付いていった。
「ファ…ファンシーすぎる…」
俺はガクリとその場に膝をついて項垂れた。
ぬいぐるみの中には太鼓を叩いたり、ラッパを鳴らしたり、シンバルを鳴らしたりと昔からよく見る人形がいて、それらがまるで行進マーチを奏でているかのようで…
「シリアスぶち壊しだ!」
ガバリと体を起こし、空へと叫びたくなる気持ちもわかるだろうっっ!?
シリアスのはずなのに! 危機的状況なのに!
いろいろありえなさすぎだー!!
とはいえ、やはり危機的状況には変わりがなく、敵も次から次へとまるで湧き続けていた。
「・・・グウェン!」
俺はふとあることに気が付いてグウェンを探す。
最前線では緑色の鎧を着たピンクのファンシーウサギが、耳をぶんぶん振り回し、ちょっと気持ち悪い感じの武器を操り敵を屠っていた。
突っ込みどころが多すぎて突っ込めない…。
言葉に詰まって一瞬立ち止まると、今度はものすごい速さで、それこそ俺の高速スキルを使ったかのような速さで茶色のコグマが目の前を駆け抜け、俺の二倍はありそうな巨大なトロールに蹴りをぶちかました。
トロールは一撃で地面に倒れ、カンカンカンッというゴングの幻聴が聞こえる。
コグマはトロールの腹の上で片手をあげてポーズをとり、勝利を喜んでいた。
「・・・・」
なんだろう、俺は自分の普通さに涙が出てくる…。
コグマはスタッと地面に降り立つと、くるりと振り返って俺に駆け寄ってきた。
「アキ! すごいわっ、見てくれた!? トロールも蹴りで倒せるのよっ」
愛らしいロマコグマは花をまき散らしながら俺に駆け寄り、俺は両腕を広げて待ち構え、そして…
ドゴッ!
「ぐふぅっ!」
鳩尾にタックルを喰らい、地面に吹っ飛んで悶えた。
お…お約束か…?
「きゃあああ! ごめんなさいアキ! 力の加減がわからなくって」
「だ…大丈夫だ…」
たとえクマの着ぐるみの鼻から鼻血がボタボタ垂れていようと…大丈夫だっ!
幼女好き補正による強がりで俺は耐え、肝心のグウェンに近づいてその肩に手を置いた。
「グウェン、魔王の居所が確かわかるような感じだったよな、案内して欲しいんだが」
俺が思いついたこと、それは、魔王を探し出して一気に片を付ける事!
でないと、この混沌から永遠に抜け出せないんじゃないかという恐怖が…
グウェンはばっと振り返り、しばし俺と見つめあう。
とはいっても、お互い着ぐるみで、どんな表情をしているのかさっぱり読めないが。
「アキ! 魔王にやられたのか! そうなのか!?」
鼻血のことを言っているようだ。
「いや…これはロマ」
訂正をしようとすれば、グウェンはぐっとハルバートを握り、叫んだ。
「敵はとってやる!」
グウェンは叫ぶなり、ハルバートを振り回し、猛然の魔物の群れに突っ込んで行った。
仇って…俺はまだ死んでねぇ!
・・・・着ぐるみ効果でおかしなテンションになってるよな、あいつ。
次第に遠ざかる背中を見つめながら、俺はとぼとぼと歩き出す。
元気のない着ぐるみって俺だけじゃないか?
・・まぁなんにせよ、魔王のいる方向はわかった。
「ロマ! ばーさん! ゴルベーザ! 魔王と対決するぞ!」
俺が声をかければ、彼等は「応」と返事を返し、俺は魔物の群れに突っ込んでいく。
ちなみに、メルニア婆さんはゴルベーザに担がれての移動となったのだった。




