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Lv.40 出現

 アマゾネスの村からの帰りは幌馬車ではなく箱馬車を借りて帰ることになったが、幌馬車と違って箱馬車は狭く、座るだけで精いっぱいで眠る場所がなかったため、冒険者に貴族の乗るような箱馬車は合わないんだと知った。

 短距離はスプリングも効いてて快適なんだろうけどな。


 そんな乗り物状況も悪いアマゾネスの村からの帰り道…それは…壮絶だった。

 

 一体俺達に何が起きたのか、アマゾネスには何らかの力があるのか…。とにかく、魔物ホイホイの力は倍増し、俺達はほとんど眠る暇もなく戦うことになったのだ。

 

 頼みの綱だった婆さんの結界だが、ここにきてなぜか婆さんがぽつりと


「結界が張れぬ…。何かに邪魔されているようじゃ」


と呟き、俺達は蒼白になった。


 しかし、幸運なことに俺達の力もレベルアップしており、なんとか切り抜けられそうだった。


 約一名、戦力外な上に、あの音にここまで振り回されなければ…もっと早く片付いていただろうがな…




 ビヨォォヨヨヨォォォォン



 それは琵琶だったか? と聞きたくなるような妙な音に戦闘中の俺達は顔をしかめる。


「このくそ忙しい時にへたくそなウクレレはやめろ!」


「戦わぬか馬鹿者ー!」


「あれ、味方にダメージがあるのだけど」


「唯一まだギリギリまともそうだったやつが壊れた…」


 ビョンビョンと変な音をかき鳴らし、敵味方に苛立ちとダメージを与えながらグウェンが敵を翻弄する。

 もちろん俺達も翻弄されているが…。


 あいつ、だんだん騎士から離れていってないか?


 一抹の不安を帯びながらも、目の前の敵を蹴散らしていく。

 

 もうこんな調子で10日経っている…。

 王都まではあと少し、かなり体力と気力が削られているが、これを切り抜ければと毎回自分を叱咤し、剣を振るっている最中、ぽつりと頬に水が当たった。


 ずっと戦い続けでそれどころでなかったから今気が付いたが、天気が悪くて雨が降ってきたらしい。

 少しずつ当たる雨が増えてくると、少しずつ体力が削られていく。


 次第に雨もどしゃ降りへと変わり、足場も悪くなってきた。


 ちなみにウクレレの弦も濡れて静かになった。

 久しぶりに剣の音と魔法の音しかしないのは新鮮だ。眠気は起きるが…。


「アキ…。まずいぞ」


 グウェンの切羽詰ったような声を聴いたような気がして、剣を振り抜きつつ振り返れば…


 そこには全身緑の鎧に身を包んだ騎士がいた。


 ズシャアァァァァァ!


 さすがの俺も泥濘(ぬかるみ)の中、スライディングしてこけたよ。

 

「どんな早変わりだよグウェン!」


 その鎧売ったと思ってたよ! どこにあったんだ!?


 泥だらけで起き上がって怒鳴れば、グウェンが剣…はやはり何処かに置いてきたらしいので、ウクレレを片手に持った。


 それは鈍器じゃないぞ…


「アキ、まずい。王都に急いではいらないと!」


 俺のずっこけなど無視してグウェンは馬車の御者席に飛び乗り、馬に鞭を入れる。

 置いていかれそうになった俺達は驚いてそれぞれが馬車のどこかにしがみ付き、そのまま馬車は走り出した。



 バシバシ当たる雨が顔に痛い。


「一体何事だ!」


 ゴルベーザが尋ねながらなんとか先に馬車の中に入り、ロマ、メルニア婆さん、俺の順番で馬車の中へと引きこむ。

 ほっと息を吐いたところで、グウェンの答えが返ってきた。


「魔王だ! しかも今までの魔王じゃない!」


「「「・・・・」」」


 全員が沈黙し、顔を見合わせた。

 何が起きたかと聞いて魔王だと答えられても何のことやらさっぱりである。

 

「魔王がいる…おそらく、王都に!」


 再度答えられてようやく疲れた脳にもじわじわと意味が伝わってきた。


 この世界で聞いていた魔王は無害な女好きの男のはずだった。だが、今のグウェンの様子と口ぶりでは違う気がする。

 代替わりをしたとか、そんなことが起きたのだろうか?


 魔王と言えば世界を恐怖に貶める悪の親玉だ。ゲームや小説では勇者を脅威として襲いかかってくる生き物のことである。

 

 つまり、このまま王都に向かえば…


 問答無用で殺されないか? 俺。


 婆さんに担ぎあげられているだけの似非勇者というか、勇者にとっては魔王みたいな存在の俺だが、さすがに本物の魔王本人と対峙したら負けるだろう。

 まだまだ俺は初心者。冒険者に毛が生えただけの存在だ。


「グウェン! いくらなんでも俺達だけで魔王とは戦えな…」


 馬車の窓から顔を出して前方のグウェンに声をかけた俺は、目の前の光景に息を飲んだ。


「な…んだ…あれ?」


 点々と街道に落ちているのは事切れた人間達。

 そして、今現在も襲われている旅人が一人見えた!


「人が襲われてる!」


「無理だアキ! 皆助けていくわけにはいかない。おそらく王都の方がひどい!」


 一人の命より大勢。そういう考えで旅人は見捨てて王都に急ごうという意味なのだろう。

 グウェンは馬車が旅人に近づいているのに止める気配はなく、逆に鞭を振るった。


 襲っているのはガーゴイルのような灰色の体色の翼をもった魔物だ。それこそまともな魔物を初めて見たが、今はそんなものを気にしている場合ではない。


 俺は無理やり御者席に移ると、雨で滑る手綱を、横へと引いた。


「アキ!」


 グウェンが悲鳴を上げるが知ったことか!

 俺は安穏と平和の中で暮らした世界でも危機感の低い方の日本人だがな! 優しさと誠実さだけはぴか一の日本人でもあるんだよ!


 馬車は思い切り進路をずれ、そのままガーゴイルに向かって直進する。


「お人好しめ! 手綱を引け!」


 御者席で立ちあがったグウェンは俺に手綱を任せ、ウクレレを抜いた!

 

 俺は手綱を引いて馬に停止するよう合図を送り、目の前に迫ったガーゴイルに向けてグウェンがウクレレで敵を殴打し…



 ウクレレは見事に砕け、停止した馬車から緑の鎧を着た騎士が前方へと吹っ飛んで行ったのだった…


「ウクレレは無理だと思うぞ…」


 シリアスな場面だが、突っ込まずにはいられなかった…。

 


 

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