Lv.2 VSスライム
後ろには婆さん。前にはアメーバ、もといスライム。
この場合どこへ逃げれば…て、後ろがあるじゃん俺。
と思ってくるりと振り返れば、婆さんの後ろにあったような気がした空間がなかった。
なぜだ!さっきまであったよな!?
がっくりと壁に手をつき項垂れていると、婆さんが俺の背を杖で突いて告げる。
「打ちひしがれてる場合ではないぞ。放っておくと喰われるからの」
他人事のように言いやがって!
俺は気を取り直して、というより半ば自棄になってスライムの前に立ちはだかった。
・・・・だが、両手に武器はない。
「戦えるか~! 婆さんその杖貸してくれ!」
婆さんは杖をフリフリ暢気に首を傾げる。
その間にもスライムは目の前に迫っており、異臭が鼻を衝いて思わず嘔吐いた。
こ、このままでは異臭で窒息死してしまう。何とかしなければ。
「婆さん!」
藁にもすがる思いで鼻を摘みつつ叫べば、婆さんはやれやれとため息をついてびしりと杖の先をスライムに向けた。
まさか魔法が出るのか!?
期待して婆さんをじっと見つめれば、婆さんは声を張り上げる。
「よいか。そなたはこれから伝説の勇者となるべくあらゆる魔法を操り、驚異的運動能力で敵を叩き伏せ、やがて世界を救うのじゃ!」
宣言はどうでもいいんだよ。敵を倒す方法を具体的にだな…。
胡乱な目で婆さんを見つめていると、婆さんは俺の方へと顔を向けて「さぁ!」と叫んだ。
さぁってなんだ! 俺にどうしろというんだ!
ここでなぜか数十秒婆さんと見つめあう。
・・・・・・・
・・・・・
「わしに惚れるなよ」
「その話題は終わったわ! 敵を倒す方法を教えろっつってんだよ!」
切羽詰ってはさすがに礼節を重んじる日本人の俺でも言葉が汚くなる。何しろもうすでに足元にスライムの体の端が到達してるからな!
「伝説の勇者には創造魔法というものがあってな。あらゆるものを生み出すと言われておるのじゃ」
「で?」
ついに婆さんも耐え切れなくなったらしく、鼻をつまみながら会話を続ける。
俺も婆さんもすでに壁際まで追い込まれた形だ。
「創造じゃ! 創造が全てを変える!」
そうぞうって想像か? なんかエロい響きだなぁ、想像魔法。
そんなことを思いながらも頭の中で火を思い浮かべた。
やはりこういったスライム系には武器による攻撃よりも火などの魔法のが効くはずだ。
そう思って思い浮かべたのは松明の火…と
リンボーダンスを踊る人々…?
余計なオプションが付いたので想像しなおしっ。と思った時には目の前にぼふんっと白い煙が広がり、何やら叫び声が…
「ひゅほほほほほほ!」
腰蓑つけた婆さんが、松明片手にリンボーダンス…
「って違うわ~!」
地味に恐ろしいな想像魔法…。心がダメージ喰らったぞ。
想像魔法って俺の想像した物が現実に現れる、もしくは周りを巻き込んで現実になると考えるべきなのか?
だとしたら火はやめだ。余計なオプション付いたし、今はまともな想像できると思えない。
となると…。
目の前に迫るスライム…スライムと言えばあれだ。
ガチャポンのレトロシリーズで見たゴミバケツ!
再びばふっと煙が広がったかと思うと、元に戻った婆さんが何とも言えない表情で巨大な緑のゴミバケツを見つめていた。
「わしは今奇妙な体験をせなんだろうか?」
どうやらリンボーダンスをしていたことは覚えてないらしい。
俺は咄嗟に誤魔化した。
「気のせいだ! それよりスライムを閉じ込めたんだが…」
「うむ。なかなか良い手じゃな。ではさらに封印を施して」
婆さんがスライムを封じるように言っている間に、スライムはゴミバケツの蓋をバタンバタンと動かし狭いゴミバケツから出ようともがき始め、焦った俺は婆さんを小脇に抱えると、そのまま逃げだした。
まだ戦闘は無理だ。とにかく、今はこの世界のことと俺の能力のことを把握しなくてはっ。
俺はこの世界で生き残るための最善を尽くすことを誓った。
「おぉっ、さすが伝説の勇者。素晴らしき身体能力じゃ~」
婆さんを荷物のように小脇に抱えて全力疾走…。
言われて気が付いたが、確かに普通ならできない。これは何らかのチート的な能力だろう。
だろうが…
俺は生き残るための努力はするが、勇者になるとは一言も言ってないからな!