Lv.16 ギルド到着
何事もなく・・・いや、何事もあったな・・・
町から馬車で揺られること半日、ようやく大きな街というか、都市についた。その名もファンタジーの王道『王都』だ。
ここに辿り着くまでの苦労と言ったら、涙なしには語れない…
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「王都まで片道で頼む」
「あいよ~。大人お一人様20リ…!?」
乗合馬車の御者台に乗り、新聞を開いていた御者がいつも通りの受け答えの最中にびくっと震えた。
それもそのはず。
声をかけたのは緑のマントを着た旅人風の…冑を被った不審者だったからだ。
「なんだ?」
じろじろ見る御者に、グウェンはあぁと得心を得たように肯き、首からギルド証を取り出して見せた。
ギルドカードというものは身分証明になり一所に居を構えていない冒険者達が持つ。それ以外の人々は住民証を持ち、それらは乗合馬車のチケットを買ったりするときに提示するものなのだそうだ。
ちなみに、国から国へ旅をするような冒険者のためのパスポートも兼ねているらしい。大抵のことはこれを見せれば何とか行くらしく、俺も王都に行ったらすぐに作ろうと決めていた。
「あ、あんたがあの緑の騎士で?…鎧だって聞いてたんだけども」
鎧の緑の騎士は有名のようだ。だが、現在グウェンが着ているのは鎧ではないため、かなり疑われている。
「なんじゃ、そやつのが不審ならばわしのを見せよう」
2番手メルニア婆さん。
彼女が持っているのは神殿の発行する身分証だ。高位の者になるにつれ、カードの縁取りの色が変わっていくらしい。ちなみに婆さんは金色の縁取りで、大司祭に匹敵するのだとか。
「…顔が違うんだけども」
御者の言葉に、俺は興味を持ってどれどれと婆さんのカードを覗き込んだ。
運転免許証のような作りになっているカードには、どこの神殿出身とか、階級だとか、生年月日も書いてあるが、やはり顔写真(魔法による特殊技術)も載っており、そこに写っていたのは赤毛の長い髪にウェーブのかかった青い瞳の勝気そうな美女だった。
「「「だれ?」」」
俺、グウェン、ロマの声が重なる。
「失敬な奴らめ。今も面影があるじゃろう。わしの若い頃じゃ」
ふふんと胸を逸らす婆さんと、写真を交互に見やり、俺たち全員の心が一つになる。
(「「「面影がない…」」」)
見事な別人だった。
あえて同じところを探すなら、今も変わらぬウェービーヘアーだろうか。写真は緩やかで落ち着いたウェーブだが、現在のウェーブはメデューサだな。
ちなみにグウェンのも確認してみれば、写真は鎧だった。
本人確認にならねーよ…。
仕方ないのでグウェンが担いでいる鎧を着て見せて納得してもらい、俺達はようやく馬車に乗ったのだが、ここでも一悶着あったりする。
乗合馬車というのだから同じ場所からの出発に数人の同乗者を乗せ、途中で降りたり乗せたりするのだがこの馬車内はどんな客が乗っても一種異様な雰囲気に包まれた。
「変なかおー」
幼い子供を連れた母親が馬車に乗ったのだが、子供がグウェンの冑を指してそう告げ、グウェンが腕を組んで座ったまま、がたがたと震えたのだ。ちなみに馬車の揺れによる震えではない。触れられるという恐怖からか、はたまた人との距離が近すぎるからなのか…。
どちらにせよ不気味だな…。
「ママ~、このおじちゃん揺れてるよ~」
「や、やめなさいっ、こっちへ来なさいっ」
スミマセンと謝る母親は、俺達を奇異な目で見ていた。
ちなみに彼女は王都まで一緒だったのだが、長い道のりで打ち解けた後こう言った。
「最初は人攫いか何かかと思ったのよ~っ、その人、変な冑被ってずっと震えてるし、あなたはどう見てもそのおばあちゃんと子供の家族って感じじゃないしで、怖かったわ~」
まさにこちらがスミマセンな気持ちだった…
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というわけで、不審者まっしぐらな俺達は何とか王都に辿り着いた。
すでに時刻は夜。すぐに宿をとって眠りたいところだが、宿というものは身分証明がないと泊まれないものが多いらしく、俺は先にギルドに向かうことにした。
「婆さんも作り直してもらえよカード」
「何も間違っておらんじゃろ」
「顏が間違ってるだろ」
ぶんっと杖が飛んできたが俺はそれを難なく避け、ロマと手をつなぐ。なんかこのやり取りも慣れてきたなぁ。
「ロマも作るか?」
「…人として生きるには必要だから作っておくわ」
ロマは賢いな。
とにもかくにもいざギルドへ、と言っても場所は知らないのでグウェンが道案内だ。
老婆と子供と不審者一名と俺、どう見てもおかしな一行が夜道を歩きながらひときわ明るい建物に辿り着き、中に入ると、ひんやりとしたものが首筋に当てられた。
「奴隷商人ならここには入れないよ」
ひんやりした物はおそらく短剣。それを構えているのは、真横にいる茶色の髪に蒼い瞳の背の高いなかなかの美女だ。
おそらくは冒険者だろう。彼女の腰には長剣も下がっており、衣装も頑丈なブーツや動きやすそうな短パンに汚れてもよさそうなシャツ、少しくたびれたマントだ。
「奴隷商人ではないぞファナ」
冑でくぐもった声がして、グウェンが俺の隣で告げる。
「…グウェン? 何よ、あんたの連れ? ていうか鎧どうしたのよ。武器も」
ひゅっと音を立てて短剣がしまわれる。
グウェンの顔なじみで良かった。また乗合馬車のような問答はごめんだ。
「それについてはそのうち、それより私の雇い主だ。非礼は過ってくれ」
グウェンが珍しく頼もしく見える…。
そんなことを思っていると、女性がくるりと振り返り、手を差し出してきた。
「奴隷商人と間違えて悪かったね。アタシはファナ。このギルドのギルドマスターさ」
「ギルドマスター!?」
ギルドマスターと言えば相当な実力者というのがセオリーだ。
彼女の見た目は20才前後、かなりの場数を踏んだことがあるとか、そういうことなんだろうか…。
驚きながらも俺は手を差し出す。
「俺は」
「シャカシャカアケートじゃ」
「変な名前ね」
ずぅぅぅんと俺はその場に沈んだ…。
婆さん…どうあってもその名を広めたいのか…。




