天使が舞い降りたPart2
*
青春の香りが吹き出す学校の屋上。
それとは全く違う、空気をピンと張り詰めるような雰囲気を醸し出す少女がいた。見た目から高校生ではない。中学生位か。
隣には謎の形をした生き物。
少女は、尋ねた。
「……ここに、きそうなの?」
「あぁ、今夜には来るね」
「信じるわよ。……頼むわ、アーク」
少女の瞳はまっすぐ生き物を見つめていた。
そのアークという生き物も。
二人の信頼関係は伊達ではない。
「…お前もな。……行くかイキシア」
二つの陰が、一つになった。
*
月が綺麗だ。
別にこんな時間まで体育しているわけではない。無論学校も終わっている。
自分が休んでいた間には全国模試があったのだ。
もともとやりたくもなかったことに、こんなに時間を使ってしまっては、嫌になる。英語なんて真っ白だった。
「はぁ……」
帰ったら見たかった特番は終わってしまっている。
あまり疲れてはいないが、夕飯を食べたらとっとと眠ろう。
学校へ行って、家に帰って、眠って、起きて。
いつも通りの日常。
今日はまっすぐ帰るだけ。
そこに、ズン、という鈍い音。
地が割れるような、轟音が。
圭斗の日常は、ここで崩れ去る。
「ん?なに……………」
圭斗は、驚愕した。
自分の真後ろに、大きい「何か」が居る!
それは月に照らされ、黒い陰となり圭斗から月光を奪いさった。
「なんだ…!?これ……っ」
得体のしれない獣。
地を割ったのもこいつの仕業だ。
大きな爪がそれを物語る。
見た目は大きな猫のようだ。だが色から判断して黒豹にも見えた。消して黒豹のサイズではないが。
熊並だ。
そのでかい黒豹は、ぐるりと辺りを見回し、こちらに気付いてしまった。
硬直する。
逃げたくても、足が動かない。動いてくれない!
(…喰われる!?)
「逃げて!」
突如聞こえた声と共に獣の身体も硬直する。
「グルルル……!」
苦しそうなうめき声をあげ、固まった身体を動かそうともがいているようにも思えた。
「大丈夫!?」
自分も全く動けずに、泡が吹きこぼれそうだ。
声の主は、女の子だ。
(……天使の羽…?)
自分と同世代くらいの、天使の羽付き。
獣はまだピッタリと固まったままだ。
「君が……止めたの?」
「うん。そんなことはいいから、早く逃げよう!?あいつの動きを止めれるのは、あと30秒よ!!」「え!?」
なんとか足を立たせた俺は、女の子の手に引かれて走った。必死で走った。
かっこわりぃ……。
*
「なんなんだよ…あいつ……」
結構走った…。
大量には自信のある方だが、さすがに疲れた…。
女の子の方は、くすくす笑って「大丈夫ー?」なんて言っている。悔しい…
まあ、先程の行動から見ても、人間ではないんだろうけど。
天使?はよくよく見ると美人だ。可愛い。
「……てか、君は誰?」
「私?」
女の子は、微笑んでいった。
「私はアザミ。よろしく。」
「あぁ…よろしく。えと、俺は…」
「直原圭斗君、でしょ?」
「えっ?」
何故、俺の名前を?
とは聞かなかった。天使なら、超能力だって使えるかもしれないし。
天使とは、もちろん初対面だ。
「……私のこと、天使だと思ってたらごめんね。」
「えっ、違うの?」
彼女の背中で真っ白に輝く翼は、漫画でも芸術的な絵画でもよく見る「天使」の羽だ。
「私は、魔法使いなんだ。天使じゃないの。」
月光が俺達二人を照らす。
その陰で俺達を見ている者がいるとも知らずに。
これが、俺とアザミとの出会いだった。