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第六話 始原五大戦鬼――千年前の戦い

前書き


旧地獄の最奥。


鬼王を封じた古い封印の前で、黒嶺轟羅たちは一人の古鬼と出会った。


名は――黒牙玄真。


彼は、始原五大戦鬼の時代を知る鬼だった。


黒。


雷。


炎。


風。


そして第五の鬼。


かつて鬼王を封じた五人の大戦鬼。


その戦いから、遥かな年月が流れている。


しかし、封印は今も生きている。


そして――。


封印の中には、今も一人の鬼が残されていた。


白峰神楽。


第五の大戦鬼。


だが、その真実を知る者は少ない。


そして今。


始原五大戦鬼の歴史が、再び現代の鬼たちの前に姿を現そうとしていた。


---

東方Project 二次創作 外伝 鬼の大戦鬼


黒嶺洞。


そのさらに奥。


轟羅、雷華、焔羅、そして黒牙玄真は、古い地下空洞へ移動していた。


天井は高い。


壁一面には、何百年、何千年という時間を経たような古い傷跡が残っている。


その中央には巨大な岩盤があった。


岩盤には五つの印が刻まれている。


黒。


雷。


炎。


風。


そして――白。


轟羅はその五つ目の印を見つめた。


「……白」


雷華が頷く。


「これが第五の印」


「名前は?」


「分からない」


「能力は?」


「分からない」


「性格は?」


「分からない」


轟羅は眉をひそめた。


「何も分からないじゃないか」


「だから調べているのよ」


雷華が答える。


その横で焔羅が岩盤を眺めていた。


「でも変だな」


「何が?」


「この五つの印」


焔羅が指を差す。


「黒、雷、炎、風……ここまでは分かる」


そして白の印を見る。


「でも、白だけは他の四つと違う」


雷華が目を細める。


「……確かに」


「何が違う?」


轟羅が聞く。


焔羅は印に手を近づけた。


「他の四つは、外へ向かって力が流れている」


「……」


「でも、この白だけは――」


焔羅の指が止まる。


「内側へ向かっている」


その瞬間。


黒牙玄真が口を開いた。


「よく気付いたな」


三人が振り返る。


玄真は岩盤を見ていた。


「それが、第五の鬼の力だった」


雷華が息を呑む。


「……封印?」


玄真は答えなかった。


代わりに、ゆっくりと岩盤へ手を置く。


すると――。


五つの印が淡く輝いた。


そして空間に、古い記憶が浮かび上がった。


五人の鬼。


巨大な鬼王。


燃え上がる地底。


砕ける大地。


轟羅は目を見開いた。


「これは……」


「記憶だ」


玄真が言う。


「私が見た、最後の戦いだ」


映像の中。


四人の鬼が戦っている。


黒い鬼が拳を振るう。


雷の鬼が雷撃を叩き込む。


炎の鬼が巨大な炎を放つ。


風の鬼が嵐を巻き起こす。


そして――。


その後ろに、一人の白い鬼が立っていた。


白い髪。


白い角。


細身の身体。


だが、その眼差しには強い意志が宿っている。


轟羅が呟く。


「……第五の鬼」


雷華は息を止めていた。


「これが……」


焔羅も黙っている。


映像の中で、鬼王が咆哮した。


『小賢しい鬼どもが……!』


大地が割れる。


黒鬼が吹き飛ばされる。


雷鬼が地面に叩き落とされる。


炎鬼が血を吐く。


風鬼が片膝をつく。


それでも四人は立ち上がる。


そして白い鬼が一歩前へ出た。


『もう終わりです』


静かな声だった。


鬼王が笑う。


『終わりだと?』


白い鬼は頷く。


『ええ』


彼女の周囲に無数の白い光が生まれる。


『あなたを封じます』


鬼王が吼えた。


『私を封じるだと!?』


『そうです』


白い光が広がっていく。


鬼王の身体が動かなくなる。


『私を殺せばいい!』


白い鬼は首を横に振った。


『それでは駄目』


『何故だ!』


『あなたは殺して終わる存在ではない』


その言葉に、鬼王が初めて黙った。


『だから――』


白い鬼が両手を広げる。


『私が、あなたを封じる』


轟羅が映像を見ながら呟いた。


「……一人で?」


玄真が答える。


「そうだ」


「他の四人は?」


「彼らは限界だった」


映像の中。


黒鬼が膝をつく。


雷鬼が立てなくなる。


炎鬼の炎が消える。


風鬼が倒れる。


白い鬼だけが立っている。


「五人で戦った」


玄真は言う。


「だが、最後に封印を完成させたのは第五の鬼だった」


雷華の顔が険しくなる。


「……名前は?」


玄真は答えない。


「名前を教えて」


「できない」


「なぜ?」


「それは――」


玄真が言葉を止めた。


その瞬間。


轟羅が玄真の肩を掴んだ。


「言え」


玄真の目が鋭くなる。


「離せ」


「嫌だ」


「……」


「私は、強い奴の名前を知りたい」


轟羅の目には、いつもの戦闘狂の光があった。


「それだけだ」


玄真はしばらく轟羅を見つめた。


そして――。


「白峰」


その二文字だけを口にした。


雷華が反応する。


「白峰……?」


「それ以上は言えない」


「名字だけ?」


「そうだ」


焔羅が首を傾げる。


「じゃあ、名前は?」


玄真は沈黙した。


そのとき――。


遠くから風が吹いた。


地下とは思えないほど冷たい風。


轟羅が振り返る。


「……来たな」


雷華も気付く。


「この気配……」


焔羅が笑う。


「ようやくか」


暗闇の奥から、一人の女性が歩いてくる。


長い髪が風に揺れている。


その歩みは静か。


しかし、その存在そのものが周囲の空気を変えていた。


「随分と楽しそうね」


声が響く。


轟羅が笑った。


「風華」


翠風院・風華。


風を纏う鬼。


現在の大戦鬼の一人。


風華は四人を見回した。


「雷華」


「風華」


「焔羅」


「おう」


そして最後に――。


黒牙玄真を見る。


風華の表情が変わった。


「……あなた」


玄真も風華を見る。


「翠風院」


「私を知っている?」


「ああ」


「どこで?」


玄真は答えない。


風華が少し目を細める。


「なるほど」


「何がなるほどだ?」


轟羅が聞く。


風華は玄真から目を離さない。


「この人、私のことを知っている」


「さっきからそう言っている」


焔羅が笑う。


「それだけじゃない」


風華は静かに言った。


「私の家のことも知っている」


雷華が驚く。


「風華の家?」


「ええ」


風華は頷く。


「翠風院家には、古い伝承がある」


玄真の顔がわずかに曇る。


「始原の風鬼について」


雷華が反応した。


「やっぱり……」


風華は続ける。


「私の家では、その鬼を『風を継ぐ者』と呼んでいる」


焔羅が笑う。


「じゃあ、お前もその力を継いでいるのか?」


「そうらしいわ」


風華は自分の手を見る。


そこに風が集まる。


「でも、私はその鬼じゃない」


玄真が頷いた。


「その通りだ」


風華が玄真を見る。


「あなたもそう思う?」


「ああ」


「なら、あなたは分かっているのね」


「何を?」


風華の目が鋭くなる。


「私たちが、始原五大戦鬼の代わりではないことを」


雷華が黙る。


玄真はゆっくり頷いた。


「よく理解している」


「なら――」


風華が一歩近づく。


「なぜ、私たちがここへ集められているの?」


玄真は答えなかった。


代わりに、地下の奥を見る。


「封印が弱っているからだ」


風華の表情が変わった。


「……やっぱり」


「何か知っていたのか?」


轟羅が尋ねる。


風華は答える。


「数日前から風の流れがおかしい」


「風が?」


「ええ」


風華は目を閉じる。


「地上では普通」


「でも地下では違う」


風が風華の周囲を回る。


「地下深くから、何かが風を吸っている」


雷華が驚く。


「吸っている?」


「そう」


風華は頷く。


「まるで――」


彼女は言葉を選んだ。


「世界そのものが、息をしているみたいに」


その瞬間。


地面が揺れた。


――ズン。


全員が身構える。


――ズズズズズ……。


轟羅が笑う。


「またか」


焔羅の拳に炎が灯る。


雷華の身体に雷が走る。


風華の周囲に風が渦巻く。


玄真だけは静かだった。


そして――。


地下の奥から声が響いた。


『……五つ……』


雷華が凍りつく。


『……また……五つ……』


風華が目を見開く。


「今の……何?」


玄真は答えない。


轟羅が聞く。


「五つと言ったな」


焔羅が玄真を見る。


「私たちのことか?」


玄真は静かに答えた。


「違う」


「では何だ?」


「始原五大戦鬼だ」


雷華が息を呑む。


「でも、ここにいるのは私たち四人」


玄真は頷く。


「そうだ」


「なら――」


雷華の声が震える。


「五つ目は……誰?」


玄真は答えなかった。


その代わり、石碑を見る。


白い印だけが――。


微かに脈動していた。


――ドクン。


――ドクン。


――ドクン。


風華がその印を見つめる。


「……何かいる」


「何?」


焔羅が聞く。


「この石の向こう」


風華は目を閉じる。


「誰かがいる」


雷華が近づく。


「本当に?」


「ええ」


風華の声が小さくなる。


「とても静か」


「敵か?」


轟羅が拳を構える。


風華は首を横に振る。


「分からない」


そして――。


白い印から、一瞬だけ声が聞こえた。


『……まだ……』


風華が目を見開く。


雷華が振り返る。


焔羅も聞いた。


轟羅も聞いた。


四人全員が――。


その声を聞いた。


玄真だけが目を閉じる。


「……神楽」


小さな呟き。


誰にも聞こえないほどの声だった。


だが。


玄真の胸の奥には、千年前の記憶が蘇っていた。


白い鬼。


封印の光。


最後に振り返った彼女。


そして――。


『玄真』


『何だ』


『もし、いつかこの封印が揺らいだら』


『……ああ』


『この子たちを導いて』


玄真は目を閉じる。


『私の代わりではなく――』


『彼ら自身の道を』


千年前の約束。


それが今。


再び始まろうとしていた。


---



後書き


第六話では、**始原五大戦鬼の過去**を初めて本格的に描きました。


重要なのは、現在の大戦鬼たちが「始原五大戦鬼の生まれ変わり」ではないという点です。


現在の轟羅、雷華、焔羅、風華は、それぞれ古代の鬼たちから続く力の系譜を持っています。


しかし――。


彼女たちは彼女たち自身。


轟羅は轟羅。


雷華は雷華。


焔羅は焔羅。


風華は風華です。


そして黒牙玄真は、千年前に始原五大戦鬼を実際に見届けた鬼。


彼には、まだ現代の鬼たちに語っていない秘密があります。


それが――。


**第五の大戦鬼、白峰神楽。**


前話では読者だけが知った彼女の存在を、今回は現代側の物語にも少しずつ近づけました。


風華が感じた「石の向こうにいる誰か」。


そして、最後に玄真が口にした「神楽」という名前。


しかし、雷華たちはまだその名前を聞いていません。


この情報差を残すことで、今後、


**「なぜ神楽は封印の中にいるのか」**


**「神楽は本当に鬼王を封じ続けているのか」**


**「鬼王はなぜ神楽に語りかけているのか」**


という謎を段階的に明かしていけます。


次の戦いでは、いよいよ封印から漏れ出した**鬼王の眷属**が現れ、現在の大戦鬼たちが初めて共闘する展開へ進められます。

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