異世界で必要なもの? それは有能な執事です!! 引きニート女、執着系有能執事と快適な引きこもり生活を満喫します。なお、邪魔者は勝手に消えるようです。
「お目覚めですか?」
「ん、んん。」
目覚めてないよ。
まだ寝るの…ほっといて。
………え?
再び意識を手放そうとしたその時、ふと何かが引っ掛かる。
記憶にない声だった。
低く艶のある男性の声。
その口調は嫌に丁寧でー。
私は恐る恐る瞼を開く。
視界に飛び込んできたのは私の部屋ではなかった。
質素な白い天井…ではない。
豪華な飾りがつけられた天蓋付きのベッド。
身体が沈み込むほどふかふかなマットレス。
何これ…雲みたいで気持ちいい。
あっ…違う、そうじゃなくて!
そこには、優しく微笑みながらこちらを覗き込む青年がいた。
漆黒の髪を一つにまとめ、
シワ一つない燕尾服を纏った青年。
「……ん、だれ?」
「はじめまして。
私はノクスと申します。
私をあなた様の執事にしていただけませんか?」
「は?」
今なんて言った。
***
鏡を見ると別人になっていた。
それもとてつもない美形にー。
いわゆる異世界転生というやつなのだろうか。
輝く金髪に真っ赤なルビーのような瞳。
よく美人をお人形と例えるが、その言葉がここまでふさわしい美少女は見たことがない。
「嘘…これが私?」
でも、いったいなぜ転生したのだろうか。
私は引きこもりだ。
最後に外に出たのなんて何年前の話だろうか。
一日中ベッドでダラダラ漫画やアニメを見てる私が過労で死ぬわけがないし、交通事故にあうわけがない。
んー…。
よし!考えるのやめよう!
私は早々に考えることをやめた。
「お嬢様?」
考え込んでいた私を不思議そうにきょとんとした顔で覗く青年。
転生した理由はさておき、私は森で倒れていた所を彼に拾われたらしい。
と言うことはこの男は私の命の恩人なわけで…。
そうなると、一つ気になることがある。
「なんで私の執事なりたいの?」
そう…先ほどの言葉。
「執事にしてください」なんて正直意味がわからない。
「下僕になれ!」「恩を返せ!」とか言われた方がまだ納得がいく。
そう思い首を傾げる私に予想外の答えが返ってきた。
「私は貴方様のような方をお待ちしていたのです。」
青年は頬を紅潮させながら言う。
私のような方?
「どういうこと?」
「私はずっとこの屋敷で一人で暮らしておりました。いつか誰かにお仕えしたいという夢を抱えて。 !!」
鼻息を荒くしながら、続ける。
「そして…今!!
貴方様に出会いました!!
これは神の導きに他なりません!」
まるでダムが決壊したかのように語り出すノクス。
…あれ?これは…まさか。
「ああ、何と神々しいお姿なのでしょう。
その純金を溶かしたような輝かしい御髪。
まるで太陽を思わすような情熱的な瞳ーーー」
あ、うん。
この人もしかしなくても、ヤバいやつだ。
ただの変質者だ。
終わりの見えないそれを死んだ魚の目をして聞き流しているとー。
ぐぅ。
不覚にも盛大にお腹がなった。
淑女とは思えないほどの爆音で。
「これはいけません!」
ハッとした表情をした執事はすぐさま部屋を出た。
「え、なに?」
もしかして…置いてかれた?
そんな不安はすぐさま杞憂に終わる。
男の手によって、豪華な料理の数々がテーブルに並べられた。
え?一体いつ作ったの?
さっきまで一緒にいたよね?
なんでこんな出来たてほやほやで湯気まで出ちゃってるの?
と、疑問は尽きない。
だが、鼻をくすぐる甘美な匂いにゴクリと唾を飲み込む。
この美味しそうな料理を無視できるものがいるだろうか。
いや、いない。
私は躊躇いなく料理を頬張った。
「おいしっ!」
あーもういいかな。
変なやつだけど、こんな美味しいご飯食べれるなら。
ご主人様だろうが、お嬢様だろうが、
美味しいご飯が食べられるならなんでもいいや。
***
満腹、もう食べられない〜。
ふぅと一息つきながら膨らんだお腹を撫でる。
わたしは大量にあったテーブルの上の食事をすべて胃の中へと片付けた。
「デザートもございますがいかがされますか?」
「…」
それはもちろん。
「いただきます!」
スイーツは別腹なのである。
これは乙女の常識だ。
「お嬢様。」
「ん?なに?」
デザートのケーキを頬張りながら聞く。
「私は執事として合格でしょうか?」
眉を下げて少し不安そうな表情をしながら恐る恐る問いかけてくる。
まるで捨てられた子犬のよう。
長いまつ毛、すっととおった鼻筋。
夜空のような漆黒の髪。
この男、言動はヤバいけど普通にイケメンなんだよな。
「合格。」
私は迷わず即答した。
この男がどんなにヤバいやつでも構わない。
こんなに美味しいご飯が毎日食べられるのなら願ったり叶ったりだ。
「それではお名前をお聞きしても?」
「…名前。」
…。
名前か…。
ふと、前世の名前を思い出す。
よく言えば古風。
悪く言えば時代遅れ。
ふと視線をテーブルに向けると、
紅茶に映る美少女と目が合う。
お人形のように可愛らしい顔。
この顔であの名前は…。
んーーー。
迷った結果私は考えることを放棄することにした。
「つけて。」
「はい?」
予想外の返答だったのだろう、
素っ頓狂な顔をした。
「えーと、覚えてないの。
だから新しいのつけて?」
大事な名前を気軽に人に考えさせるなど、
適当なやつと思ったろ?
それが私だ。
「…。」
ノクスは真剣な顔で黙り込んでしまった。
あ、流石に呆れちゃった?
仕方ない…自分でかんがーーー
「なんと言う栄誉!!」
さっきまでの沈黙が嘘のように顔を輝かせた。
そして、数分たっぷりと考えてようやくその名を口にする。
「エルナ様とはいかがでしょう。」
***
「ふわぁ〜」
大欠伸をする。
「エルナ様。おはようございます。」
低く艶のある声。
彼は決して私を起こさない。
何時に起きてるのかわからないがいつもビシッと身なりを整え、枕元で私が起きるまで待機している。
そうして、私が起きると執事は水桶を手渡す。
それに手を入れるとほんのり温かい。
心地よい温度に調整してされたお湯。
その水で顔を洗う。
するとすかさずタオルを手渡される。
ふかふかでお日様の匂いのする上質なタオルで顔を拭く。
「朝食の準備もできております。」
まだ眠くぼんやりとした頭でテーブルにつく。
そこに並ぶのはどれも私の好みのものばかり。
日が立つごとに食卓が好きなもので埋め尽くされてゆく。
特に何も言っていないのに…。
これがスパダリというやつなのだろうか。
私は口いっぱいに頬張った。
「…美味しい。」
ここでの生活もしばらく経つが本当に甲斐甲斐しく世話をしてくれている。
3食昼寝&おやつ付き。
まさに至福の生活だった。
ふと窓の外を見る。
ここはどうやら森の中らしい。
森の中にポツンと佇む屋敷。
周りには他の建物はなく木ばかりが生い茂っていた。
一体何でこんなところに屋敷があるんだろう。
呑気に窓の外を見つめていると森から轟音が鳴り響く。
「グウォォォ!!」
「なにこれ!?」
ガタッ!と慌てて立ち上がる。
「大丈夫ですよ。
ただの魔物です。」
ノクスは落ち着いた様子でにっこりと微笑む。
あーそうか。
魔物か。
……。
ん?
「魔物がいるの?」
「はい。おりますよ。」
即答されてしまった。
「危なくないの?
城に入ってきたり!」
ファンタジー世界には多種多様の魔物が登場する。
だが、それらに共通することが一つだけある。
それは、人間を襲うこと。
しかしーー
「問題ございません。
魔物とは本能的に強者に従うものでございます。」
「え?」
「ですので、こうべを垂れることはあれど、この城を襲ってくることはありえません。」
え…それってまさか…。
ノクスの口が怪しげに弧を描く。
…なにそれ、怖いんですけど!?
***
「ご馳走様でした。」
この世界でそんな文化があるかは分からないが、前世の癖で、パチンと掌を合わせる。
満腹になって一息ついた私は部屋へと向かう。
食事を終えた私がすること。
それはーー
ダラダラ過ごすことだ。
異世界でも私は引きこもり生活を満喫していた。
前世ほど娯楽はないが、この世界で私がハマっているのは恋愛小説だ。
ノクスに一か八か試しに聞いてみたら「ありますよ。」と大量の本が出てきてくれたのである。
何でこの屋敷にそんなものが?と思ったが、細かいことは気にしない。
バフっ
「さいっこう〜」
本を胸に抱き、ふかふかのベッドに勢いよくダイブする。
一体いつ干しているのだろうか、いつも心地よいお日様の匂いがする。
何と至福の時間なのだろうか。
「エルナ様。」
「なに?」
珍しいな。
読書タイム中は基本的に話しかけてこない。
主人の邪魔をしてはいけないという従者なりの気遣いらしい。
壁の方で静かに待機してくれている。
生粋の庶民の私からしたらそんなこと別にしなくていいのにと思ってしまう。
ただ、本人がやりたがっているので止めるのも悪いかなと思ってそのままにしていた。
そんな彼が話しかけてきたのだ。
なんだか無駄に緊張して背筋がピンと伸びる。
「街へ行ってこようと思います。」
「街?」
そんな所あるんだ。
この世界では初めて聞いた。
まあ、そうだよね。
人がいるんだし街の一つや二つがあってもおかしくない。
「はい、調味料などを調達しに行こうかと。」
あーそうか。
私はふとこの世界で食べた料理の数々を思い出す。
野菜や果物は畑で栽培できるし、
お肉なんかは森で調達できるらしい。
何の肉かは聞かないことにしてるけど…。
「そっか〜。いってらっしゃい。」
私はパタパタと手を振り送り出した。
「それなら一緒に」とかいうと思った?
言うわけないでしょ、ちょっと興味はあるけど外に出るとか面倒よ。
私は部屋で小説を読んでいるのが性に合っている。
「それで入って参ります。
御夕食までには戻りますので。」
ぺこりと一礼してノクスは部屋を出ていった。
***
「ん……寝てた?」
重い瞼を擦りながら目を開ける。
部屋はすっかり薄暗くなっていた。
小説を読んでいるうちに眠ってしまったのだろう。
「今何時?」
この世界には時計というものは存在しないのだが、つい聞いてしまうのは前世からの癖だろう。
しかし、その問いに答えは返ってこない。
しんとした静寂が流れるだけ。
「…。」
ぼんやりとした頭で考える。
昼間の会話を思い出して気づく。
「あ、そういえば買い出しに行ったんだっけ。」
ふわぁーとあくびをしながら、天井のシャンデリアを見る
それに手をかざしながら、身体の中をめぐるエネルギーを手のひらに集める。小さな炎が灯るようなイメージをする。
すると、ぼうっと音を立ててシャンデリアに炎が灯った。
そう、これは魔法。
前世では電気を使って灯りを灯していたが、こちらの世界では魔法でそれを行う。
ノクスがやっていて私にも使えるかもと思って試してみた所、意外とサクッとできてしまった。
「まあ、初めての時は大変だったけど…。」
あの歓喜に震える執事の顔を思い出す。
『なんと!!見ただけで魔法をお使いになるなんて!!さすが我が主!!類い稀なる才をお持ちでいらっしゃる!!』
感動して涙まで流すほどだった。
そんな褒め立てることじゃないだろう。
簡単にできたし、日常的に使われてるものなのだし、どうせこの世界の人間なら子供でもできるものだろう。
ほんと大袈裟な奴だ。
明るくなった部屋をぼーっと見つめる。
不意にぐゥゥとお腹の音がなる。
「お腹…空いた……。」
***
ノクスは喜んでいた。
主を迎えることができて。
何年も待ち望んだ仕えるべき相手。
「ふふ、珍しい果物も手に入ったことですし、
新しいデザートを作って差し上げよう。」
彼には珍しくルンルンで帰路についていた。
だがーー
「おい〜なんでこんな山奥にあるんだよ…」
「文句言わない。」
「指名依頼だ必ずこなさないと。」
森の草木が風に揺れる音の中に、数人の男女が話す声が聞こえる。
「こんな森の奥深くに一体なぜ?」
ノクスは嫌な予感がし、そっと身を潜め、彼らの話に耳をかたむける。
彼らはこちらには全く気づく様子もなく会話を続けていた。
「それにしても、なんでこんな山奥に
城が立ってんだよ。」
「さあね。
でも、ギルド創設前からあったのは確実よ。」
「んな、前からあるなら
別に調べなくてもよくねぇか?」
「そういうわけには行かないわ。
危険な魔物が棲みついてるって噂もあるし、
排除するに越したことない。」
「まーどっちでもいいけどよ。
こんなとこまできたんなら、
ちっとは歯ごたえあるやつだといいな。」
嫌な予感とは当たるものだ。
彼らの狙いは私達だ。
森の中の城なんてそう何個もあるものではない。
「普段なら無視するところですが…」
城には結界が張ってある。
何人たりともそれを破ることはできない。
だがーー
今は彼女がいた。
我が主。
結界があるから安全とはいえ…
彼女を不快にさせることは避けなければならない。
ならば…。
***
「どこへ行くつもりですか?」
彼らの前に静かに姿を現す。
相手は五人。
先頭を歩いている大柄で筋肉質な男。
好青年といった見た目のリーダー格の男。
そして、後方から様子を伺う男が一人と女が二人。
「なんだお前?」
先頭を歩く大男が眉を寄せる。
「私はこの先の城に住まう主に仕える者です。」
月明かりに照らされ、ニヤリと怪しく微笑む。
さて、戦わずさってくれれば良いのですが。
「へーそっちから出てきてくれるとはな。」
大男が言う。
「私としては引いていただきたいのですが。」
ノクスはため息をつく。
リーダーのような男が一歩前に進み出て言う。
「それはできない。
俺達の任務は城の調査と、
危険な魔物がいた場合はそれの討伐だ。」
「我々はあなた方と敵対するつもりはないのですが…。進むと言うのであれば敵対せざるを得ませんね。」
「そうか…。
なら戦うしかないようだな!」
リーダー格の男は剣を構える。
「行くぞ!」
「「「おう!」」」
その男の言葉を皮切りに男達が一斉に武器を構えた。
***
「ふぅ…全く汚れてしまったじゃないですか。」
闇夜に照らされ艶やかな黒髪が怪しげにひかる。
身体についた埃を落としながらも、彼の心は晴れやかだった。
口元に笑みを浮かべながら帰路に着く。
だが、背後には動かなくなった男達がゴミのように積み上げられていた。
そして、彼の額には一本の角が生えていた。
***
「大変申し訳ございません!
いつもよりお食事が2684秒も遅れてしまいました!」
秒単位…?
「私めを罰してください!」
いや、お腹すいてたけど、遅れたってほどでもないでしょ。
「別にこのぐらい誤差だよ。」
「なんとお心が広い!!
私これからも誠心誠意お仕えさせていただきます!!!」
ほんと…大袈裟な奴。
「それで、街は遠かったの?」
この執事が食事に遅れるほどだ。
よほど遠かったのだろう。
「いえ、そうではなく、ゴミ掃除をしておりました。」
「ゴミ?」
「はい。道中に大きなゴミが落ちておりました。」
大きなゴミってなんだろう。
でも、ゴミ拾いには違いない。
道端のポイ捨てなんて気にしたことないもんな。
誰かが片付けてくれるだろう。
そんな思いで気にも留めない。
それを片付けていたなんてーー。
「偉いね。」
何気ない一言のつもりだった。
グハッ!
突如血を吐いて倒れたノクス。
「ちょっちょっと!大丈夫!?」
慌てて、駆け寄ると譫言のような声が聞こえる。
「こんなことで…お褒めいただけるなんて…私は…幸せでございます。ああ…神よ…」
……。
「大丈夫そうね。」
私は食事を続けることにした。
ステーキ肉を大きめに切り、頬張る。
うん、美味しい。
床に転がってピクピク痙攣している男を無視して私は食事を楽しんだのだった。
***
ドタバタと騒がしい足音がして、扉が開かれる。
「ギルドマスター!城の調査に行ったパーティが死体で見つかったとの報告が!」
「何だって?」
部屋の奥のデスクに腰掛けていた、ギルドマスターと呼ばれた大男が驚愕の声をあげた。
「あいつらはこのギルドでも上位の冒険者だぞ…」
ギルドマスターは唸るように呟く。
「あいつらを呼べ。」
***
「エルナ様、おはようございます。」
「ん、おはよ。」
いつもの変わらない何気ない朝。
「本日、食後のデザートととしてロダキノのタルトをご用意しております。」
「へ〜ありがと。」
「いえ…もったいなきお言葉っ!?」
ハンカチで目元を覆うノクス。
いや…お礼言っただけだよ?
そんな感極まらないでよ!?
「はいはい。」
私は無視して食事をする。
ロダキノとは前世で言う桃に近い果物のようだ。
甘酸っぱく柔らかい果肉とサクサクのタルト生地とよく合う。
うん、美味しい。
「お味はいかがでしょうか。」
「最高。ノクスは天才だよ〜。」
あまりの美味しさについうっかり口走ってしまいハッとする。
恐る恐る振り返るとそこには、プルプルと身体を震わせ涙の海に沈むノクス。
「…私めはエルナ様にお仕えできて…
幸せ者にございますっ…。」
あー…うん。そうだね。
***
私は昼食を食べ終え、呑気にベッドで本を読んでいた。
ドォォン!!
轟音が城を震わす。
「なに?また魔物?」
いつもなら無視する。
だが、今回は異様に音が大きく、そして、何度も続いた。
流石の私にもなにか起きていると察せるほどに。
しかもーー
「あいつ…どこ行ったんだろう。」
いつもそばに控えているノクスがいない。
姿が見えなくても呼べばすぐにとんでくる男が今日にかぎって現れない。
妙な胸騒ぎがする。
***
「うっ…はっ」
ノクスは傷を抑え、肩で息をする、身体は砂や埃で汚れ、額には大粒の汗を浮かべ、いつもの余裕のある姿は見る影もない。
「これはまずいですね…。」
続いていた轟音はこの男達の攻撃だった。
ひと一人分はある巨大な剣を持った男。
そして、その仲間が四名。
恐らくこいつらは先のパーティを壊滅させたことでギルドから送られてきた刺客。
「まさか…ここまでの人間がいたなんて…」
迂闊だった。
主人を得て舞い上がっていた。
「口ほどにもないのだな!!」
大男が嘲笑うかのように言う。
「油断するな!一気に決めるぞ!」
槍を持った男が叱責する。
そして次の瞬間、男の持つ槍がキラリと光る。
真っ直ぐに距離を詰め、切り掛かる。
寸前のところで交わすが、掠った槍が頬を焼く。
「っ!?」
一瞬の隙が生まれてしまう。
後方にいたローブの男が長い詠唱を終え、凄まじい魔力が辺りを覆う。地面から四本の光の鎖が伸び、身体を縛り付ける。
まずい…。
そう思った時にはもう遅かった。
大男が黄金の輝きを纏った大剣を振り下ろす。
「くっ!?」
せっかく主に出会えたと言うのに…。
こんな所で終わるなんて…。
諦めかけたその瞬間ーーー。
「は?」
黒い闇の壁が剣を阻み、
そして、闇は鎖をも飲み込んだ。
ノクスの視界の先、金髪がきらりと輝いた。
「なにこれ。」
敵意も殺意もない、場違いに呑気な声が響く。
「エルナ様っ!!」
***
私の予想は的中してしまった。
しかも、予想より悪い方向に。
あのノクスがボロボロになってるではないか。
てか、こいつら誰?
いかにも冒険者みたいな風貌の五人組。
ノクスを攻撃してるってことは敵…だよね?
それにさっきの攻撃はやばかった。
強烈な光の剣がノクスを真っ二つにしようとしていた。
咄嗟に「とまれ!」と願ったら止めれたけどーー。
……え?
これって、やっぱり私がやったんだよね?
カッコつけて登場はしてみたが、私は混乱していた。
「何者だ!」
何者って言われてもな…。
うーんと、どうしよう。
敵意剥き出しの彼ら、戦闘は避けられない様子。
でも、私戦ったことなんてないんだよね。
そもそも何でこんなに敵意剥き出しなのよ。
私なんかした?
「あなた達こそ誰なの?」
「俺たちはS級パーティだ!」
大剣の男の後ろに隠れていたひょろひょろの短剣使いが吠える。
「S級パーティ?
そんな大物が一体何をしに来たの?」
S級って結構物語の重要ポジションでしょ?
そんな彼らがこんな山奥に何の用があるというのだろうか。
「お前達を討伐するためだ!」
は?討伐?なんで?
「なぜ?」
「お前達は人間に害をなす魔物だ!
被害が出る前に討伐しなければならない!」
大剣の大男が一歩前に出る。
は?
私には理解できなかった。
魔物じゃないし…。
てか、害なんて与えるつもりないし…。
「私達は魔物じゃないし、
あなた達に危害を加える気はないわ。
だから、引いてくれない?」
ここは穏便に済ませたい。
冷静を装って会話しているが、内心は心臓バクバクなのである。
「危害を加えるつもりがないだと?
なら何が望みなんだ!」
「望み?」
何でこいつら急にそんなこと聞いてくるんだ?
「魔物どもは人間を殺すことに快楽を得ると聞いた!そんな奴らが殺す気はないだと?ならば他に望みがあるはずだ!」
あーなるほど?
てか、さっきから言ってるけど魔物じゃないし…。
望み…望みか…
「のんびり引きこもりライフ?」
「そんな言葉で騙されると思うな!
君たちは危険だ。ここで倒させてもらう。」
ついつい口から出た本音に、顔を真っ赤にして激昂した大男は剣を構えた。
危険?そうかな?
あなた達が仕掛けてこないと戦うつもりなんてなかったんだけど。
どうしたものかと頭を悩ましていると、大男が切り掛かってくる。
「はぁァァ!」
だが、巨大な闇が口を開き、パクッと飲み込む。
「は?」
さっきまでそこにいた大男は影も形もなく消え去っていた。
槍使いの男が目をぱちぱちさせる。
「なにをした!?」
槍使いの男が叫びながら切り掛かる。
「さあ?
それより、引いてくれない?」
私はとびきりの笑顔で言った。
できれば引いて欲しい。
混乱しているのはこちらも同じなのだ。
え?今の私がやったんだよね?
こっそりノクスがタイミング合わせてやったとかじゃないよね?
「仲間がやられたんだ!
…できるわけないだろう!」
男は拳を強く握り締め、絞り出すかのようにいった。
「そうよ!」
「…そうだ!」
他の仲間達も一斉に同意する。
どうやら引いてはくれない様子。
うーん。どうしようかな。
あるものは弓で、
あるものは魔法で、
一斉に攻撃をしかける。
だがーー。
***
ぽすっ
振り下ろしたはずの槍が手の中から消える。
なんの衝撃も前触れもなかった。
「嘘だろ…。」
辺りを見渡すが槍らしきものは見当たらない。
それどころかーー。
「…は?」
背後に広がる光景に目を見開く。
先ほどまで仲間達がいた場所には何もなかった。
木も花も、雑草さえ。
男は恐怖に身体を震わせていた。
絶対的な強者。
本能的に"敵うわけがない"そう思えた。
「魔物は…強者には絶対服従。」
あの執事でさえ、S級である我々のパーティと互角の戦いをした。
ならば、あの少女はーー
その事実に気づくにはあまりにも遅すぎた。
三人の男達は闇へと飲み込まれ、
そしてその場には何も残らなかった。
ただ一つ、巨大なクレーターだけが残されていた。
***
「ふぅ」
なんかどっと疲れた気がする。
「エルナ…様?」
震える声で名を呼ばれ、ノクスの方見る。
その姿は怒ってるなんてことはなく、歓喜に打ち震えていた。身体をぶるぶる振るわせ、目には涙を浮かべ、うっとりとした顔をしている。
「助けに来てくださったのですね!!」
ものすごい勢い…。
ボロボロに見えたけど、意外とピンピンしてる?
と思ったが、急に顔が真っ青になる。
「…はっ!私としたことが…エルナ様のお手を煩わせるなど、重罪…。」
相変わらず大袈裟なやつだな。
んーでも、ここはーー。
「そんなこと気にしないよ。
ノクスは私の大切な執事。
助けるのは当たり前でしょ?」
にこっと微笑みながら言う。
そう、これはチャンスなのだ。
彼に恩を売ろう。
ボロボロになったノクスを見て思ったことがある。
この快適な生活は永遠とは限らない。
ノクスを失っては終わりなのだ。
誰かに殺されるなどもってのほかだが、
もう一つ恐れるべきことがある。
それは愛想を尽かされること。
今の彼なら大丈夫そうだが、人間誰しも心変わりはする。もしかしたらだらける私に呆れて出て行ってしまうかもしれない…。
なので、愛想を尽かされないように、適度に恩を売る必要がある。
私の快適な引きこもりライフを守るために!!
「エルナ様っ!!!
ありがたき幸せ!!」
私の魂胆など知る由もなく、ノクスは感動の涙を浮かべる。
うんうん!
ちょっと大袈裟な気もするけど、これできっとしばらくは安泰だな。
あの快適な生活と美味しい食事の数々を手放すには惜しいからね。
ほっとするとお腹が空いてくる。
ぐぅぅ。
「エルナ様、早く帰ってお食事としましょう。」
気づくとあたりはすっかり暗くなっていた。
執事は微笑みながら言う。
「うん!」
今日は頑張ったしご飯美味しいはず!
私達は足取り軽く、城に戻った。
このときの私は知らなかった。
この森が人が立ち入れない魔の森だと言うことをー。
そして、のちに私が魔物を統べる女王として恐れられることになると言うことをー。
知る由もなかった。
***
「ハァ…ハァ!ギルドマスター!」
短剣を腰に下げ、全身を傷だらけにし、肩で息をしながら、男はギルドに駆け込んだ。
「リーダーが…やられた!!」
「なん…だと!?」
そんなはずはない。
このギルドでいちばんの手だれのはずだ。
一同にどよめきが広がった。
読んでいただきありがとうございます!
初投稿のため至らない点もあるかと思いますが、少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです!
もし好評でしたら、続きを長編として書いてみたいなと思っています。
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