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魔力0の訳あり王女、最狂につき取り扱い注意  作者: やきいもほくほく
一章 悪女は牢の中で

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場所が変わり、後宮では──。



「へぇ……なかなかに肝がすわっているじゃない。アナベルもそう思わない?」


「エマニュエル様、ほどほどにしませんと、皇帝陛下に怒られますわよ?」


「別にバレなければ、やっていないことと変わらないのよ。それに魔法を使っても魔力がないなら気づかないでしょう? こうして会話を聞かれているなんて思っていないわ」


「……まぁ、そうですわよね」



当然のように言うエマニュエルにアナベルの顔が引き攣っていく。



「それに帝国の空にはいろんなものが浮かんでいるわ。小さな球体が紛れ込んだところで誰も何も言わないわよ」



エマニュエルはワインレッドのストレートの髪をかき上げた。

レッドブラウンと瞳は猫のように細まっていた。

真っ赤な唇と胸元のあいたドレスは扇情的だ。

彼女がパチンと指を弾くと蝋燭の炎が一気について、周囲を明るく照らしていく。



「どうなっても知りませんわよ?」


「そういうアナベルも、あんな汚ったない物置き部屋を用意してヴィクトール陛下にバレたらどうするのよ」



アナベルはかわいらしく首を傾げた。



「なんのことでしょうか?」


「しらばっくれるんじゃないわよ」


「いいえ、わたくしは精一杯やってますわ。だって本来なら妃候補は四人と決まっているんですもの。余っている部屋がここしか空いてなかったのは仕方ないことですから……」


「客室があるじゃない」


「急な来客があれば大変ですわ。絶対にあけておかなければ……!」



アナベルはハーフアップにして巻いてあるプラチナシルバーの髪を何度か撫でていた。

ライトブルーの瞳と長いまつ毛でぱっちりとした目元。

まるで人形のように整った顔立ち。

慈愛に満ちた柔らかい笑みを見たら、誰しもが心を許してしまうだろう。



「ああ、そう……さすが優しい聖女様ね。今回はそういうことにしておいてあげるわ」


「あら、こんなところに傷が……」



アナベルは自分の指にできた擦り傷に手のひらを当てる。

柔らかな光が降り注ぐと、擦り傷はあっという間にきえてしまった。

それを見つめながらエマニュエルはワイングラスを傾けていた。



「その力だけは、本当に素晴らしいわね」


「エマニュエル様がわたくしを褒めるなんて……今日は空から槍でも降るのかしら」


「……正妃争いもあんたがいなければ楽だったのに。ナタリーは魔法にしか興味のないお子様よ。よく辺境伯はあの子を正妃候補として寄越せたわね」


「魔法の強さで選ばれるのだから、仕方ありませんわよ」


「ベアトリスはお堅くて大っ嫌い。自分が正しいって思っているの。見ているだけで虫唾が走るわ。ただでさえ水魔法を使うってだけでも気に入らないのに……」


「ふふっ、社交界でも実際はエマニュエルとわたくしとの一騎打ちだと言われていますもの」


「そうよねぇ……今回、あの子が来てあなたが落ちぶれてくれたら大満足なんだけど」


「それはお互い様ですわ。わたくしが正妃になるのだから邪魔しないでくれません?」



二人は決して目を合わせることはなかった。

ただ蝋燭の火が揺らめいているだけで、まとう空気は張り詰めたものだ。



「魔法も使えない目障りな奴は早々に消えてもらわないと。厚かましい性格みたいだし」


「陛下に助けていだいて、夜に部屋に来ていただきたいなんて……。まだ、わたくしたちの部屋にもいらっしゃったことがないというのにっ!」



アナベルの持っていたカップが粉々に砕け散ってしまう。

しかし笑顔で指でガラス片をなぞると、カップの残骸が一瞬で端に山積みになった。



「あの門番はその場で処罰されたそうですわ」


「あら、可哀想に……運が悪いのね」


「エマニュエル様、あなたのせいでしょう?」


「わたくしは少し〝お願い〟しただけよ。それにあんなに放置する予定じゃなかった。いつもならモルガン様辺りがすぐに気づくでしょう?」


「それもそですわ。陛下も同じように思ってくださったのかしら」


「それに魔法が使えないなんて、この帝国で生きていけるわけないじゃない。現実を教えてあげただけよ」



ナリニーユ帝国の貴族たちは、ほぼすべての人間に魔力が備わっている。

平民の大半は魔法が使えないが魔導具に頼っていた。


自分の属性魔法ではなくとも魔力を流し込めば動く便利な道具を魔導具と言う。

魔導具を使えなければ灯りをつけることも水を出すこともできない。

魔石も簡単に手に入る。


だが、原始的な生活を続けているサンドラクト王国の人間は困惑するはずだ。

全部自分の手を動かして、時間を無駄にするなんてありえない。

これだけ便利で豊かに暮らせるのもすべて魔法のおかげなのだ。



「持参金もないそうよ。あの脳筋な国王が考えそうなことよね。しかも侍女と従者が二人だけなんて……本当に王女なのかしら?」


「王女といってもあのサンドラクト王国の王女ですわ。何もしなくても暴力沙汰や問題を起こしていなくなるのではないかしら」


「それに大量の荷物も無駄に荷馬車に詰めてきて……魔力がないと何もできずに大変よ」


「すぐに根を上げて国に帰りますわ。サンドラクト王国出身でしたらナリニーユ帝国では暮らしにくいでしょうから」



こうして秘密のお茶会は続き、夜がふけていった。



次の日、エマニュエルがシャルレーヌの部屋に浮かべている盗聴器に耳を傾けても呼吸音や寝言さえ聞こえない。

部屋の中で休んでいるそうだが、そうは思えなかった。  


侍従に体調が回復したら、お茶会に参加するように言っていたはずなのに、連絡すらないとはどういうことだろうか。

アナベルとエマニュエルは苛立ちを抑えるのに必死だった。


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