③
「あら、わたくしとしたことが! 口が過ぎましたわね」
「…………ゴホンッ」
父は誤魔化すように咳払いをする。
「魔法も使えないお前の扱いは最悪だろうな」
「……っ!」
ただでさえ敵国出身であり、魔法が使えない。
これ以上にない最低な状況である。
シャルレーヌは俯きつつ小さく震えていた。そして勢いよく顔を上げた。
「な、なんて素晴らしい嫁ぎ先なのでしょう! 今までで一番いい条件ですわね」
「……そう言うと思っていた」
呆れたような顔でこちらを見る
「それに魔法はとても強いのでしょう? わたくし、ついに死んでしまうかもしれませんね」
そのセリフとは裏腹に、シャルレーヌの唇は大きな弧を描いている。
「せいぜい楽しんでこい。もう二度と会うことはないだろうがな」
「任せてくださいませ。暗殺は得意分野ですから、一人ずつじっくりと嬲り殺して……」
「──違う違う違うっ! お前は大人しく側妃として慎ましく大人しく自由に暮らせばいいのだ!」
「嫌だわ、お父様。仕掛けられたらやり返す、という意味ですわ」
「嘘つけ……」
父は再び腹の上部分を押さえて苦悶の表情を浮かべていた。
その表情を見ていると紅茶とお菓子が進む。
しかし痛みが治ったのか、反撃とばかりに口を開く。
「はっ……余裕なのは今のうちだぞ? 魔法は嫌いだが、皇帝の持つ魔法の強さは一目置いている。なんせ一瞬で勝負が決まるらしいからな」
「一瞬で……?」
「我らが攻撃する暇すらないらしい。魔法でも彼には敵わないという……詳しくは知らんがな」
「そんな魔法があるのですね」
「触れれば死ぬ。闇魔法というらしい」
魔法はおろか、武術などまったく歯がたたないということだろう。
(つまり殴り飛ばそうとしても触れれば死ぬんですものね。闇魔法……なんて興味深いのかしら!)
候補者に入っていなかったのにもかかわらず、圧倒的な魔法の力で皇帝に登り詰めたそうだ。
誰にも彼に逆らえないのだ。闇魔法はすべてを呑み込んでしまう。
その噂を聞いた父も、さすがにその力を警戒しているようだ。
様子見も兼ねてシャルレーヌを嫁がせようとしているのかもしれない。
後宮には側妃が集まり住んでいる。正妃のみが皇帝とともにいることが許される。
シャルレーヌは魔法が使えないため、側妃が確定している。
妃たちは国でもっとも魔法の力が秀でている令嬢ばかり。
それに脳筋のカリマでは太刀打ちできないと判断したらしい。
(たしかにカリマお姉様では喧嘩ばかりですぐに離縁してしまいそうですものねぇ)
気に入らない妃に端から決闘を申し込み、問題を起こして責任を追及されてはたまらない。
今、サンドラクト王国には王女が二人だけ。
もっといたような気もしたが、自滅するように次々と消えていってしまった。
カリマとシャルレーヌを排除するつもりが返り討ちにあっただけなのだが。
(弱いものは淘汰されてしまうと、サンドラクト王国では誰もが知っていることだわ)
まさに弱肉強食。それは王族でも例外ではない。
今は第一王子フェラン、第一王女カリマ、第二王女シャルレーヌ、第二王子グレゴリーが生き残っている。
一番下のグレゴリーはまだ八歳だ。もう何番目かわからない妃の子だ。
彼はとても愛らしい顔をしているが、毒や虫に秀でており強力な毒を開発中だ。
戦闘スキルはそこまでないが、自分の持つ武器を最大限生かした戦い方でここまで生き残っている。
(グレゴリーに会えなくなるのは寂しくなりますわねぇ……もうわたくしを殺しにきてくれないなんて)
ナリニーユ帝国に行けば、今までのように気軽に相手ができなくなってしまう。
次の標的が誰になるのかが楽しみだ。
「持参金は? こんな訳あり王女を迎え入れてくださるのだから相当な額を……」
「そんなもの払う義理はない。ワシの娘をくれてやるだけ、ありがたいと思え」
「そんなことばかり言っているから、いまだに蛮族などと罵られるのですわ。郷に入る時は郷に従えとありますでしょう?」
「ワシに関係はない話だ」
国王は子どものように唇を尖らせて、顔を背けてしまった。
「仕方ありませんわ。お兄様に相談いたしましょう。ルイとロミは輿入れの準備を」
「「かしこまりました」」
シャルレーヌはそう言ってカップをゆっくり置いて立ち上がる。
鉄格子に手をかけて無理やり曲げてしまった。
何事もなかったかのように外に出ると、その後ろにロミが続く。
「さぁお父様、お兄様の元へ参りましょう?」
「…………牢にいる意味ないじゃんか」
「オホホ、楽しみですわね」




