②① ヴィクトールside5
次の日、朝食でも彼女は大暴れしていた。
まるでアナベルとエマニュエルの性格を理解した上で彼女たちを煽っているように見えた。
そこでのエピソードがヴィクトールをさらに驚かせることになる。
まずは地下牢で暮らしていた点だ。
サンドラクト国王がこのことについて触れなかったというのとは大したことではないのかもしれない。
病弱な彼女が地下牢で暮らしていること自体、驚きだった。
そして恐らくアナベルの嫌がらせで、今は物置きのような場所らしい。
彼女は気に入ったと言っているが、さりげなく嫌がらせをされているという現状を暴露しているではないか。
シャルレーヌは頭の回転が早いのか、下調べをしてきたのかはわからない。
意味がわからないほどに場を掌握していくシャルレーヌの手腕が恐ろしいとすら思う。
次々とそれを暴いていくシャルレーヌは気味が悪いほどにずっと笑顔だった。
さすがにアナベルやエマニュエルの顔は引き攣っていく。
彼女は上辺では聖女を演じているが、裏ではまったく違う。
ヴィクトールがもっとも嫌悪しているタイプに分類できた。
けれど教会出身で教皇と強い繋がりがあり、尚且つその聖魔法で帝国民からの指示も圧倒的だ。
だからこそ大きな失敗がない限りは無碍にはできない。
エマニュエルとベアトリスも同じようなものだろうか。
ナタリーだけはヴィクトールではなく、闇魔法にしか興味を持っていない。
そんなしがらみなどまったく関係ないと言わんばかりに、シャルレーヌの勢いは止まらない。
それと同時に具合が悪く弱々しく見えるというところも、なんともアンバランスだと思えた。
この後、ヴィクトールと会うということも暴露して彼女たちを煽っていく。
どうやら始めから仲良くしようという気はないらしい。
それよりかはもっと仕掛けてこいという余裕すら感じる。
最終的には体調が保たずにシャルレーヌは去っていった。
(サンドラクト国王はああ言っていたが……)
彼女の状態を知る必要があると、医師を派遣するも食事をいっさいとっていないことが判明した。
朝食も侍従がいれた水以外、口にすることはなかった。
その警戒心に驚かされるばかりだが、サンドラクト王国では当たり前だったと聞けば納得もしてしまう。
それは侍女や従者も同じだそうで、彼らは食事をとらずとも平然としている。
またこちらの失態だとヴィクトールはすぐに厨房に行き、アナベルとエマニュエルに協力した者たちを炙り出していく。
(彼女が病弱なのは栄養不足なのか? いいや、違う。もっと別の……)
考えつつシャルレーヌの部屋……というよりは物置き部屋へ。
窓は一つしかなく、昼間なのに真っ暗だった。
しかしその暗闇はヴィクトールにとっても心底心地のよいものだった。
シャルレーヌは咳き込みつつも体を起こそうとするが、それを制止する。
牽制してみるも、待ってましたと言わんばかりの態度。
彼女に抱いていた大きな違和感を確認するために言葉をかけた。
『お前を正妃にするつもりはない』
そう牽制しても彼女はあっさりと承諾して、正妃の座にはまったく興味を持っていないことがわかる。
なら、何を目的に動いているのか。
自ずと一つの答えが導き出される。
彼女は間違いなく、自分が楽しめればいいと思っているのだ。
ヴィクトールはシャルレーヌが争いを求めているのだと理解する。
(これはまた厄介だな)
ヴィクトールがサンドラクト国王の言っていることを理解し始めていた。
それから闇魔法が勝手に警戒を緩めてシャルレーヌに甘え始めたではないか。
闇魔法を愛でながら眠りにつく姿を見て、それには言葉を失っていた。
がっちりと抑えられていることや、闇魔法がここにいたいと触手のような腕を動かしてアピールを始めた。
「なんなんだ、君は……」
そんな言葉しか出てこなかった。
そしてこのアナベルとエマニュエルの一連の行動を教皇や公爵に伝えなければならない。
このチャンスを逃すわけにはいかなかった。
正妃には相応しい行いではないと匂わせておくのも忘れない。
(うまく使えとはこういうことか……たしかに選択肢によってはマイナスにもプラスにもなるな)
この選択肢を間違えた王族たちは、サンドラクト王国に吸収されていったのだろう。
しかしナリニーユ帝国ではサンドラクト王国を嫌っている貴族も多い。
王国出身のシャルレーヌがどうなっても、ざまぁみろと思う貴族たちしかいないはずだ。
魔法も使えないため、下に見ているのだろうが油断していれば噛み付かれて引き千切られてしまうだろう。
すやすやと眠るシャルレーヌは闇魔法を嬉しそうに抱きしめている。
その姿を見つめながらヴィクトールは考えていた。
(どうしてこんなことができるのか……調査した方がよさそうだな)
シャルレーヌが闇魔法に触れることは伏せたことがいいのではないか。
腹の底が見えない限り、あまり彼女を刺激しないほうがいいはずだ。
彼女を庇えば悪化することは目に見えていた。
だが、彼女がいることでなにかが変わる……そんな予感がしていた。
アナベルとエマニュエルもこの一件で少しは大人しくなるはずだ。
そんなことを考えながらヴィクトールは瞼を閉じた。




