②⓪ ヴィクトールside4
『まさか新しい皇帝がこんなに話のわかる奴だと思わなかった。やはりワシの勘は正しいな!』
どうやらサンドラクト国王も同じように思っていたようだ。
その後は王太子のフェランの愚痴と第一王女のカリマの自慢話を永遠と聞かされることになった。
表向きは国同士の歩み寄りで、本来の目的は互いの利益のために。
しかし実際にはヴィクトールの予想を上回ることが起きていた。
(明らかにこの女が来てからだな……)
シャルレーヌは彼が言うほどの危険な人物なのかと疑いたくなるほどに可憐な令嬢だった。
ホワイトゴールドの髪とストロベリーピンクの瞳。
誰が見てもかわいらしく華奢な令嬢だった。
サンドラクト国王は見目はいいと言っていたが想像を遥かに超えていた。
それに加えて病弱らしく何度も咳をしていた。
いろいろな策略が絡み合った結果、シャルレーヌは門で倒れてしまった。
監視カメラのような役割を果たす魔導具が門に集まっていることが気になり、様子を見に行ったことでヴィクトールが直接シャルレーヌを助けることになってしまった。
その時、闇魔法に触れてしまったような気がした。
サンドラクト帝国に住むものならば、絶対にありえない行動だろう。
シャルレーヌは倒れてしまったため気になってはいた。
そう思い、侍女を派遣するも彼女たちから音沙汰はない。
こちらのミスであるからだ。とにかく彼女の回復を待つしかなく、その後に会えればいいと思っていた。
焦ったところで意味はない。
彼女はもうナリニーユ帝国に嫁いできたのだから。
(哀れだな……)
そんな感情もシャルレーヌに会えば変わるのだろうか。
異変はこれだけでは止まらなかった。
次の日の夕方、ボロボロな従者と共に謁見へ。
ひどい目にあっているのだからどうにかしろと言われているようだ。
シャルレーヌから罰を受けたのかと考えたが、間近で見ると明らかに魔法で傷つけられているとわかる。
(アナベルかエマニュエルあたりか……? まったくくだらない)
彼女たちは知らないのだ。
モルガンの魔法でとっくに本性が暴かれていることに。
けれど今は知らないフリをしている。
朝食を共にした時に被った仮面。それを見るたびにに吐き気がしていた。
ナタリーも魔法研究に没頭しているだけで、さして王妃の座に興味がない。
恐らくベアトリスが一番まともだろう。
こういう裏表を見抜けないから皇族は無益な争いを繰り返していたのではないかと思っていた。
彼女はサンドラクト王国出身とは思えないほどに淑やかな王女だった。
大臣たちは暇つぶしか、魔法を使えない王女を嘲笑いに来たのだろうか。
しかしシャルレーヌの柔らかな笑顔に、大臣たちはすっかり虜になっている。
(……思ったよりも小柄だな。サンドラクト国王があそこまで言う人物にはとても思えない)
何も言えなそうなシャルレーヌが侍女と侍従のことを話すと感情が見える。
ピリピリとしたわずかに痺れるような怒りの感情。それに気づいたのは闇魔法のおかげだ。
服を手配するように指示を出すと、その違和感も治っていく。
そして明らかになるのはこちらの手違いや伝達ミスだ。
モルガンから始めて聞く内情に、ヴィクトールの怒りの感情に合わせて闇魔法が動き出す。
しかし彼をシャルレーヌが庇ったのだ。
その予想外の行動に周囲は困惑することとなった。
余裕のある態度は見下されるようで気分が悪い。
失態の理由がこちらにあると知り、尚更腹が立ってきた。
シャルレーヌの願いを叶えることでモルガンの失態をカバーしようと考えた。
(彼女がまだどんな人物かわからない。このまま帰られるのだけは避けなければ……)
こちらに失態がなく、彼女のわがままで帰るのならいいが今回はそうではない。
この短期間でこれだけ嫌がらせをされていると感じるならば、それを辞めさせるように頼むのかと思っていた。
誰もが周囲の優位に立つようなことを言うのだろうと誰もが思っていたのに、実際に出てきた言葉はまったく違うものだ。
『闇魔法に触らせてください』
そう言われて闇魔法自身も照れているというよりも同意し喜んでいる。
こんな感覚は初めてだった。
(今からでもいいが、夜に部屋に行ったと妃たち知られてしまえばまた面倒なことになるな)
今は正妃争いで面倒なことになりかねないと思い、明日の朝を提案したのだが彼女はなぜか不満そうに見えた。
意外にも王妃の座を狙っているのではないか。そう思えても仕方ない行動だった。
機嫌よく去っていく彼女を見送りながら、こうなった原因を調査する指示を出す。
後々わかったことだが門番たちに指示を出していたのは恐らくエマニュエルだ。
だが、そのことにヴィクトールたちがすぐに気づけなかったのはカラスや動物たちが逃げ出してしまい、モルガンに伝達がいかなかったからだ。
(モルガンが動物が何やらと慌てふためいていたが、まさかシャルレーヌが来たからか? いや、考えすぎか。彼女には何の力もないはずだ)
その後もモルガンの魔法の調子は戻らない。
『何かに乗っ取られたようなんです。しばらく他の子と交渉してみます』
カラスは頭もよく空からどこからでも視界を借りることができた。
それを公開していないため、謁見の時は無理やり彼の言葉を遮ったのだ。
(このことがバレたら面倒だ……)




