①③
シャルレーヌはなんとも言えない空気に痺れていた。
ニヤけるのを我慢するのが精一杯である。
(なんて素晴らしいのかしら……!)
目立たないシンプルなドレスを着てきたのだが、それを遥かに上回る豪華なドレスを着ているアナベルとエマニュエル。
ドレスの豪華さは富の象徴だ。朝から化粧もばっちりで食事に出揃っているのは、ヴィクトールへのアピールなのか。
まるで格の違いを見せつけられているようだが、シャルレーヌにとってはどうでもいいことだ。
(急に襲われたとして彼女たちはその格好で自分の身を守れるのかしら。それとも魔法で身を守る術が?)
マウントだとしたらシャルレーヌにはまったく効果がない。
当たり障りない挨拶に自己紹介をして席に着く。
シャルレーヌは誰が自分に嫌がらせをしていたのかは大体わかっていた。
概ね容姿もカラスたちから聞いた情報通りで、すぐに把握することができた。
(もう少し早く来れたらよかったけれど朝は苦手ですもの。こればかりは仕方ありませんわ)
窓が大きい部屋の中。容赦ない朝の光がじりじりとシャルレーヌの白肌を焼いていく。
顔色が徐々に悪くなっていくのも致し方ないことだろう。
なんとか咳をしないように抑えていたが、我慢ができずに咳き込んでしまう。
「ゴホッ、こほ……申し訳、ありません……!」
朝日に晒されているせいで咳が止まらなくなり、一旦席を立つ。
ルイが付き添ってくれたが、日が当たり続けるのはつらいものがあった。
深呼吸をして、再び席に戻る。青白い肌は次第に汗ばんでいく。
(……困りましたわ。食事どころか意識を保つのがやっとですわ)
そう思いつつなんとな席に戻り笑みを浮かべた。
アナベルたちも何か仕掛けようとしていただろうが、あまりのシャルレーヌの具合の悪そうな姿にまだ何も言えないようだ。
それかヴィクトールが着席してから何か言うつもりなのか。
ベアトリスが心配そうにこちらを見ていた。
先にルイに白湯をもらい、ゆっくりと飲んでいるとヴィクトールが到着する。
彼が着席するとオノレが背後に立った。
妃たちは一斉に立ち上がり頭を下げて、シャルレーヌも一歩遅れて同じ行動をとる。
食事が運ばれてくるのだが、咳を我慢することに全神経を集中していた。
けれど笑みを作るだけで食事を口に運ぶことはしなかった。
美しく並べられた料理がただただ増えていく。
楽しげに談笑しているように見えて、常に様子を窺われていた。
値踏みされるような視線は、これからしばらく続くとしても何も仕掛けてくることはない。
少なくとも侍女や侍従の服を傷つけられ、出迎えも来ず、蔑ろにされていることを理解して、わきまえていると勘違いしているのか。
シャルレーヌの見た目や、予想以上に病弱な姿から敵ではないと判断したのかもしれない。
(甘い……甘ったるくて吐き気がしますわ)
上部だけの会話が繰り返される場で、シャルレーヌは甘さを中和するように水だけを口にしていた。
しかし最初に仕掛けてきたのはアナベルだった。
「ここでの生活はどうかしら? 侍女と侍従が嫌がらせをされたと聞いたけれど大丈夫?」
「……えぇ、お気遣いいただきありがとうございます」
天使のように微笑むアナベル。
彼女の笑顔の裏には色々な策略が渦巻いていそうだ。
それがヴィクトールへのアピールにもなるのかもしれない。
その証拠にエマニュエルの顔が醜く歪む。
(やられた分はやり返さないといけませんもの……気合いを入れませんと)
最初の印象は大切だと、呼吸を整えていた。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。毒なんか盛っていないわ」
アナベルに続き、今度はエマニュエルが声をかけてくる。
彼女は優雅に肉料理を切っているが、シャルレーヌは一皿も手をつけないままだ。
「食欲がありませんの。それに……コホッ」
シャルレーヌは咳き込みつつ、白湯を口に含む。
「侍女や侍従たちを誰かに傷つけられたのです。わたくしもどうなるかわかりませんし、また危害を加えられると思うと怖くて……」
「あ、あらそう……大変だったのね」
「はい。陛下が侍女たちに新しい服を用意してくださったので安心ですわ。それに長旅の疲れもあってお見苦しいところを……申し訳ございません」
この咳は人に移るものではないと説明しつつ、にこやかに答えるシャルレーヌにエマニュエルは機嫌が悪そうに顔を歪めて、食器がカチャリと音を立てた。
「希望とあらば毒味を用意するか?」
「まぁ……皇帝陛下はお優しいのですね。ですが大丈夫ですわ」
シャルレーヌはあえて頬を赤らめ、媚びるようにヴィクトールを見た。
すればアナベルとエマニュエルの癪に触ったのだろう。
鋭い視線に焼かれてしまいそうになるが、そこに更に燃料を投下する。
「陛下、あの約束はお食事の後でよろしいでしょうか?」
「…………。ああ、そうだな」
「でしたら、わたくしがこの後にお部屋に伺いますわ」




