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魔力0の訳あり王女、最狂につき取り扱い注意  作者: やきいもほくほく
一章 悪女は牢の中で

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コツコツとブーツの音が地下牢に反響していた。

ぴちょんと水音が定期的に聞こえる。蝋燭の光がぼんやりと辺りを照らす。

底冷えするような寒さ。一歩先は闇で何も見えない。


漂うお菓子の甘い香りの中に混ざっているのは腐敗臭だ。

足音はある牢の前でぴたりと止まった。

銀色の鉄格子の中、牢の中にはあるはずのない上等なベッドや猫足のソファがある。

女性らしい花柄の生地や真っ白なシーツはここにあるはずのないものだ。

真ん中には小さめなアンティークテーブルが置かれていた。

その上には花柄のかわいらしいカップの取っ手を持つ小さな手。

紅茶からは湯気が立ち空気に溶けていく。



「はぁ……シャルレーヌ、こんな場所にこんなものまで持ち込んでどうするつもりだ」



名前を呼ばれるのと同時、ソーサーに静かにカップを置いた。

彼の言葉はもっともだろう。

ここは罪人が収監される地下牢なのだから。

シャルレーヌのいる牢の壁には拷問器具がびっしりと並んでいた。



「あら……わたくしはお父様と王国のためにここにいますのに、ひどいですわ」


「…………はぁ」


「というのは建前で自分のためでもあるのですけれど」



すると彼は額を押さえながら、またため息を吐く。

サンドラクト王国の威厳ある国王の父にこんな表情にさせられるのは、王国でシャルレーヌだけかもしれない。


シャルレーヌは焼きたてのクッキーを口に含む。



「今日もおいしいわ。また腕を上げたんじゃなくて?」


「もったいないお言葉です」



ほろりと口内で溶ける苦味の強い生地。

あまりのおいしさにシャルレーヌは頬を押さえた。



「シャルレーヌ様、本日はマドレーヌもございます。中にはアレをたっぷりと使っております」


「まぁ……! ありがとう、さすがロミね」


「紅茶のおかわりはいかがでしょう」


「お願いするわね。ルイの淹れる紅茶は世界一だわ。ゴホッ、コホ……」


「シャルレーヌ王女殿下、大丈夫ですか?」



ルイがすぐにシャルレーヌの背を摩った。



「もう……お父様が外の汚い空気を持ってきたからかしら」


「失礼な……」



シャルレーヌの両サイドには侍女のルイとロミという従者が控えていた。

顔はそっくりで見分けがつかないほどだ。

血のような赤い瞳と銀色の髪は前髪の分け目は違うが、編み込んだ三つ編みの長さも同じ。

彼らは皺一つない燕尾服と侍女服に身を包んでいる。

服が違えば、間違えてしまいそうになるほど瓜二つだ。


何も言わずにこちらを見つめる父を催促するように声をかける。

折角のティータイムもこのままでは楽しめない。



「まだ何か御用でしょうか」


「用がなければここにはいないだろう?」


「そうですわよねぇ……あ、わかりましたわ。またくだらないお仕事の依頼でしょう?」



シャルレーヌは手を合わせて微笑んだ。

サンドラクト国王がここにくる理由など一つしかない。

シャルレーヌの手にはどこから出てきたのか、先が尖ったナイフが握られていた。

まるで肉食獣が獲物を狙うように、ストロベリーピンクの瞳が暗闇で怪しく光る。



「……いいや、違う」


「え……? 違うのですか? それは退屈ですわね」



シャルレーヌが前方にナイフを放り投げると、けたたましい悲鳴が響き渡った。

しかし国王の表情はまったく変わらない。

背後を振り返りすらしないのは、さすがといったところだろうか。



「お前に縁談を持ってきたぞ!」


「…………はぁ」



今度はシャルレーヌがため息を吐く。

くだらない申し出は何度めだろうか。



「一応、確認のために聞いておきますけれど、カリマお姉様ではなく、わたくしの縁談ですの?」


「ああ、そうだ」


「またわたくしを利用して、内部から国を乗っ取る気でしたらお断りですわ」


「まぁそういうな。もうそんなことはしない」


「……どうだか」


「周辺諸国に警戒されているんだ。しばらくは大人しくしているさ」



シャルレーヌは今まで二度ほど隣国に嫁いだ。

十二歳と十五歳の時だ。けれどもう嫁いだ国はなくなってしまった。

正しく言うならばサンドラクト王国が吸収してしまった。

シャルレーヌが嫁いで一年足らずで消えたのだ。


サンドラクト王国はここら一帯の国々で唯一魔法や魔具に頼らない王国だった。

他国からはシャルレーヌが傾国の美女だったため内部から取り合ったと言われているがまったくのでたらめだ。

シャルレーヌも加担していたことは否定できないが、最終的には自分たちで争い、裏切って壊れてしまった。


(わたくしより弱くて脆かったんですもの……仕方ないわ)


シャルレーヌがただの国に行けばこうなってしまうのだ。

つまらない存在なのだから尚更のこと。

けれどスパイを疑われることも、シャルレーヌのせいになることもなかった。


表向きはシャルレーヌが病弱でサンドラクト国王に溺愛されすぎていることが原因になっていた。

他国にはすべて父がシャルレーヌに不当な扱いを受けた国に罰を与えたような形か、もしくは父が仕組んだことになっている。


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― 新着の感想 ―
誤字報告です。 タイトル文での 「王国ほ病弱王女シャルレーヌ」は「王国の病弱王女」・・・ではないでしょうか?
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