表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

初めての夜

 昼の議論が一区切りついたところで、俺は軽く手を叩いた。


「じゃあ、次に行く前に――

 夜に動く役の説明だけしておく」


 全員の視線が集まる。


「まず、人狼。

 夜に一人だけ、襲う相手を選ぶ。

 本来なら、その相手はそこでゲーム終了だ」


 エミリアが、びくりと肩を揺らした。


「次に、正体を知る役――いわゆる占い師だ」


 俺は続ける。


「この役は、夜に一人選んで、

 その相手が人狼かどうかだけを知ることができる」

「それを……例えば次の昼に言ってもいいんですの?」


 マリアンヌが尋ねる。


「言ってもいいし、言わなくてもいい。

 信じてもらえるかどうかは、本人次第だ」


 その言葉に、数人が微妙な顔をした。


「で、重要なことだ」


 俺は少しだけ声を低くする。


「昼に皆で決めて疑われたやつも、

 夜に人狼に選ばれたやつも、

 本来なら脱落だ」


 空気が、ぴりっと引き締まった。


「ただし――」


 間を置いてから、言う。


「今回はお試しだ。

 実際には脱落させない」


 安堵の空気が流れる。


「だが」


 俺は指を立てる。


「夜に誰が選ばれたか、

 占い師が誰の正体を知ったか――

 情報そのものは発生している

 それを、次の昼の推理に使ってみろ」


 全員が、静かに頷いた。


「じゃあ、ここから“夜”だ」


 俺は深呼吸する。


「今からは、

 俺の指示以外で声を出すのは禁止。

 動くのも、指差しだけだ……目を閉じろ」


 一斉に、瞼が閉じられる。

 世界から、視線が消えた。

 聞こえるのは、わずかな呼吸音だけ。


「――人狼役。目を開けろ」


 静かな気配。

 誰かが、そっと目を開いたのが分かる。


「襲う相手を、指で示せ」


 言葉は、返ってこない。

 数秒の沈黙。

 一本の指が、ゆっくりと持ち上がった。

(……なるほどな)

 俺はその先を確認し、

 何も言わずに頷く。


「人狼役、目を閉じろ」


 指が下がる。


「次だ…正体を知る役。目を開けろ」


 今度は、慎重な動き。


「知りたい相手を、指で示せ」


 少しだけ迷い――

 やがて、決断。

 俺は、事前に用意してあった小さな紙を一枚取り、

 無言で、占い師のに手元の紙を見せた。

 《普通の人》

 一瞬だけ。

 それで十分だった。

 占い師は、わずかに目を細め、

 何も言わずに視線を伏せる。

(いい。動揺を隠せてる)


「正体を知る役、目を閉じろ」


 再び、完全な沈黙。


「……夜は、以上だ」


 その言葉で、全員が目を開けた。


「……っ」


 空気が、明らかに変わっていた。

 さっきまでの昼とは違う。

 誰かが、何かを知っている。

 その事実だけが、重くのしかかる。


「補足しておくぞ」


 俺は言う。


「さっきの夜、

 人狼は一人を指名した。

 本来なら、そいつは脱落だ」


 数人が、無意識に周囲を見回す。


「だが、今回はお試しだ。

 だから誰もいなくならない」


 一呼吸。


「ただし――

 狙われた事実は、推理の材料になる」


 さらに、


「占い師も、誰か一人の正体を知っている。

 それをどう使うかは、自由だ」


 沈黙。

 さっきよりも、重い。

(……いい)

(ちゃんと“人狼”になってきた)


「じゃあ、昼に戻る」


 俺は宣言した。


「話し合いは、

 さっきより――確実に、ややこしくなるぞ」


 誰かが、苦笑した。

 誰かが、視線を逸らした。

 疑いは、もう種じゃない。

 芽を出して、根を張り始めている。

 ――こうして。

 夜という沈黙は、確かな情報を残し、次の昼へと引き継がれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ