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初めての昼

 俺は、テーブルの中央に伏せられた紙――すでに各自の手元に移ったそれを一度だけ見渡してから、軽く咳払いをした。


「よし。じゃあ、役割が行き渡ったところで、本格的に始める前に――この遊びの流れを説明する」


 自然と、全員の視線が俺に集まる。


「この『人狼』って遊びはな、基本的に

 昼と夜を交互に繰り返す」


 俺は、指を一本立てた。


「昼は、全員で話し合う時間だ。

 誰が怪しいか、誰が嘘をついていそうかを考え、その時点で1番怪しいやつを決める」


 次に、もう一本。


「夜は、特定の役を持ったやつだけが行動する。

 人狼は、その夜に一人を選ぶ」


 エミリアが、おそるおそる手を挙げた。


「えっと……昼と夜にそれぞれ選ばれた人は、どうなるんですか?」

「その時点で、ゲームから脱落だ」

「……!」


 小さく、息を呑む音。


「ただし」


 俺はすぐに続ける。


「今回は初回だから体験版だ。

 いきなり脱落者は出さない。

 まずは、流れを知るところからやる」


 その言葉に、全員がほっとしたように肩の力を抜いた。


「勝ち負けの条件も決まってる。

 昼の話し合いで人狼を見つけられたら、普通の人たちの勝ち。

 最後まで人狼が残ったら、人狼の勝ちだ」

「……なるほど」


 セシル王子が、顎に手を当てて真剣に頷く。


「では、今は?」

「今は、最初の昼だ」


 俺は、わざとらしく笑った。


「つまり――

 理由は何でもいいから、怪しいと思うやつを考える時間だ」


 その瞬間。


「……え?」


 空気が、ぴたりと止まった。


「ちょ、ちょっと待ってください」


 最初に声を上げたのは、エミリアだった。


「まだ……何も起きてませんよね?」

「起きてないな」

「なのに、怪しい人を……?」

「そう」


 即答すると、今度はマリアンヌが扇子を軽く閉じる。


「それはつまり……

 根拠のない疑いを向けろ、と?」

「推理の第一歩だ」

「第一歩にしては、ずいぶん乱暴ではありませんか?」

「最初は、みんなそう言う」


 レオンが、腕を組んだまま低く言った。


「……沈黙していると、どうなる?」

「怪しまれる」

「……理不尽だな」

「だが、そういうものだ」


 そのやり取りを聞いて、カインが楽しそうに笑った。


「ははっ!

 つまり、黙ってても喋ってても疑われるってことか!」

「その通り」

「最高じゃん!」

「最低だよ」


 俺は即座に切り返した。


「まあ、そんな感じの人を疑うことを主体にしたゲームってことだ。じゃあ、順番に行こう」


 俺はテーブルを軽く叩く。


「今の時点で、

 一番怪しいと思うやつを一人挙げてみろ。

 理由は……適当でいい」

「『適当でいい』が一番怖いですわね」


 そう言いながらも、マリアンヌは顎に指を当てて考え込む。

 沈黙。

 重く、気まずい空気。


「……じゃあ、俺から行く」


 最初に名乗り出たのは、カインだった。


「レオン」

「理由は?」

「喋らなすぎ」

「それだけか」

「それだけ」


 レオンは、深くため息をついた。


「……理解できるのが、腹立たしい」


 ゲーム性で言えばそれはそうだが、元々口数の少ないレオンには厳しいかもしれないと、苦笑いしながら戸惑い気味に手を握りしめているエミリアに視線を向ける。


「次、エミリア」

「えっ、わ、私ですか?」


 彼女は慌てて周囲を見回す。


「えっと……じゃあ……

 カインさん、です」

「お、俺?」

「はい……楽しそうすぎるので……」

「ひどい!」


 だが、誰も強く否定しなかった。

 こうして、理由になっているようでなっていない疑いが、次々と飛び交い始める。

 俺は、その様子を眺めながら思った。

(ああ……ちゃんと、疑い合ってる)

 まだ誰も嘘をついていない。

 まだ誰も、騙していない。

 それでも――

 この遊びは、もう成立していた。


「今回はここまでだ」


 区切りを告げると、全員が一斉にこちらを見る。


「え、夜は?」

「勿論次だとも」


 俺は笑った。


「昼の時間は終了だ。次は、夜をやる。

 その時は……もう少し、この遊びの“本性”が見える」


 その言葉に、誰もが少しだけ、期待と不安の混じった表情を浮かべた。

 ――こうして。

 正体当て遊びは、疑心暗鬼という名の歯車を、静かに回し始めた。

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