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9/11

第9話 収穫しました

 半年が過ぎた。春に着任した僕は、サハラ村で初めての冬を迎えようとしている。

 開墾は順調で、すでに予定の6割の畑が稼働している。

 僕はここでノーフォーク農法を試すことにした。

 カブ、オオムギ、クローバー、コムギを順番に栽培する方法で、つまり輪作の一種だ。

 すでに三圃式農業は普及しているが、これは冬作物、夏作物、休耕地の3サイクルでローテーションする輪作である。

 対してノーフォーク農法では、前述の通り4サイクルでローテーションする。休耕地をなくし、クローバーとカブで土地を有効活用することで、畑の3分の1が「何も作ってない状態」になる無駄を省く。

 単純に生産量が1.5倍になるのかと思ったら間違いだ。穀物生産量は数倍に増える。

 これは、三圃式農業が1枚の畑でオオムギとコムギの連作になるのに対して、ノーフォーク農法ではカブかクローバーが間に挟まることで土地の養分が回復するからだ。

 そして――


「リオ様、ご相談が」


 村長が困った顔でやってきた。


「こちらへ……倉庫を見て下さい」


 案内されて倉庫へ向かう。

 すると倉庫は、どこぞの店の圧縮陳列かと思うほど大量に、作物が入った木箱や袋が積み上げられていた。


「大豊作ですね」


「そうなんです。

 倉庫に入り切らなくなってしまいました」


 うひひひ……と村長はヤバいクスリでもキマったような顔で笑った。


「ドンキホーテ・デラマッチャ殿に買い取ってもらいましょう。

 それと、家畜を増やしましょうか」


「うひっ……! うひひひひ……!

 冬前に家畜を増やそうなんて、去年までとは正反対だ……! いつもは餌不足で冬を越せない家畜を仕方なく殺していたのに……うひひひひ……!」


 まさにそれこそが、ノーフォーク農法の真髄だ。

 家畜が増えれば畜産物も増える。そして増えた家畜の糞が堆肥になって、また土地の養分が増え、農作物の生産量も増える。

 ノーフォーク農法は、三圃式農業が「収穫量を減らさない工夫」だったのに対して、どんどん収穫量が増えるプラスのスパイラル効果を生む農業革命なのだ。


「お招きに預かりまして、ドンキホーテ・デラマッチャ罷り越しました、リオ様。

 おお! これは見事な大豊作ですな。この量はちょっと、今回もってきた馬車では運びきれませんぞ」


「可能な限りで結構ですよ。

 余った分は、堆肥にして畑作りと森作りに使います」


「このドンキホーテ・デラマッチャ、次回からはもっと大きな馬車で……いえ、複数台の馬車で来ることにいたしましょう。

 もはや行商というレベルではありません。かくなる上は、サハラ村に新規出店を計画しなくては」


 ドンキホーテ・デラマッチャは、ホクホク顔で去っていった。

 当初の計画では、もっと堆肥が少ない予定だった。

 畑に使いたい村人と、森に使いたい僕とで対立が起きるのでは、と危惧していたのだが。


「計画を1年半、前倒しします。

 森を作りましょう。それと新しい種類の作物の栽培実験も始めます」


 移住してきた革職人や染め物職人が、田舎暮らしに不満を持って出ていかないように、食事を充実させよう。

 移住に際して材木をよそから運んでもらったドンキホーテ・デラマッチャの苦労に報いるべく、材木の自家生産を始めよう。

 ここからだ。村の発展は、ここから加速する。



 ◇



「て事で、まずは堆肥作りからです。

 やることは簡単で、生ごみを集めて放置するだけです。必要なのは場所。

 すでに肥溜めを作ったので、分かっていますね? 食べられない雑草とか豆の茎とかを集めて腐らせるだけです」


 肥溜めは、もう5ヶ月も前に作った。

 トイレ代わりに穴掘って埋めるだけだったので、排泄物がもったいない。

 家畜の糞は堆肥にするのに、自分たちのは捨てるだけなんて、同じウ■コなのにナンセンスだ。

 まあ家畜のウ■コより人間のウ■コのほうが水分が多くて扱いにくいというのは分かる。牛や馬のウ■コなら山のように積んでおけるが、人間のウ■コはそんなことすると泥のように流れてしまうので、穴を掘る必要がある。

 これがけっこう大変で、ドラム缶より10倍も大きな穴を掘ることになる。作るのに着任から1ヶ月もかかったのは、そのあたりの関係だ。

 もちろんそこへ雑草とか入れてもいい。どうせ堆肥になれば同じだ。しかしもう満杯なのである。収穫量が多すぎて。


「リオ様、説明が大雑把ですな」


 まあね。本当は発酵させるのであって、腐らせるのとはちょっと違う。

 寄生虫対策に発酵熱を確保するのが大事で、そのための発酵菌を活発化させるべく、たまに混ぜ返してやらなくてはならない。

 けど――


「もう、みんななら分かるかなって」


「分かりますよ。分かりますけども」


 もうっ、もうっ、と村長が悶える。

 村人たちが笑った。

 そしてドンキホーテ・デラマッチャの物資調達能力。鍛冶屋がいなくてロクな鉄製品が無かった村に、きちんとした道具を導入した結果がコレだ。


「リオ様、こんなものでどうでしょうか?」


「グレートですね」


 ほんの30分ほどで、新しい肥溜めの穴が完成した。自衛隊もびっくりの早さだ。

 作業速度は半年前よりはるかに早くなっている。村人たちが、たっぷりの食事と運動で、見違えるようにムキムキマッチョメンになっているからだ。

 やはり食事。肉体は食事でできている。

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