第7話 手紙を書きました
村長は見た。
リオが何も無い空中に、何やら手を動かしている。
何かを書くような動きだ。また新しい計画をつくっているのだろう。
邪魔しないように、村長はリオをそっとしておく事にした。
◇
所変わって、領都のとある商店。
書類を整理していた番頭が、おかしなものを見つけた。
「なんだコレ? 何の書類……うおっ!? これは! だ、旦那様! 旦那様ぁ!」
「どうしたんだね、番頭さん。騒々しいじゃあないか」
「こ、これをご覧ください!」
「どれどれ……こ、これは!? 伯爵家からの!?」
――領主テルコ・コモ・ウン・トロ伯爵の命により、監督官としてサハラ村に派遣されたテルコ・コモ・ウン・リオより、伯爵領で最大の勢力を誇る栄達の商人ドンキホーテ・デラマッチャ殿に、着任の挨拶を兼ねて行商の派遣要請を申し上げる。急がなくてよいから、下記の物品を用意されたし。
「た、大変だ! すぐに用意しないと!
あ、ところで、勝手に開けて読んでしまったのかい、番頭さん? この際ダメとは言わないが、行儀のいい事じゃあないよ。今後は控えておくれ」
「いいえ、とんでもない! それはほかの書類に紛れ込んでおりまして、封筒もない状態で見つけましたもので」
「なに……? ……これが? ふむ……?」
店主は考え込んだ。
「よくよく見てみると、これは奇妙な手紙だね。
まず、いったい誰がこれを持ってきたんだろう? 受け取ったのは誰なんだい? その旨私のところへ話がないのは、奇妙なことだ。いかに忙しかろうと、貴族からの手紙を報告もなしに放っておくなんて事はないはずだ。私はお前たちをそんなふうに教育した覚えはないよ」
「はい。仰る通りで、私も誰がいつ受け取ったものか存じません。
それに、この手紙には折り目がありません。封筒に入っていたのなら、折り目があるはずじゃあございませんか? 封筒そのものも、どこへ行ったのやら……」
「うむ。その通りだ。
しかも使われている紙は、うちの帳簿やら伝票やらに使っているものと同じじゃあないか。貴族の手紙に使う品質のものじゃあない。
これはいよいよ奇妙なことになってきたね」
「誰かのいたずらという事は……?」
「だとしたら、これはイタズラでは済まないよ。
貴族の名前を騙った犯罪だ。
それに、この文字は綺麗すぎる。お前たちにはここで夜に読み書き計算を教えてきたが、あくまで読めればよしという程度のものだ。
見栄え良く綺麗に書くというのは、また違った教育が必要だし、言い回しも実に貴族的だ。偽物にしては、出来すぎている」
「そうなりますと、もし本物なら通報するというわけにもいきませんが……旦那様、いかが致しましょう?」
「そうだね……まずは誰が受け取ったのか、一人残らず確認してきておくれ。
それから、サハラ村に確認を兼ねて行商に行こうじゃないか。とりあえず、すぐに用意できるものだけ持っていって、手紙が本物なら良し、偽物でも商売になるなら良しだ」
「すぐに用意できないものは、どういたしましょう? もし本物なら……」
「それは素直に申し上げて、用意でき次第送ると言えばよい。手紙には、急がなくてよいから、と書いてあるのだからね」
該当の文字を探して、もう一度手紙に目を通す。
すると、奇妙なことが起きていた。
――追伸。紙を勝手に使ってしまって、申し訳ない事をした。行商の折に、この紙1枚の代金を支払う予定である。
「こ、この最後の部分……さっき見たときには、無かったような……?」
◇
「ははは。ずいぶん驚いてるね」
パソコンの画面じゃあるまいに、勝手に文字が増える手紙なんてホラーだろう。
ネタは簡単だ。
僕がインクを操って書いただけ。インクは液体だから、水魔法で操れる。僕の水魔法は範囲が広いから、サハラ村に居ながらにして領都の商人の手元へ書き込める。インクが乾いてしまうと、もう動かせないけどね。
「どうやったのか聞かれても、教えるつもりはないけど……来てくれるといいなぁ」
もう少し探知の精度を鍛えたら、読唇術も使えるのだけど。この距離だと、今の実力では何を言っているのかわからない。仕草から推測するのみだ。
ちなみに父上や兄上には、この使い方は教えていない。伝令兵としては非常に有能で、もはや通信兵と言ったほうが正しい。けれども、これを「何も殺せない」と笑われるならまだしも、有効性を認めて飼い殺しにされたらたまらない。
僕はこの方法で、ありとあらゆる命令書その他の書き物を偽造したり改竄したりできるのだ。兵器にならない魔法? とんでもない。僕の魔法は、国を滅ぼせる威力だよ。だからこそ、むやみに使ったりしないし、知られるのも避けてきた。
けれど、この村を発展させるためなら、このちょっとしたズルも大いに活用させてもらうよ。




