第6話 水路を作りました
「リオ様、ここが谷底です」
村長に案内してもらった。
雨が降ると川になるという場所だ。
谷底に立っているはずだが、高低差が小さく、ここからでも村の建物が見える。
「ありがとうございます。
では……ヘビーミスト」
井戸の位置を探知して、水魔法を発動。
これで準備はできた。
「では戻りましょう」
◇
「お待たせしました。
皆さん、あちらの方向に向かって地面を掘ってください。最初の水路を作りますよ。これは水路が完成した後に、皆さんの畑を守るものです。
そして水路の大きさは深さ30cmです。地面を掘ると白い霧が出てきますが、それは僕の魔法なので害はありません。
試しに掘ってみせましょう」
クワを借りて地面を掘る。
ほんの30cmなので苦労はない。
そしてU字溝のように形を保った白い霧が見えてきた。
魔法で出した霧だ。勾配も確認してあるので、あとはこの目印の通りに掘れば良い。
数百mに渡って狂いなくまっすぐに伸びる霧のガイドライン。この精密な制御、本当は氷の剣とか作るために練習したのだけど、僕には氷が作れない。父上や兄上が見たら、霧で何を殺せるんだと笑われるだろうけど……。
村人たちを生かせるんだから、貴族は平民を守れてナンボという本来の目的には、僕のほうが一歩先を行ってるんじゃないかな。
「このくらいです。
うっすらと霧が見える程度に掘ってください。掘りすぎたり浅すぎたりしないように気をつけてくださいね」
「よーし、みんなやるぞ! 昨日の恩を返すんだ!」
「「おおーっ!」」
作業が始まった。
そして、わずか2時間で終わった。
「おおっ! 来た来た来た!」
「水だ! 水が流れてきたぞぉーっ!」
「リオ様ばんざーい!」
万歳の大合唱が始まった。
みんな笑顔だが、気が早い。
「皆さん落ち着いて!
この水路から、それぞれの畑へ水路をつなげてもらいます。
喜ぶのはそれからですよ」
水路と畑が遠くては意味がない。
水をくんで畑まで運ぶ。今まで必要だった時間を短縮することに、水路の意味がある。
限られた人員で畑を広げるには、作業時間の確保が最大の問題なのだから。
「うおーっ! やるぞ!」
「おおっ! やったるぞ!」
「自分の畑に水が来るんだ! やらいでか!」
水路の実物に水が流れるのを見て、村人たちのやる気が天元突破した。
予定していた水路は、その日のうちに完成してしまったのだ。
◇
夕方、村長宅。
僕は夕飯をご一緒しながら、苦笑していた。
「正直、うれしい悲鳴です。
早くても3日はかかると思っていました」
「リオ様には、昨日さんざん結果でぶん殴られましたからな。なんというか……現人神ですよ」
ははは、と村長が笑う。
「熱気があるうちに、次の計画を前倒ししましょう」
「次は何を?」
村長が前のめりだ。
子供のようにキラキラした目で見てくる。
期待に応えたいが、ここからは少し難しい。うれしい悲鳴ではあるのだが。
「畑と森をつくる作業です。
森のことは、昨日言った通り、将来の建材です。谷の周りに作りましょう。早いほうが良い。木は育つのに50年とか掛かりますからね」
スギやヒノキといった、早く育つ木でも30年は待たないと使える大きさにならない。
まあ、そこまで育つ前でも、土地の保水力という点では貢献してくれるはずだ。防風林みたいに使えるのは10年ぐらい後かな。麦が強風で倒れるとかを少しは防いでくれるといいが。
てことで、畑の周りにもいくつか植えて、街路樹みたいにしよう。畑仕事の合間に木陰で休むとかもできて良いよね。
「しかし合言葉は――」
「「腹いっぱい飯を食おう。話はそれからだ」」
村長と声が重なった。
いい感じだ。
「ですな?」
「その通り。
なので先に畑から手を付けましょう。
畑は、先に水路と道路を作って区画を区切り、それから開墾ですね。完成は来年でしょう」
今ある畑で実験的な農業はできない。
さすがにそれは村人の不安が強くなる。
だが今ある畑はそのままで、新しい畑を使って実験するなら、そこまで反発はないはずだ。
植える作物の種類を増やして、村の食生活を豊かにしていく。これもまた、合言葉の通りだ。
「森はどうせ時間がかかるので、2年あとでも大差ない。
それより木を育てるための養分が必要です。
畑を広げ、作物を育て、食べない部分を養分にして森をつくる。
しかし畑にも養分は必要なので、森は急に大きくは作れません。しかしいったん森ができてしまえば、その土は半永久的に養分たっぷりで、畑に持ってくることもできます」
「どちらを取るか、悩ましい問題ですな」
うーん、と村長がうなる。
しかしその顔はどこか楽しげだ。
「どちらかに全部をつぎ込むことはありえません。
少しずつでも両方をやらないと、将来が苦しくなりますからね。しかし増えてしまえば、あとは楽です。
明日は今日より良い生活になると感じていられる間に、この最初の苦しい期間を過ごしてしまわなくては」




