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第4話 井戸から水が出ました

「で、出たぁーっ! 水だ! 水だぁ!」


 井戸を掘っていた若者が、喜びの声を上げる。

 それは井戸の周囲で見守っていた村人たちの耳にも聞こえた。


「「おおっ……!」」


 どよめきが起きる。

 次に、どれほどの量が? とざわめいた。

 その答えは、すぐに分かった。


「うわ……! うわわわ……!」


 井戸の中から若者の慌てる声がして。

 心配した村人たちが井戸を覗き込むと、15mも下にいるはずの若者が、すぐ目の前にいた。


「は? え?」


「と、とにかく井戸から出してくれ!」


「お、おお……掴まれ。それ、引っ張るぞ!」


 びしょ濡れの若者を引っ張り出すと、さらに井戸から水が溢れてきた。

 まるで湧き水だ。

 この井戸は、自噴したのである。


「やはり……!」


 僕は予想が当たったことに嬉しくなった。


「『やはり』?

 監督官様は、これを予想していたというのですか?」


「ええ。地形的にそうじゃないかと思っていました」


「地形……? この乾燥地帯で?

 どういう事でしょうか?」


「ここは内陸部。しかも山脈に囲まれているせいで、海からの湿った風は、山脈に遮られ、雨が届かない。ではその山脈に降った雨はどこへ行くのでしょう? 半分は山の向こう側へ流れていくでしょう。しかしもう半分は、こっち側へ流れているはずだ。

 しかし実際、地上はこの通り乾燥している。ならば流れた水はどこへ……答えは地下です。そして地下水が地上へ出てこないように蓋をしている地層がある。その蓋に穴を開けてやれば、山と平地の高低差で地下水が押し出され、汲み上げるまでもなく吹き出す道理」


 オーストラリアの大鑽井盆地みたいなものだ。

 人が住むには水が必要。しかし乾燥地帯のどこに水があるのか。

 サハラ村を目指して移動中に見つけたのは、注ぎ込む川もないのに存在する小さな湖だった。

 つまりそれは天然の湧き水。蓋する地層にできた小さな穴から滲み出た水だ。

 この乾燥地帯に住む人々にとって残念なことに、その穴が小さいために、決して水量は多くない。湧き出る量と蒸発する量が釣り合ってしまえば、湖はそれ以上大きくならないし、湖に入ってしまった不純物が洗い流されることもない。

 海水を煮詰めて塩を取り出すように、水に混じった不純物は追加される一方で、どんどん濃縮されていく。魚も住めないそんな汚い水に、しかしこの地の住人は頼らざるを得ない。

 すると何が起きるか?


「次の問題は、衛生環境の改善ですね」


 汚い水を飲めばお腹を壊す。

 下痢になって脱水症状を起こすと、水分補給のためにまた汚い水を飲んでお腹を壊し、下痢が長引いて脱水症状がどんどん深刻なレベルになっていく。つまり最後は死ぬしかない。

 特に体力のない子供がそうなった場合、生存率は非常に悪い。このせいで王国民の平均寿命はわずか30歳だ。普通に60歳70歳まで生きる人も多い中、子供の死亡率が高いために「平均」が大きく押し下げられている。


「この新鮮な水も、果たしてそのまま飲めるかどうか分かりません。

 いったん沸かしてから飲むのが理想ですが、ここは乾燥地帯。木が育つことも稀なので薪も貴重です。

 なので濾過しましょう。水に含まれる汚れを濾し取るのです」


「「おお……」」


 村人たちが感嘆の声をあげた。

 そして代表して村長が尋ねる。


「その濾過というのは、どうすればいいのでしょうか?」


 そこからの作業――濾過装置作りは、非常に順調に進んだ。

 当たればラッキーぐらいに見ていた村人たちが、今回の成功で一気に協力的になったせいだ。僕が指定した材料を、手分けして集めてくれる。

 実に現金な反応である。

 大歓迎だ。どんどん手のひらを返してくれたまえ。ふっふっふっ。


「皆さん、ご協力ありがとうございます。

 おかげで小型の濾過装置ができました。これは皆さんに濾過装置の効果を見てもらうための試作品です。

 さっそく効果を確かめてみましょう」


 というわけで完成した実験モデルを使って、井戸水ではなく今まで使っていた汚い水をさらに泥で汚して飲めない状態まで悪化させてから濾過装置に掛ける。

 こういうのはインパクトが大事だ。

 そして、それは成功した。


「おおっ……! あんなに汚い水が、透明になったぞ!」


「信じられん!」


「あれならそのまま飲めるんじゃないか?」


 手作りの濾過装置だ。性能はお察しである。

 だが今の今まで汚い水を飲んでいた村人たちは、わざと少量の毒を飲んで耐性を作ろうとする貴族と同じで、鋼鉄の胃袋を持っている。つまりこのぐらい濾過すれば、ここの村人たちなら飲める。


「今や井戸水は大量にあります。

 これを好きなだけ飲めるように、大きな濾過装置を作りましょう」


「「おおーっ!」」


 村人たちはすっかりやる気だ。

 実験モデルを作るときとは比べ物にならない熱量で、大型濾過装置を作っていく。

 しかも実験モデルで作り方を見せたため、大型濾過装置を作る手際は非常に早かった。全員なにかの職人かな? と思うレベルだ。

 彼らは僕が思っているより遥かに「安全できれいな水」に飢えていた。

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