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第3話 サハラ村に到着しました

 1週間ほど歩いた。

 飲み水は魔法で出せばいい。食料は現地調達だ。乾燥地帯といっても植物がまったく無いわけではないし、動物だって居る。そして僕の水魔法は広範囲だから、狩猟採集には向いている。探知と窒息攻撃が大活躍。

 水でレンズを作ることで、太陽光を集めてその熱で肉を焼く。焚き火はしない。薪を探すのが大変だからね。そのため食事は1日2回。10時頃と3時頃だ。

 夜の寒さをしのぐにはマントに頼るしかない。焚き火はむしろ動物を呼び寄せる。火を怖がって近づかないというのは迷信だ。寝込みを襲われないように、探知とアクアボールを組み合わせて、接近してくる反応があったら自分に水をぶっかける仕組みを作った。性能は良好だったが、夜行性の動物が恨めしい。風邪を引かなかったのは幸運だった。

 そんなこんなで、目の前に村がある。記憶にある地図が正確なら、あれが目的地のサハラ村だ。


「第1村人発見。

 どうも! こんにちは! お元気ですか?」


 畑仕事をしている村人を発見した。

 ちなみに村は集居村。建物だけが集まっていて、その周りに農地がある。


「はあ……? どうも。

 何か御用で?」


「領主テルコ・コモ・ウン・トロ伯爵の命により、監督官として派遣されてきましたリオと申します。

 村長さんはどちらですか?」


「ひえっ!? そ、村長ならたぶん自宅に……ご案内します」


「ありがとうございます」


 すんなり対応してもらえたが、これは貴族の名前を出すというのが、一種の身分証明として使えるからだ。

 なぜなら、それが嘘だった場合、身分を偽った罪で処罰される。日本でも弁護士とか警察官とか、そうじゃない人がそういう身分だと名乗ると犯罪になるものがある。それと同じ事だ。

 あとは通常こういうのは先触れが届くものだ。ついでに僕も送ってくれればいいのに、とも思うが、それだと同着になってしまうので先触れにならない。


「こちらです。

 おーい、モリじい! 居るかい!?」


「はいよー! ちょっと待ってくれ」


 よっこらせ、と奥から声が聞こえて、老人が歩いてきた。


「おや、どちらさんで?」


「領主テルコ・コモ・ウン・トロ伯爵の命により、監督官として派遣されてきましたリオと申します。

 着任のご挨拶に伺いました」


「それはご丁寧にありがとうございます。

 村長のモーリスと申します」


 モーリスだからモリじいか。

 モーリス爺さんが縮んだな。分かりやすい。

 そして、ご丁寧にと言われたのは、普通だと村の中央広場とかで大声あげて「みんな集まれ」と呼び集めるからだ。

 学校の全校集会みたいに、ひとまとめに集めて伝えるほうが手っ取り早くて楽だしね。

 では僕はなぜそうしないのかというと、村人の協力がないとこの先なにもできないからだ。村人たちには僕のことを「支配者だ」ではなく「味方だ」と思ってもらわなくてはならない。


「それで、監督官様が派遣されてきたということは、伯爵様はこの村で何をなさると?」


 今まで来なかった役人が来た。

 短期的なイベントなのか、長期的な新政策なのか、何かやるつもりだというのは分かるわけだ。


「伯爵様からのご命令は、この村を発展させよと。

 ただしこれは、村への命令ではなく、僕への命令です。つまり村の方々に対して、監督官に従えという命令は出ていない。このことに注意してください」


「はあ……? あの、どういう事でしょうか?

 結局、伯爵様が発展をお望みなら、そのために派遣された監督官様に従わないと、それは反逆になってしまうのでは?」


 直接的でも間接的でも、要するに従えと言っているじゃあないか。

 村長には、そう聞こえたようだ。

 僕は首を横に振った。


「もし僕の考えが間違っていると思うときには、あなたたちは反抗しても構わない。それが罪に問われることはありません。なぜなら僕の監督官としての能力が低かったから起きた事だ、と判断されるからです。

 誰に対して命令されたのか。村ではなく僕に命令された。この違いは、そういうことなのです。

 もし僕がうまく行かないことに業を煮やして伯爵様に泣きついたとしても、それは僕が無能だと笑われるだけで、あなたたちに罪はないのです」


「そう……なのでしょうか……」


「僕がこう言っても、実際に泣きついたら伯爵様がどう動くか、怖いでしょうね。

 けれども僕が無能だと笑われるのは、間違いないと強く信じています。僕はあなたたちよりも伯爵様をよく知っていますから、あの伯爵様ならそうするだろうと……これはもう火を見るより明らかだと思っています。

 そして僕は『恥ずかしい』というのが大嫌いなので、泣きつくつもりはありません。無能だと笑われるのはともかく、途中で投げ出すのは恥ずかしいので」


「なるほど……」


 村長の表情が、少し引き締まった。

 僕を見る目が、少し変わったようだ。


「ご挨拶はここまでにしましょう。

 次にどうやって発展させるかですが、乾燥地帯を発展させるには、やはり水が必要ですね」


 村長が身構えた。

 そして試してやろうという目が僕を見た。


「水が必要といっても、どこかから引いてくるしかありません。それはつまり、大規模な治水工事をやろうという事になります。

 しかし、この村からそんな人足を出す余裕はないのです」


「グレート! まさにそういう発言こそ僕の欲しいものです。

 今のは『遠くから水路を引くような大工事をやるには人手が足りない』ということですね。

 では、井戸を掘るのはどうでしょう? 人手はうんと少なくて済むはずです」


 尋ねると、村長は「平民代表」の顔をやめて、しっかりと「村長」の顔になった。

 反論を歓迎したことで、一定の信頼を得たようだ。


「それは散々試しました。

 どこを掘っても水が出ないのです」


「だからこそ、僕が来ました。

 僕の魔法は、威力は弱いけれど、とても遠くまで届く。

 アクアボール」


 見せる。

 ここから先は、論より証拠だ。


「僕が1度の魔法で操れる水は、このぐらいが限度です。

 なので、ほしいだけ水を出すという使い方には向いていません。雨を降らせるほどの力もない。

 ですが――ちょっと失礼」


 窓を開けて、アクアボールで出した水を外へ。

 見やすいように、地面に落として土を混ぜることで色を付けた。


「よく見ていてください」


 再び見える位置へ戻した泥水の塊を、ゆっくりと遠ざける。

 10m……50m……100m……300m……。


「僕の視力だと、これ以上は見えませんが、村長さんは?」


「もうとっくに見えません。

 老眼なもので」


「ありがとうございます。

 とにかく遠くへ飛ばしても操れるというのが分かってもらえたでしょうか?

 これはもちろん前だけでなく、下方向にも同じです。僕はこの地下に大量の水があることを感知しています。

 この土地は、深めに井戸を掘ると水が出ます」


 村長は、信じられないという顔をした。


「深めに、というのは?」


「そう、まさにそこが重要です。

 地面から、およそ15m。

 普通は10mぐらいしか掘らないので、どこを掘っても水が出ないでしょうね」


 城の井戸なんかは、100mも掘ることがあるが、特殊な例だ。

 手作業で掘るしかないという技術的な問題のため、普通の村ではそこまで掘らない。


「試しに掘ってみませんか?」


 半信半疑の村長に尋ねると、ふむ、と考え込んだものの、すぐに結論は出た。


「今掘っている井戸を、仰るように深く掘ってみましょう」


 勝った!

 サハラ村は発展の第一歩を踏み出した。

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