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22/22

第22話 その毒の名は――

「監督官殿……いや、ここはリオ殿と呼ばせてもらおう。

 我が国は、サハラに友好都市条約の締結を申し込む」


 さっさと寝返ろうぜ、と誘っているのか、隣国の王めぇぇぇ!?

 まずい! まずいぞ! もう寸刻の猶予もない! 伯爵を潰さねば……ッ!

 くそぉぉぉッ! できれば使いたくなかったが……! もはや猶予なし! 出すしか無い! 奥の手をッ!


「手が止まったようだが、腹いっぱい飯を食えたかね、伯爵?」


「う……! く……!」


「では話を再開しようじゃあないか。

 今や2つの国の王を同時に呼び出すほどの実力者に成長したリオ殿を、まだ何の実績もない時にその才覚を見抜いてこの地で監督官に任じたのが先見の明によるものなら、報奨ものだがな」


 そんなわけはあるまい、と伯爵を見ていれば。

 まるで天啓と言わんばかりに伯爵の顔が輝いた。

 愚かな……。



 ◇



「手が止まったようだが、腹いっぱい飯を食えたかね、伯爵?」


「う……! く……!」


 食えッ! 食えッ! 食えぇぇぇッ! 畜生めぇぇぇぇ! もう無理だ! 飲み込めねぇぇぇぇぇ! 逆流しないように耐えるだけで精一杯だ! 入れ! 頼む! 入ってくれぇぇぇ! もう少しだけ! もう少しだけでいいんだ……!


「では話を再開しようじゃあないか。

 今や2つの国の王を同時に呼び出すほどの実力者に成長したリオ殿を、まだ何の実績もない時にその才覚を見抜いてこの地で監督官に任じたのが先見の明によるものなら、報奨ものだがな」


 はっ――!

 そ、それだァァァァァ!


「さ……左様でございます! 父親として三男の才覚には、もしやと……うっぷ……当時のサハラ村であれば失敗したとて痛手にはなるまいとの判断でしたが、まさかここまでとは……ははっ……嬉しい誤算というやつですな……っぷ……」


 し、しゃべるだけで出てきてしまいそうだ……!

 早くこの場を切り抜けて、トイレにでも――


「そんなわけがあるかァァァッ!」


 ドンッ! と王がテーブルを叩いた。


「ひぃ……っ!」


 や、やめて……びっくりして、出ちゃう……!


「余をたばかるのも大概に致せッ! 先見の明で任じたというなら、行方不明だの失踪宣告だのは必要あるまいッ! 真実はまるで逆であろうがッ! 魔法の才なしと断じて追放し、死なば死ねと見捨てたのであろうッ!」


 な、なぜ……! バレて……ッ!?

 9年も前のことが……! 報告もしていない事が、なぜッ……!?


「あげく、成功を知ればその功績を取り上げようと、なおも亡き者にせんと画策いたし……! 万が一そのような企みがうまくいったとて、その後ここまで発展したサハラを、自領の運営を代官任せにして享楽にふけるばかりのお前ごときには維持もできまいッ!?」


 う……! うぐぐぐ……!

 ま、まずい! まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!


「もはやこれは、我が国のみならず隣国の国益をも損ねる大罪中の大罪ぞッ! よくぞここまで愚行を重ねたな! いっそあっぱれである! 覚悟は良いなッ!? 貴様の処罰は隣国と協議して決めるゆえ、ただの処され方では済まぬと知り置けッ!」


 あっ……終わった……。


「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!」



 ◇



 ――出すしか無い! 奥の手をッ!


「もはやこれは、我が国のみならず隣国の国益をも損ねる大罪中の大罪ぞッ! よくぞここまで愚行を重ねたな! いっそあっぱれである! 覚悟は良いなッ!? 貴様の処罰は隣国と協議して決めるゆえ、ただの処され方では済まぬと知り置けッ!」


「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!」


 ふん……ついにゲロった(物理)か。

 愚か者め。

 さあ、伯爵などどうでもよい! それよりリオだ! 不毛の地であったサハラをこれほどまでに発展させた手腕! そして一大産業都市と化したサハラ! なんとしても手放してはならぬ! 隣国に取られるぐらいならッ……!


「リオよ。見事サハラを発展させたる手腕、我が国の歴史を見ても他に類を見ぬ偉業である。その功績を称え、略式ながらこの場にて、そなたに爵位を授けよう。

 紋章官、これへ」


「はっ!」


「これが、そなたの紋章だ」


「これは……! 王家の紋章にのみ許された5本の剣が……!」


「左様。

 そなたを『大公』に任じ、このサハラおよび、取り潰しになるであろう伯爵家の領地すべてを『大公国』として、そなたに与える」


 食らえッ! 奥の手だ!

 取られるぐらいなら、属国として独立させてやるわッ!

 こうしてしまえば隣国と親しくなろうと、もはや独立国のすること! 我が国は我が国で大公国と取引すればよい! それに大公の地位はあくまで我が国から与えたもの。ゆえに大公国は我が国の従属国という位置になる! どうだッ!


「おお、それはめでたい。

 リオ殿……いや、リオ大公閣下。お慶び申し上げる」


 あ……あれ……? え?

 隣国の王、普通に祝福してるんだが……?

 つ、強がりか……? いや……それにしては、あまりにも自然体……。


「慎んで拝命いたします。

 両陛下には、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

 また今後とも良き関係を続けていければ幸いに存じます」


 こ、こっちも普通……ッ!?

 リオは爵位なしの、あくまで「伯爵の子供」という立場だったはず……な、なぜこんなに平然と……?


「――……!」


 やられたッ……!

 転がされたッ……!

 この私が……! 隣国の王が……! 伯爵が……! すべてがリオの手のひらの上でッ……!

 伯爵家から受けるはずの賛辞と褒賞を――このゲロ伯爵は決して与えぬゆえ――代わりに王家から引き出したか! なんという毒蛇……! たった1通の手紙で、血の1滴も流すことなく独立を勝ち取りおった。

 ――あっぱれだ……なんという鮮やかな手並み。

 ああ……しかし、この甘やかな毒は、我が国に確かな利益ももたらしてきた。それこそが毒の正体。この毒の名は――「利益」だ。

 ならばこれで良かったのだ。毒と薬は紙一重。独立を許して距離を取ることで、この毒蛇大公の甘やかな猛毒は、王国と隣国にかつてない栄華をもたらす妙薬となるだろう。

 ならば祝おう。

 これはただ……すべてが、あるべき場所に落ち着いたのだ。



 ◇



「大公リオの名において今、サハラ大公国の建国を宣言するッ!」


 新築された王宮の玉座にて。

 僕は、プロジェクト・ベノムスネークの成功を告げた。


「「リオ大公万歳! サハラ大公国万歳!」」


 歓声が轟く。

 新品の王宮が、さっそく割れんばかりだ。

 君たち、壊してくれるなよ? けっこう高かったんだからね、建築費。



 ◇



「それにしても……ちっとも死にませんな」


 サハラ大公国の首都となったサハラの、かつて村だったときに実験農場だった場所。

 今や中央公園として整備されたその一角に、1本の木がある。

 マハトマ・パラメディック・ガンジーは、その木陰に休んでいた。

 かつて村長が死んだのを見たときは、次は私だと覚悟したものだが……。


「もう130歳ですよ、私」


「よいしょぉーっ!

 元気を出せ、ガンジー。ワシなんて死んでも現役じゃぞ?」


 村長が地面から生えてきた。

 その顔はニヤッと笑っている。


「……何かしましたね、村長?」


「ふふふ……秘密じゃ。ま、精霊としての力じゃな」


「もう……私なんかに仕掛けないで、リオ大公閣下に仕掛けてくださいよ」


「…………」


「え? なんですか、その沈黙? まさか、もう……?」


「ふふふ……秘密じゃ」

 この作品はここで完結です。

 読んでくださった方、ありがとうございます。

 楽しんでいただければ幸いです。

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