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第21話 アップルパイとバニラアイスのブルーベリー添え

「覚えがないと言われてもな……実際に手続きはおこなわれているわけだし、それが出来るのは、そなたしか居ないではないか」


 うぐぐぐ……ッ!?

 とにかく、この場を切り抜けなくては……!

 し、しかし、どうやって……!?

 伯爵は必死に考えた。それはもう必死だ。試験終了チャイム直前まで問題を解いている受験生のような必死こいた気分で考えた。もう少しで走馬灯が見えそうなぐらい必死に考えた末――


「……!」


 こ、これだァァァーッ! これしかないッ!

 見えた。

 上座の向こうの壁に掲げられた横断幕。その文字が。

 僥倖……! 圧倒的僥倖……! 今回のテーブルでは末席に座ったゆえ……!


「ま……ま……ま、まずは……まずは、腹いっぱい……飯を食いましょう。は、話は、そ、そ、それからに……。

 そ、それがホストの趣向ゆえ……せ、せっかく隣国の陛下までご臨席いただいて、こぉ……こ、このっ、幸運な機会に……う……あ……せ、急いては事を仕損じる、とも申しますゆえ……へ……えへ……えへへへ……」


 時間稼ぎだッ! しかしそこからどうする!? 知らん! そんな事は知らん! ノープランだ! それでも……! それでも考える時間を稼がねばッ……!

 近くにあった料理を頬張る。


「う、うまいですな……んぐ……いや、実にうまい……んぐ……さ、サハラは豊かになりました……んぐんぐ……」


 味なんか分からねえ! 分かるわけねえ! しかし詰め込む! 口に詰め込む! このまま押し切るしかないッ! どうする!? ここからどうする!? どうするどうするどうする!? ああッ……! 打開策が思い浮かばないッ! 時間が……もっと時間が欲しい……! 食うしか無い! 食っている間は稼げる! 時間が! 腹いっぱい飯を食おう! 食い続ける限りは時間を稼げる……! ああっ……!? ま、まずい……! もう腹が……! 腹が膨れてきた……! なんてことだ……! どうすれば……!? どうすればいいんだァァァ!? 食えッ! 食うしかないッ! 腹が破れても食えッ! なんとかしなければ! 何とかしなければ! なんとか何とかなんとか何とかしなければァァァーッ! 畜生ぉぉぉ! どうにもならねぇぇぇぇ!



 ◇



「ま……ま……ま、まずは……まずは、腹いっぱい……飯を食いましょう。は、話は、そ、そ、それからに……。

 そ、それがホストの趣向ゆえ……せ、せっかく隣国の陛下までご臨席いただいて、こぉ……こ、このっ、幸運な機会に……う……あ……せ、急いては事を仕損じる、とも申しますゆえ……へ……えへ……えへへへ……」


 伯爵がテーブルマナーも忘れて料理を口にかき込み始めた。

 国王は冷ややかに伯爵を見る。

 小賢しい。時間稼ぎなどしおって。だがそう長くは続くまい。そう勢いよく食べたのでは、余計にな。


「う、うまいですな……んぐ……いや、実にうまい……んぐ……さ、サハラは豊かになりました……んぐんぐ……」


 ほら、もうペースが落ちてきたぞ。苦しそうだ。飲み込めずに頬が膨らんできた。ほう……無理やり詰め込むか。どこまで入るかな? ほう……うむ……ふっ……けっこう頑張るではないか。


「む? ほう……これは面白いな。監督官殿、これは?」


 隣国の王がひとつの料理に注目した。

 アップルパイだ。

 生地がしっとりしているはずのアップルパイから、どういうわけかクッキーのようにザクザクと軽くて硬質な音が聞こえてくる。

 隣国の王はそれを楽しげに咀嚼していた。



 ◇



「む? ほう……これは面白いな。監督官殿、これは?」


 これはどうしたことだ。

 噛んだとたんに歯に伝わるザクザクとした食感。まるで砕いたクッキーを食べているような軽やかな味わいだ。

 普通アップルパイの生地といったら、しっとりしているものだ。好物ゆえよく食すが、このようなザクザクとしたアップルパイは食べたことがない。これは良いものだ。生地とリンゴの食感があまりに違うゆえ、口の中でそれぞれが独立して感じられる。りんごの甘味が際立ち、生地で薄まる感じがしない。


「そちらはアップルパイ自体の改良としては最新作のものです。リンゴのしっとりした食感と甘さが際立つように、生地の気泡を増やしてザクザクとした食感にしたものでして、サハラでは今そのタイプのアップルパイにアイスクリームを添えたものが流行しております」


「アイスクリーム?」


「シャーベットの発展型です。果汁を凍らせたものではなく、牛乳を凍らせたものでして……今、お持ちしましょう。常温では溶けてしまうので、まだ並べておりませんでした」


 ほほう。そのようなものが……おお、運ばれてきたか。この白い塊がアイスクリームというのか。なるほど、丸めたシャーベットに似ているような……どれ、これをアップルパイに添えて食べるのだな?


「おおっ……! なんと、なんと……! これは……!」


 温かなアップルパイと、冷たいアイスクリームのコントラスト! リンゴと生地のコントラストに加えて第3の彩りが……! しかも互いを引き立てて……! 口の中に味のオーケストラが始まった。溶けていくアイスクリームと、しっとりしていく生地、リンゴの味と食感が最後まで変わらぬ芯として「あくまでアップルパイだ」と一本の筋を通している。アイスクリームに添えられたブルーベリーが味変になって、さらに楽しめる。

 ああそうか……これは我々か。芯を通したリンゴは監督官殿。ザクザクの生地は、ナメられてたまるかと肩肘張っている私だ。ブルーベリーは添え物の伯爵で、そこへ冷気を放っているアイスクリームは……ふっ、今まさに冷ややかに伯爵を見ている王というわけだ。

 独立して存在しつつも、混ざりあえば互いを引き立てる。我らもまたかくあるべし、という監督官殿からのメッセージか。


「監督官殿……いや、ここはリオ殿と呼ばせてもらおう。

 我が国は、サハラに友好都市条約の締結を申し込む」


 国の威信が、などと肩肘張る必要はなかったのだ。

 彼は本当に――

 商売は三方よしを理想とする。彼はそれをよく分かっているという事だな。

 ――だから、ただ単に、一方的な儲けを申し訳ないと思ったのだろう。

 ここは素直に甘えるべきだったのだ。今からでも遅くはあるまい。



 ◇



「監督官殿……いや、ここはリオ殿と呼ばせてもらおう。

 我が国は、サハラに友好都市条約の締結を申し込む」


 さっさと寝返ろうぜ、と誘っているのか、隣国の王めぇぇぇ!?

 まずい! まずいぞ! もう寸刻の猶予もない! 伯爵を潰さねば……ッ!

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