第20話 役者が揃いました
役者が揃った。
「ようこそ、サハラ村へ。
遠路はるばるお越しいただきまして、幸甚の至りです。
両陛下におかれましては、本来こちらからお伺いするべきところ、ご足労いただきまして汗顔の至りでございます。
父上も『お久しぶり』です。お元気そうで何よりです」
久しぶりと言ったとたんに、父上の顔がちょっと歪んだが、気にしない。2人の王は僕に会いに来たのだ。この場では父上だけが余計な人物で、なんでここに居るのか公に通用する理由のない状態だ。動きが取れず、針の筵だろう。
しかしここで追い返すなんて優しいことは、してあげない。プロジェクト・ベノムスネークは、もう完了しているのだ。僕はもう盤面を動かす必要がない。
「さて、なにぶん田舎者ゆえ、作法も知らず大した事も出来ませんが、村の合言葉に従いまして精一杯のおもてなしをさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
一礼してから、さっと手を挙げる。
すると僕の背後で、横断幕が掲げられた。
――まずは腹いっぱい飯を食おう! 話はそれからだ!
◇
案内された先は、実にバカバカしい部屋だった。
馬でも走らせるのかと問いたくなるような巨大な部屋だ。実にバカバカしい広さである。職人が調子に乗ってはっちゃけたか、さもなければ巨人が暮らしているのだろう。
部屋の中央に、1つのテーブルがある。丸太を縦に割っただけの簡素なものだ。しかし端から端まで100mはあろうかという巨大さでありながら、表面は鏡のように磨かれ、完璧な水平を保っている。素材を活かす職人の妙技、その精髄が込められた逸品だ。
「失礼いたします」
珠のような声が聞こえて、美女が次々と入ってきた。
全員がメイド姿で、上から吊るされたように完璧な姿勢を保ちながら、まるで滑るように歩いていく。彼女らはその手に料理やワインを持っていて、特にワインを持っているのを見れば、水面が少しも揺れていない。
剣の達人でも、ここまでの歩法はなかなか身につかないだろう。あまりにも整った動きで、いっそ人間だとは思えないほどだ。幽霊か何かだと言われたほうが納得できる。彼女たちは超一流のプロフェッショナルなのだ。
――どこが「村」だ。これほどの建築も家財も人材も、王都ですら見かけぬ。
招かれた3人の客は、それぞれの胸中で同じことを考えていた。
しかし続く思考は、少し違う。
なんとしても侮られてはならぬ、と思う王が1人。
なんとしても手放してはならぬ、と思う王が1人。
なんとしても滅ぼしてやらねば、と思う伯爵が1人。
そして考えている間にも、巨大なテーブルの上は次々と運ばれてくる料理で埋め尽くされていく。
断じて4人で食べる量ではない。
それぞれがお互いを警戒しながら席につく。
◇
「さあ、どうぞ。ご自由にお召し上がりください」
三すくみの睨み合い。
沈黙を破るのは、僕の役目だ。
そして恐ろしく静かな食事会が始まった。
誰も口を開かない。
テーブルマナーも完璧なので、食器の音さえ聞こえない。
◇
「アップルパイがお好きと聞いておりましたが、お口に合いますか?
小麦やリンゴの品種から味付けまで、色々と変えたものを用意してありますので、お好みの物がありましたらお申し付けください。レシピをお渡ししましょう」
監督官が話しかけてきた。
ナメられてはならぬ。しかし他国の王が――監督官にとっては「自国の王」だが――いる前だ。あまり監督官を冷たくあしらっては、国際関係に悪影響が……。
とにかく、黙っているわけにもいかぬ。
「それは楽しみだ。
お誘いいただいた通り、こちらも色々と用意してきたのだ。気に入るものがあると良いのだが」
特産品の目録と、詳しく説明できる文官を1人、用意してきた。
◇
幸運だった。
急いで駆けつけて良かった。
まさか今日、到着したその日に、隣国の王を招いていたとは。
「アップルパイがお好きと聞いておりましたが、お口に合いますか?
小麦やリンゴの品種から味付けまで、色々と変えたものを用意してありますので、お好みの物がありましたらお申し付けください。レシピをお渡ししましょう」
アップルパイは、サハラの隠語か?
小麦やリンゴの品種というのは、産業の品目か? それとも土地の区画か?
色々と変えたもの……用途に応じて組み合わせて売ろうと?
こいつ……国王たるワシの前でよくもぬけぬけと……!
脅しているつもりか? 早く伯爵を黙らせないと寝返るぞ、と? その伯爵は、なんか最初から全然喋らないのだが。うん……黙っているものを、どうやって黙らせよう?
「それは楽しみだ。
お誘いいただいた通り、こちらも色々と用意してきたのだ。気に入るものがあると良いのだが」
お誘いは、裏切りの提案か。
色々と用意は、見返りだな。この一大産業都市が手に入るなら、たいがいの見返りは安いものだろう。
さて、あちらの話がまとまってしまう前に、伯爵をなんとかしなければ。
「アップルパイひとつに、そこまで工夫を凝らせるとはな。
今のサハラは、どこを見ても驚くばかりだ。
伯爵よ。この監督官は、そなたの三男の、たしかリオとかいう名ではなかったか?」
「は、はい。おっしゃる通りにて……」
速度重視だ。
このまま一気に潰してしまおう。
◇
「伯爵よ。この監督官は、そなたの三男の、たしかリオとかいう名ではなかったか?」
「は、はい。おっしゃる通りにて……」
急にこっちへ話を振ってきやがった。
どういう流れだ、これは?
と、とにかく、下手なことは言えない。
「ふむ? おかしな事だな。
そなたの三男リオは、9年前に行方不明として届けが出ておる。
なぜそれが予定通りにサハラ村の監督官に就任し、しかもこれほどの成果を出しておるのだ? 先日請求された失踪宣告の件とあわせて、説明してもらおうか。
優秀な三男を『居ないもの』として扱い、成果を出させ、しかも『死んだもの』にしたがる理由をな」
な……なにィィィーッ!?
バカな……! 誰がそんな……!?
「な、何かの間違いでは?
私はどちらの手続きもした覚えがございませんが……はっ!?」
リオ……! 貴様か!
まさか、こうなる事を見込んで、自分自身の行方不明や失踪宣告を手続きしたというのかッ……!?
10年先を見据えた計画ッ……! こ、こいつ……! サハラの発展は実力だというのか……!
く……くそぉぉぉ……! そのドヤ顔をやめろォォォ……!
「覚えがないと言われてもな……実際に手続きはおこなわれているわけだし、それが出来るのは、そなたしか居ないではないか」
うぐぐぐ……ッ!?
そ、その通りだ……! リオめ、どうやって……? 変装でもしたのかッ……!?
くっ……! とにかく、この場を切り抜けなくては……!
し、しかし、どうやって……!?




