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第19話 手紙を書きました

 時間は少し遡る。

 僕は2通の手紙を書いた。


 まず1通は、隣国の王に宛てて。

 内容は、簡単に言えば、こうだ。

 いつも仲良くしてくれてありがとう。うちの商品をたくさん買ってくれて嬉しいです。でも、こちらばかり儲けていては申し訳ないので、今度そちらの商品も買わせてください。けれども忙しくしていて、なかなかそちらへ伺う時間が取れません。何を売っているのかもあまり詳しく知らないので、今度お会いして話しませんか? 陛下がお好きだと聞いたので、美味しいアップルパイを用意して待っています。本当は僕のほうから伺うべきなのに、人手が足りなくて留守にできません。優秀な人材を豊富に抱えている陛下が羨ましいです。申し訳ないのですが、来ていただけると幸いです。サハラ村より、親愛と尊敬を込めて。


 そしてもう1通は、我が国の王に宛てて。

 内容は、簡単に言えば、こうだ。

 伯爵家の三男ですが、父親にいじめられて困っています。9年前に家を追い出され、騎士団を使ってまで殺されそうになりました。僕は父の言いつけ通りサハラ村を発展させているのに、父は僕のことを行方不明あつかいにして失踪宣告を受けさせようとしています。僕を死んだことにして、僕の成果を取り上げようとしているのです。父親が敵なので僕には陛下だけが頼りです。助けていただけない場合は、僕は王国に居場所がなくなりますので、隣国へ亡命いたします。伯爵家の三男坊など偉大な陛下には取るに足らないことかもしれません。この場を借りてお別れを申し上げます。お世話になりました。さようなら。


 これらの手紙は、確実に両陛下の目に入るように、例の魔法を使った。

 これで、プロジェクト・ベノムスネークは完了だ。

 あとは結果を待つだけである。



 ◇



 隣国の王は、手紙を見つけた。

 一読して、最初は鼻で笑った。

 たかが村の監督官が――爵位すら持たぬ木っ端役人が、他国の王を呼びつけようとは片腹痛い。

 無礼な、と怒る気さえ起きない。つまらないジョークとして笑い飛ばすレベルだ。


「……ん? 待てよ。『サハラ村』とあるな?」


 どこかで聞いたような……と視線を漂わせると、ふと目に入ったのは愛用しているペンだった。


「そういえば、これに……」


 ペンを手に取り、くるりと回してみると。

 あった。

 ――メイド・イン・サハラ。


「ふむ……? 『うちの商品をたくさん買ってくれて嬉しい』とは……? 他にも……?」


 ペンをペン立てに戻そうとして、気付いた。

 ペン立てにも書いてある。

 ――メイド・イン・サハラ。


「……っ!」


 気づいてみると、次々と目に飛び込んでくる。

 机、椅子、照明器具、棚、果ては着ている服にまで。

 ――メイド・イン・サハラ。


「まさか……」


 王は部屋を飛び出した。

 早足で廊下を進みながら、キョロキョロと城内を見回す。

 己の城が。

 王城が。

 気づけば、あれも、これも、それも……! なにもかも……!

 ――メイド・イン・サハラ。


「なんということだ……」


 行かねばなるまい。

 これは国家規模の超大型取引だ。

 国家予算を左右するレベルの儲け話を持ちかけられている。

 ただ「売ってばかりで申し訳ない」という理由で。

 貿易黒字でウハウハのはずなのに「申し訳ないから何か買う」と。

 国家が、いち村に同情されている。


「我が国をナメるか……! サハラ村めッ……!」


 単なる「降って湧いた儲け話」ではない。

 これは国家の威信をかけた「戦い」だ。



 ◇



 王国でも、王が手紙を見つけていた。

 さらっと一読して、鼻で笑った。

 情けなくも王に泣きつく伯爵の三男坊。

 なんたる惰弱。貴族にあるまじき振る舞いだ。


「……待てよ? サハラ村?」


 数十人の貴族たちと、数百枚の報告書が、瞬時に王の脳裏に浮かんだ。

 記憶が正しければ、サハラというのは近年急成長している一大産業都市ではなかったか? しかし「村」と書いてある。同名の別の集落なのか?


「誰かある! 紋章官をこれへ!」


 すぐに呼び出された紋章官がやってきた。


「テルコ・コモ・ウン・トロ伯爵の領地に、サハラ村という地名は複数あるか?」


「いいえ、陛下。その領地にサハラという地名は1箇所です。

 村と呼ぶのは、少なくとも5年以上前の古い情報です。サハラは9年前を境に急成長を遂げています。現在サハラは、村と呼ぶべき規模ではありません。広大な穀倉地帯であり、様々な産業が集まる一大産業都市です」


「であるか。

 紋章官よ、この手紙を読むのだ。お前にはどう見える?」


「拝見いたします。

 ……陛下。率直に申し上げます。

 これは国家存亡の危機的状況です。差出人はサハラを隣国へ売ろうとしています」


「やはりそう見えるか。

 本当に隣国へ亡命された場合、我が国は国力を大きく落とすことになる」


 王は少し考え込んだあと、近衛騎士団長を呼び出した。


「可及的速やかにサハラへ向かう。近衛騎士団はできるだけ速度を重視しつつ、可能な限りの人数で同道せよ。

 紋章官。お前は新しい紋章を作成せよ。階級は――」


 指示を飛ばし、慌ただしく旅の準備を済ませて、国王は大急ぎで城を出た。

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