第13話 挿し木をしたいだけでした
「ヒール。……はい、終わりましたよ」
「ありがとうございます、僧侶様」
「いえいえ、私など何ほどのこともできません。
真に偉大なのは導師リオ様です。あの方はこの村を発展させ――」
「あっ、はい。それは知ってるので大丈夫です。俺はリオ様の就任初日から一緒にやってきたんで」
「おお、これは大先輩でしたか。失礼しました」
ありがとうございました、と出ていく村人。
怪我した足も軽やかに、すっかり治った様子だ。
「それにしても、やりにくいですね」
マハトマ・パラメディック・ガンジーは、ため息をついた。
故郷なのに、馴染めない。
長生きしすぎたようだ。ガンジーを知っている村人は、今や村長だけだ。
神の教えを広めるように、いつもの調子で話し始めると、あの通り村人たちは「自分のほうがよく知っているぞ」と。しかも正しい。
マハトマ・パラメディック・ガンジーが生まれ育った故郷なのに、マハトマ・パラメディック・ガンジーが何ひとつ通用しない。通用するのは、かろうじて回復魔法だけだ。
「これも神の思し召し……試練なのでしょうか」
サハラ村の先人だとか。
教会の僧侶だとか。
そんな身を飾るものは捨てなさいと言われているような気がする。
権力と同じものだ、お前には必要ない、と。
そうかもしれない。神の前では国王も奴隷もただの人にすぎない。
それと同じなのだろう。
導師リオの前では、マハトマ・パラメディック・ガンジーをその人たらしめる物は、己にできること、己がやったこと、それのみなのだろう。
偉人は偉業をなして初めて偉人たる。年上を敬えとか教会を敬えというのなら、敬えるような人間であれ、ということだ。
「ならば、やるべき事はひとつだけですね」
マハトマ・パラメディック・ガンジーは、深くうなずいた。
訪れる怪我人を、病人を、ひとりひとり治すこと。
最善を尽くした果てに、いつか導師のような、村人に頼られる男になるのだろう。その時こそ、マハトマ・パラメディック・ガンジーは再び故郷に馴染めるのだ。
「こんにちは。ガンジーさん居ますか?」
「導師!? わざわざのお越しを頂きまして……! お呼びいただければ、こちらから伺いますのに!」
はいダメー!
ガンジー、アウト!
導師は凄い人だが、その威光にひれ伏す時点でダメ。全然わかってない。凄い人だからひれ伏すのでない。凄いことをやるから、一緒に歩むべきなのだ。
ああ、しかし! 悲しいかな何十年も僧侶として神の前に伏してきた癖でつい……! つい地面と仲良くなってしまう……!
「はいはい。そんな事より、ちょっと手伝ってください。
回復魔法が植物に効くのか、実験してみましょう」
「し、植物に……? 導師、それは地面と仲良くなりすぎでは?」
「ちょっと何言ってるか分からないです。
ほら、行きますよ」
◇
マハトマ・パラメディック・ガンジーを連れて、実験農場にやってきた。
気候が合わないのか、土壌が合わないのか、どうにも元気がない作物がある。
適した育て方を探るために、色々と条件を変えて育ててみたいのだが、残念ながら発芽したものが1つしかない。
「挿し木をしたいんですが、うまく育つ条件が分からないんですよ。
なので回復魔法をかけたら、治る形で育たないかな〜と思いまして」
枝や根など、植物の一部を切り取って植えることで、切り分けた両方が再生して増える。
種から育てるのが難しい植物や、同じ品種の果樹を増やしたい場合などによく使われる方法だ。
「いや、あの、挿し木するには小さすぎでは?」
「そうなんですよ。でもこれで、芽が出てから1ヶ月たってるんです。
他の種は芽が出なかったみたいで、これを増やしたいんです」
「ま、まあ、若木のほうが生命力は強そうですが……かかるかな、回復魔法……とりあえずヒール」
「おお!? え? なんで? 急に育った!?」
「こっちが聞きたいです! いったい何が……回復魔法で育つ木なんて聞いたこともありませんよ」
「ちょっとコレ試しに育ててみてください。
どんな実がなるか……もしかしたら回復魔法の効果を宿した果実とか実るかも」
「わ、わかりました。
こんなことが……まったく、導師はとんでもないことをサラッとやってのけますね」
そこに痺れる憧れる〜!
じゃないよ。
「やったのはガンジーさんじゃないですか」
何でもかんでも人のせいにするんじゃないよ、狂信者め。




