第11話 ジャムを作りました
ドンキホーテ・デラマッチャは、ホクホク顔だった。
「むほほはほ! 儲かりますねぇ〜!」
馬車の注文依頼が殺到している。
なぜなら、新しい馬車は魔物に襲われなくなると評判だ。
ゴブリン素材の忌避剤を塗料に混ぜて車体全体に塗ったのである。
「さて……そうなるとリオ様も忙しくなるでしょうな」
ドンキホーテ・デラマッチャは、ちらりと窓の外を見た。
領都の街並みが見える。
近隣には他の商店が軒を連ねている。
間もなく、彼らも気づくだろう。サハラ村の価値に。
「自警団でも結成されては……と進言するべきでしょうかねぇ」
近々またサハラ村に行こう、とドンキホーテ・デラマッチャは考えた。
◇
その新しい馬車は、伯爵邸にも納品された。
ドンキホーテ・デラマッチャは、伯爵領で最大の勢力を誇る商人だ。伯爵家に対する御用商人としての面もあるため、一般へ売り出す前に献上した。
「新しい馬車は、本当に魔物に襲われないな」
「仰る通りです、父上。
しかし、こうも順調に進めると、少し退屈ですね」
「兄上の言う通り、これでは護衛の騎士たちもたるんでしまうかもしれません。たまには古い馬車にも乗るべきかもしれませんね」
「「はっはっはっ!」」
どこから生まれた物かも知らずに、彼らは上機嫌だった。
彼らはまだ、自分たちの間抜けさに気付いていない。
◇
「こんにちは、リオ様。
またお邪魔しに参りましたぞ」
「ようこそ、ドンキホーテさん。
ちょうど新作のジャムの試作品ができたところです。食べてみませんか?」
ドンキホーテ・デラマッチャとの付き合いも長くなって、僕らはだいぶ気安くなった。
「うまい! 何ですか、これは?」
「ははは。実はカブです。
この前持ってきてくださった果樹が無事に実をつけたのですが、まだ量が少ないもので、カブでかさ増しして蜂蜜とレモン汁で味を整えたものですね」
「ほほう! そんな使い方が……そのレシピ、売りませんか?」
「いいでしょう。
ただし今回の売値はちょっと高くつきますよ?」
「ほう? というと?」
「人を。医療を任せられる人を、この村にご案内していただきたいのです。
それから、ここにゴブリンの忌避剤を売ったときの代金があります。これで診療所の建設と、薬や医療器具などの用意をお願いします」
「なるほど、そういう事ですか。
新規出店の準備も順調に進んでいますし、いざ開店となればノウハウを知る従業員も派遣せねばなりません。
もちろんサハラ村からも人を雇いますが、そうなるとこの村の医療事情は、もはや他人事ではありません。
よろしい。このドンキホーテ・デラマッチャにお任せあれ。次に来るときには、まとめて用意してご覧に入れましょう」
「お願いします。ドンキホーテさんが頼りです」
「そう持ち上げられては、たまりませんな。
しかし、そろそろ他の商人たちもこの村の価値に気づくはず。リオ様はこれから忙しくなりますよ」
「ドンキホーテさんが村人に読み書き計算を教えてくれるおかげで、文官を兼務してくれる人も見つかっています。
自警団も立ち上げましたし、もう少し余裕が出てきたら専属の人員を組織する段階になりそうです」
「おお……すでにご準備は万端ですか。
今日はそのことを、老婆心ながらお伝えしに来たのですが、余計なお世話でしたな」
「とんでもない。
ドンキホーテさんに頼り切りにならないように必死ですよ」
「これはこれは……。
今日は言いたいことをことごとく先回りされますな。
どうやら私はまだまだリオ様を見くびっていたようです」
「そんな……あ、そうだ。
ちょっと聞きたいことがありまして」
「何でしょうか?」
「大人用のおむつ、扱ってませんか?」
「オムツ? ……リオ様は、そのようなご趣味が……? それともトイレに行く暇もないほど忙しくされておいででしたか?」
「僕が使うのではありませんよ。
医療と来れば福祉と続くのがセオリーでしょう? 高齢の方々への介護について、これはどこの集落でも避けて通れませんが、医療の手配ついでに取り組んでおかないと、と思いまして」
国会中継を見たら、一度は聞いたことがあるだろう。医療福祉の問題が〜というセリフ。
僕としては当たり前のワンセットだけど……。
ドンキホーテ・デラマッチャは、ゴクリとツバを飲み込んだ。
「……素晴らしい。
そこまで考える統治者など、見たことも聞いたこともありません」
ドンキホーテ・デラマッチャの顔つきは、まるで黄金に魅了された探検家のようだ。
なにかに取り憑かれたような目つきをしている。
彼はその目で、僕を見ている。
「そうですか?」
「そうですとも。
王都にさえ、老人を介護するための道具などというものは売っていませんよ。
みんな、それぞれの家庭で、あり合わせのもので何とかしているのです。
……ブルーオーシャンだ。これはまさに巨大な金鉱脈ですよ。商売の神が、今あなたに降臨しておられる」
武者震いだろうか。
ドンキホーテ・デラマッチャは、拳を握りしめて、嬉しさに耐えきれない様子で震えた。
「そうですか」
逆に僕は少し気落ちした。
この世界でも、老人介護の問題は……。
日本でも1990年代まで一般的じゃあなかったからな……。
しかし、そうなると、存在しないものを開発しなきゃならないのか。赤ん坊と違って老人の排泄物は量が多いからな……。古くなった服を適当に巻いておくってわけにはいかない。
ポリマーみたいな物質がほしいな……。どうしたものか……。




