第10話 敵が現れました
その日、僕はもう眠ろうとしていた。
夜も更けた午後9時頃のことだ。
「うん? これは……!」
すぐに僕は村長のところへ走った。
「リオ様、こんな夜更けにどうされました?」
「ゴブリンが迫っています!
およそ100匹!」
僕は広範囲に魔法を使えるけれど、威力は小さい。大量の水をいっぺんに操るのは無理なので、100匹なんて数を相手に1匹ずつ窒息攻撃をしていたのでは僕のほうが殺されてしまう。
しかし慌てる僕に、村長は優しく微笑んだ。
「ご心配めされるな。
リオ様のお導きで、我らがどれほどの成果を得られたか、今こそご覧に入れましょう」
村長は走り出した。
老人とは思えない健脚だ。僕のほうが置いていかれてしまった。
どこへ行ったのかと思っていると、間もなく半鐘が打ち鳴らされた。
カンカンカン! カンカンカン!
けたたましい音に、すぐさまあちこちの家から村人たちが出てきた。
「何事だ?」
「火事か? それにしては火が見えないが……」
「あっ、リオ様! これはいったい……」
「皆さん! ゴブリンが迫っています! 西から100匹ほどの大群です!」
悲鳴のように告げた僕は、次の瞬間におかしなものを見た。
ニタリと嗤う村人たち。
「なぁんだ、たったの100匹ですかい」
「緑色のガキどもに、ちょいと行儀つけてやらにゃあいけませんな」
「リオ様は自宅で一杯やっててくださいな。
チャッチャと片付けてきますんで」
どこのヤクザ者かと思うようなセリフだ。
「あんた、明日も早いんだから、あんまり時間かけるんじゃあないよ」
「ゴブリンて食えるのかねえ? 試しに何匹か持って帰っとくれよ」
「子供は寝かしつけとくから、帰りは静かに来るんだよ」
送り出す奥様たちも肝が据わっている。
心配するどころか、勝って当たり前の態度だ。
そしてトイレにでも行くような気軽さで、村人たちはスタスタと駆けていった。
「オラァ! まともな農具の威力を思い知れェ!」
「農民ナメてんじゃねーぞテメエら! やられる側がどっちなのか教えてやらァ!」
「魔物風情が調子に乗りやがって! テメエらのドタマ耕したるぞ!」
「リオ様にご心配かけてタダで済むと思ったらアカンぞコラァ!」
ドスン、バタン、と喧騒が聞こえてくる。
……うん、なんだか心配なさそうだね。
本当に村人かな? いつの間にかオーガの里になったのか?
僕は言われた通りに、一杯やって寝ることにした。
◇
翌朝、数軒の家から異臭が広がった。
「くっせえ! こりゃダメだ!」
「煮ても焼いても食えやしないじゃあないのさ!
まったく、ゴブリンなんて何の役にも立ちゃしないねえ!」
涙目の旦那と半ギレの奥様が出てきた。
本当にゴブリンを食べようとしたらしい。
たくましいな、まったく……。
「リオ様……ご相談が」
「村長……ゴブリンの死体をどうするか、ですね?」
村長は苦笑しながらうなずいた。
もう堆肥にするしかないんじゃあないかな……でも異臭がしたら嫌だなぁ……。
「あっ、そうだ。
何かの素材にならないか、ドンキホーテ・デラマッチャ殿に聞いてみましょう」
久しぶりに手紙を出すことにした。
ゴブリンの素材が100匹分ほど手に入りましたが、ご入用ですか? と。
領都の本店で、手紙を読んだドンキホーテ・デラマッチャが腕組みしながら首を傾げた。
……考え込んでるな。使い道はなさそうだ。
追伸。使えないなら放念ください。
……何かを丸めて投げる仕草。手紙を捨てたな。
「無理そうです」
「細切れにして、森の予定地に撒いときましょうか」
「そうですね……」
それしかないか。
というわけで、そうしたのだが。
「いやぁ、申し訳ない。
せっかく手紙をいただきましたが、このドンキホーテ・デラマッチャ、ゴブリン素材の使い道は存じませんで。
あれは臭すぎて革にもできませんからな」
数日後に訪れたドンキホーテ・デラマッチャが、形だけ申し訳なさそうに言ってきた。
「ああ、気にしないでください。
活用法が見つかったので、もう大丈夫です」
「え? 活用法が!? ど、どう使うのですか?」
新しい商売の可能性と見たか、ドンキホーテ・デラマッチャは食いついてきた。
「忌避剤ですよ。
捨てた所には、虫も獣も寄り付かないことに気付きまして、忌避剤として使えるな、と。
乾燥させた粉末を少量を家の周りに撒いておくと、悪臭もそれほどではなく、害虫の侵入防止になります。乾くと悪臭もそれほど強くないので、カメムシやらムカデやらの対策には効果的ですね。
デラマッチャ殿にも、少し多めに包んで渡しましょう。馬車にでも付けておけば、魔物に襲われる心配が減るかもしれません」
「ほう! それは素晴らしい!
あのどうしようもないゴブリンが、ちゃんと使い物になるとは!
そ、そのアイデア、このドンキホーテ・デラマッチャが買い取りましょう! 乾燥させるには、どうやったのですか?」
商売人だなぁ。
アイデア料を貰って、作り方を詳しく教えることにした。
わーい、臨時収入だ。何に使おうかな〜。




