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第1話 追放されました

「リオ! そっちへ行ったぞ!」


 父上の言葉に振り向けば、イノシシのような姿の魔物が突進してきていた。

 視認するのは大事なことだ。人間は脳に届く情報の7割以上を「目」に頼っている。けれども僕は振り向くまでもなく、魔物の汗や体液を探知している。

 範囲が広いんだよ、僕の水魔法は。


「はい、父上! アクアボール!」


 魔法を唱え、水を作り出す。

 周りは失笑した。

 出力が低いんだよ、僕の水魔法は。

 そして僕には水魔法しか使えない。


「あれが戦場で使う魔法か? いくら何でも弱すぎる」


「まったく情けない。

 せめてフリーズアローかアイスボルトぐらいは使ってほしいものだな」


 騎士たちは皆まで言わないが、兄上たちは容赦ない。

 騎士ってのは、みんな魔法剣士だ。馬と自分を強化する魔法とか、回復する魔法とか使えるのが騎士だ。もちろん剣術も達者で、槍や弓も使いこなす戦闘エリートだ。戦争となれば農民が徴兵される中、騎士だけは「職業軍人」であり、出撃しないときは訓練している。

 そんな騎士たちにとって、僕の初級魔法――アクアボールは飲み水を作るだけの魔法だと思われている――は、さぞや滑稽だろう。板金鎧を装備して剣と盾で戦う騎士たちが、僕を見る目は「こいつコップで戦ってやがる」て感じだ。

 しかし僕が放ったアクアボールは、迫りくる魔物の鼻と口を塞ぎ、呼吸を阻害していた。このまま5秒か10秒も待てば、相手は呼吸できないことに慌てて、攻撃どころではないはず……。


「がぼぼぼ……!」


 と思っていたのに、「死なば諸共」みたいな考えが浮かんだのか、魔物は呼吸できないことを無視して突っ込んできた。

 この凶暴性こそ魔物の魔物たるゆえん。イナゴが作物を食い荒らすように、容赦なく攻撃してくる。しかし、それにしても覚悟ガンギマリすぎじゃないか? 自分の命を捨ててまで攻撃しようなんて……なんて奴だ! 敵ながらあっぱれだよ。


「危ない! お坊ちゃま!」


 忠誠心の塊たる執事にして、引退した元騎士、セバスチャンが僕をかばって魔物の前へ躍り出た。


「ふんっ!」


「がぼぼぼぼ……!」


「むおっ!? ……ぐはっ!」


 魔物の突進を受け止めたセバスチャンだったが、魔物は溺れながらも頭を振り上げ、セバスチャンを投げ飛ばした。

 驚き目を見開くセバスチャン。しかし空中では姿勢を整えることもできず、地面に体を強打する。


「くそっ……! あと少し……!」


 すでに20秒が経過している。

 もうあと10秒もあれば、魔物はいよいよ呼吸できなくなって慌て始めるだろう。

 1分もあれば意識を失う頃だ。

 もう少し……! もう少しなんだ……!


「がぼぼぼ……!」


「ぐわーっ!」


 しかし、魔物は大人しくしていなかった。呼吸できないんだから当然だよね。

 暴れてセバスチャンが踏みつけられた。運が悪い! 魔物はただ呼吸したくて暴れているだけだ。させないけど。セバスチャンを攻撃しようなんて余裕は、もうない。たまたまそこにセバスチャンが居ただけ。蹴躓いたようなものだ。

 でも痛そうだな。あれは肋骨が折れたか。肺を損傷していなければ良いが……。


「セバスチャン! このッ……魔物風情が!」


 父上が怒りに任せて剣を振る。

 魔物は一刀両断された。


「あ、ありがとうございます、伯爵様……」


 セバスチャンがよろよろと立ち上がる。

 そして慈愛に満ちた目で僕を見た。


「お怪我はありませんか、お坊ちゃま?」


「無いよ。ありがとう。そしてごめんなさい、セバスチャン」


 この世界で魔法というのは、地球における銃砲や爆弾のような「兵器」として認識されている。

 そして領民を守るのが領主の役目であり、すなわち貴族とは平民を守り導く立場であるとされる。

 要するに――


「守る力すら無い落ちこぼれは、貴族として失格だ。

 しかも我が伯爵家に多大なる貢献をしてきたセバスチャンに手傷を負わせるとは。

 リオ。お前をついほ――ゲフンゲフン、監督官に任命する。

 サハラ村にて監督官として村の発展に注力せよ」


 今「追放」って言いかけたね? ていうか、ほぼ言ったね?

 父上ェ……とうとう僕を「要らない子」と言うのか。

 しかし怪我させてしまったセバスチャンの手前、反論もしにくい。

 家臣が主人のために身を挺するのは当然だ、なんて考えを持てるほど、僕はエリート意識に染まっていない。なぜなら前世で日本人として生きた記憶があるからね。

 今の人生は18年。けれど前世は45年。まだまだ圧倒的に前世の影響のほうが強い。

 え? どうして死んだのかって? 不摂生がたたって心臓発作か脳出血か何かだよ。カップ麺とかスナック菓子とか大好きだったからね。塩分高すぎ、血圧高すぎで、くしゃみした拍子にプチッと、どっか切れちゃったのかな。


「承知しました」


 と答えるしかないよね。

 サハラ村って、山を越えた向こう側にある内陸部の乾燥地帯にある寂れた村だけど。税もろくに取れない貧乏な田舎だけど。実質は追放で、ほとんど死刑宣告みたいなものだけど。

 怪我したセバスチャンが僕を心配してくれる中で「サハラ村に行けなんてあんまりだ」と騒げるほど、僕は自分勝手には振る舞えない。

 行って、何とか生活するしかないだろう。

 僕に何ほどの事ができるか分からないけれども。

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