夏椿
「好きです、付き合ってください。」
告白したのは彼女の方からだった、話した事もない。
そんな俺のどこを好きになったのだろう。
顔がいいかと言われるとそうでもない、性格がいいかと言われてもそうでもない。
「どうして?俺、君と話した覚えがないんだけど。」
そう言うと彼女は泣き出した。
訳が分からない、何故泣くのか。何故そんなに俺を見つめるのか。何か俺に期待してる?何を。
いくら考えたってわかる訳もない。
すると突然、目の前にある1枚の写真を差し出してきた。
「…これ。」
そこには、幸せそうに笑っている男女の姿があった。
春の心地よい風が吹いていたあの日。
「お待たせ!」
笑顔で笑いかけてきた彼女は『なつき』。
花の名前から取ったらしい、えぇと確か…
「ねえ、早く行こうよ!」
「え?ああ、うんそうだね。行こっか」
手を繋ぎ歩き出す。
うん、やっぱすごい幸せだ。
なつきと居ればずっと笑っていられる、幸せなんだずっと。
なつきは記念日を大切にしてくれて、誕生日だって忘れず盛大に祝ってくれた。
『好き』を言わない日なんてないし、まず話さない日なんてない。
今日だって2年記念日で彼女がプランを用意してくれた。
頼り甲斐があって、大好きなんだ。心から。
だけど、俺は好きを言ったことがない。最低だよな。分かってる。
好きを拒否されるのが怖くて、本当に行動に示せるのかが怖くて、ずっと口にできなかった。
(今日こそは!!)
なんて俺は張り切っていた。
イルミネーションを前に、彼女を見ていた。
横目に見える1台の車。
先を歩く彼女の背中を強く押した俺は、宙に舞った。
「ねえ…ねえ…、何してんの…?なんで、なんで私の事押したの…!やだよ、ひとりにしないで。いかないで。」
彼女を泣かせた、情けない。
「ごめ…んね。俺…死なないよ…。なつき残して、死ねない…」
大人が俺を見下ろす、動画を撮っている奴、「やばぁ」なんて言ってる奴。
虫唾が走る。だから嫌いなんだ、大人って。
15分後誰かが呼んだ救急車で俺は運ばれた。
車が揺れる、血が垂れる、なつきが泣き叫ぶ。
3人がかりで手当てされた、自分が思ってるよりやばいらしい。
(なんで、なんで俺が…)
悔しい、俺は何も悪いことなんかしてないのに。
悪いのは全部大人なのに、なつきを残して死んだらどうしよう。
なつきを見るのがこれで最後になったらどうしよう。
最後に、もし最後なら。
「なつ…き。好きだよ…」
掠れた声でそういった、言えた。はっきりと。
「やだ、やだよ。やめてよ。嫌だ。死なないで。ねえ…」
俺はそこで目を閉じた。
───ピピッピピッ。
(なんだ、この音。暗い、寒い。何処だここ。)
目を開けると、泣いている女の子と医者。
(この子。誰だ…。)




