守護者
扉を開けると、そこには広大な空間が広がっていた。
中央には祭壇のような構造物が据えられ、荘厳な雰囲気を放っている。その光景は思わず見入ってしまうほどだった。
俺は警戒しながら、ゆっくりと奥へ進む。
やがて、祭壇の中央に一つの影が見えた。
「……なんだ」
影は微動だにせず、堂々とこちらを待ち構えている。その立ち姿から、あれこそがこのゲートを守る守護者なのだと理解した。
俺が近づいた瞬間、周囲を囲むように設置された松明に次々と蒼炎が灯る。
松明に照らされ、影の正体が明らかになった。
「あれは……鬼……」
黒い肌に青い角。
手には黒刀を携え、身長は190センチを超える巨躯。だが、無駄のない引き締まった体と鋭い眼光が、先程までの魔物とは格が違う存在であることを雄弁に物語っていた。
「こいつは……強い」
奴から放たれる威圧は本物だ。これまでに感じたことのない緊迫感が場を支配する。常人であれば、立っていることすらできず恐怖に飲み込まれるだろう。
「面白い」
だが俺は、未知の強者を前にして高揚していた。
戦いたい。ねじ伏せたい。
そんな衝動に駆られ、思わず笑みが浮かぶ。
「勝負だ」
俺の気持ちが伝わったのか、鬼も僅かに口角を上げたように見えた。
互いに武器を構える。静寂が空間を満たす。
――先に動いたのは鬼だった。
「っ!?」
気づいた時には、鬼は目前に迫り、黒刀を振り下ろしていた。
咄嗟にナイフで受け止める。激しい金属音が響いた。
だが――
「バキッ!」
「っ!?」
ナイフは根元から折れ、無残に砕け散った。
一瞬の動揺。その隙を、鬼は見逃さない。
前蹴りが炸裂し、俺は吹き飛ばされ壁に打ち付けられた。
「ぐはっ……!」
腕を交差させて防御したが、圧倒的なパワーに抗えない。
全身を走る激痛に歯を食いしばりながら、俺は立ち上がる。
――強すぎる。
ゲートは通常、時間の経過とともに難易度が上がるが、現時点でここまでの守護者が現れるはずがない。
「まさか……ユニークか!」
ユニーク――突発的に生まれる特殊個体。
その存在は稀だが、いずれも規格外の力を持ち、人類にとって大きな脅威となる。
「道理で強いはずだ」
本来、このゲートの守護者はゴブリンの上位種のはずだ。
しかし鬼は明らかに別格の存在だった。
鬼はゆっくりと歩み寄ってくる。
その表情は、まだやれるだろうと問いかけているようだった。
――楽しんでやがるな。
「おい、ナイフがダメになったじゃないか」
折れたナイフを一瞥する。市販品だ、ここまで持っただけでも御の字だろう。
「……まあ、問題ない」
俺はナイフを捨て、構えた。
「行くぞ!」
言葉と同時に、俺の拳が鬼の顔面を捉える。
鬼は大きく吹き飛ばされた。
「やられたら、やり返さないとな」
鬼は一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに立ち上がる。
「まだまだだろ?」
挑発すると、鬼は刀を構え、猛然と距離を詰めてきた。
鋭い攻撃が襲いかかる。
「……当たらないな」
先程とは違い、鬼の刀は俺を捉えられない。
苛立ったのか、鬼は大振りになった。
「甘い!」
一撃をかわし、踏み込んで腕を掴み、そのまま一本背負いで叩きつける。
鬼は地面に叩きつけられ、衝撃で刀を手放す。
鬼は痛みに耐えながらも素早く体勢を立て直し、ハイキックを放つも、俺はかわしてボディに拳を叩きつけた。
「グッ……!」
吹き飛ばされた鬼は、消耗しながらも立ち上がる。
「お前は強かったよ。お前にとっての誤算は相手が俺だったことだ」
鬼は最後の力を振り絞り、突撃してくる。
速度は先程よりも速い。
だが――
「相手が悪かったな」
落ちた黒刀を手に取り、迫る右腕を斬り裂く。
逆腕、両脚――人ならざる速さで斬り伏せる。
それでもなお近づこうとする鬼に、俺は告げた。
「終わりだ」
肩口から腰まで、一閃。
鬼は崩れ落ち、絶命した。
その顔には、強敵と戦えた満足と、悔いのない静かな笑みが浮かんでいた。




