初登校
チャイムの音にいち早く反応した母が、パタパタと小走りでドアフォンを操作しに行き来客者となにか話したあと、開錠ボタンを押した。すぐに玄関が開く音がした。
「優ちゃん、先生がお迎えにきてくれたから早く挨拶しなさい」
席にすわったまま様子を見ていた俺に母が見かねて声をかける。
そういわれた俺は食器をシンクに入れて軽く水につけておき、軽く身だしなみを整え玄関に向かう。
迎えに来た先生らしきスーツ姿の女性が玄関付近を珍しそうに見回し、その流れで俺の姿が目に入ったのだろう。目が合った途端ぴしっと姿勢を正す。
「近藤優哉様ですね。護衛官の佐々木と申します。」
緊張した面持ちで挨拶をしてくるので、俺も頭を下げてよろしくお願いします、などと挨拶を返す。
「本日から入学ということで、お迎えに上がりました。お母さま、責任をもって学校までお送りしますのでお任せください」
首にかけた身分証を母に見えるように掲げながら、同じように丁寧に挨拶した。
「ご苦労様ですー。今日から三年間どうかよろしくお願いしますね」
母たちが挨拶を交わすなか、俺は家を出るため靴を履き靴紐を結んでいた。
(先生がくるって言ってたけど護衛官なのか。護衛官がそもそもなんなのか分かってないけど母も普通に受け入れているし、これも聞いたら変に思われそうだな)
家を出る準備が整った俺を佐々木さんが確認したあと、行ってきます、とあいさつし一緒に家を出る。母と、リビングから様子をうかがっていた美人さんがサンダルを履いて外に出たところまで見送りに来てくれた。
家の前の道路には大きめの黒いマット塗装のバンが停まっている。フロントガラス以外の窓にはすべて薄黒いスモークがかかっており、車内が見えないようになっているようだ。
佐々木さんが車のドアノブに手を差し込むと、自動でドアがスライドして開く。
ありがとうございます、とドアを開けてくれたのでお礼を言い車に乗ろうとすると、
「いえいえ。私の指紋で乗車できるようになっているので、これからもこうやって乗ってもらうことになります」
と相変わらず背筋を伸ばしたままの佐々木さんが答える。
厳重だなぁと思いながら乗車すると、中にはすでに6人の男子がシートに座っていた。
乗車口に一番近い席しか空いていないため、そこに座る。てっきり向こうから挨拶してくれるものだと思い少し待っているが、なにも声がかからない。見回してみると、みんな俯いてあまり顔が見えない。
「おはようございます」
とりあえず挨拶してみると、何人かから「あぁ・・おはよう・・」と小さい声で返ってくる。
なんかみんな暗いな。高校入学で緊張しているにしてはなんか様子が変だ。
訝しげにしながらカバンをシートの隙間に置き、安定した姿勢に座りなおしていると運転席に佐々木さんが乗り込んでくる。
「よし。では全員揃いましたので学校に向かいます」
そう言うとハンドブレーキを戻し、ゆっくりと車を発進させる。
車内には小さい音量でラジオがかかっているが、後部座席に会話はなく、どんよりとした空気が漂っている。




