知らない美人さん
さっきは焦りもあって母の挨拶を無視してしまったが、思い返すと母も若返っている。
引き返して若い母の前に立ち、挨拶を返しつつ姿を眺めた。
「なに?どうしたの優ちゃん」
普段と違う様子の俺に、いぶかしげな眼を向けてくる。
「朝ごはんあるからとりあえず着替えてらっしゃい」
寝起きすぐで上裸の自分の姿に気づき、へいへいとつぶやきながら自室へ戻る。
自室に戻ろうとドアに手をかけると、倉庫のはずの横の部屋から制服姿の女の子が出てきた。
俺の姿を見ると、あ、おはよう、と挨拶をし、階段を下りて行った。
落ち着いた俺の頭が再度混乱してくる。
「誰だ。誰だあの美人さんは・・・」
ぶつぶつとつぶやきながら制服がかかっているはずの壁の衣服かけに手を伸ばす。
そこに制服はなかった。あれ?起き抜けに確認した限り高校生時代のはずだが・・。
もう一度カレンダーを見る。西暦くらいしか見ていなかったが、日付をみると4月1日だった。
今日は入学式か!
部屋のクローゼットを開け、まだ箱に入ったままの制服を取り出す。
前日に準備などせずに、早起きして用意しようというズボラさはまさに自分だな、と苦笑しつつ新品で多少固くなっている制服に袖を通す。
一度準備し始めれば体に染みついているのか、登校に必要なものはすぐに整えることができた。
「ま、初日だしガイダンスだけで終わるはずだしな」
中身のほぼ入っていないスカスカの学校指定カバンを持ち、1階に降りる。
階段を下りながら過去を思い返すが、それでも横の部屋から出てきた美人さんに見覚えがない。
リビングのテーブルに着くと、席には若い母と先ほど2階ですれ違った美人さんが座っていた。
俺が同じく席に着き、それを合図にいただきます、と合唱しテーブル上にある朝食を食べ始める。それを見て、俺も同じようにいただきますといいながら朝食を食べ始める。
(ここでこの人について聞いたら怪しまれるよな?)
当然のように席に座って食事を共にしている様子を見ると、いつからかは分からないがしばらくは一緒にこの家に暮らしているのだろう。
何から質問しようか考えあぐねていると、母がニコニコと笑顔を浮かべながらこちらを見ていた。
「優ちゃんもついに高校生になるのねぇ。制服姿を見るとなんだか感慨深いわ」
目玉焼きを食べ続ける俺を見ながらうんうんとうなずいてる。
「優君も今日から私の後輩になるのかぁー。やっと自慢の優君をみんなに見せられるね」
美人さんも母と同じようにこちらを見て満面の笑みを浮かべている。
どうやら自分はこの美人さんとは仲のいい関係を築けているようだ。
なんとなく安心しながら、どう返事をすればいいのか戸惑っていると、母が会話を続けてくれた。
「学校までは先生が迎えに来てくれるから、向こうで合流しましょう。校門で写真も撮りたいしね」
「もちろん私も一緒に写るからね」
俺が何も言わない間にどんどん会話が進んでいく。
なぜわざわざ先生が迎えに来るのかは全く分からないが、とりあえずわかった、とだけ答えて朝食を食べ進める。
あまり朝食をたくさん食べる習慣がないこともあり、すぐにすべての皿を空にして、コップに残ったお茶を一気飲みしたところで家のチャイムが鳴った。




