目覚め
目覚ましの音で目が覚めた。その音になつかしさを覚える。昔使っていた目覚まし時計と同じ音だ。自分から思い出すことはないが、聞けば当然のように判別できる。
早く止めないとだんだん音が大きくなる仕様のため、寝ぼけながら布団から手を伸ばし目覚まし時計の上部を押して音を止める。
「あれ・・?」
だんだん頭が覚醒する中で、ふと思い出す。
あの時計は大学に進学してすぐに壊れて使えなくなったためスマホの目覚ましに切り替えた気がする。
なぜ家のなかで昔聞きなれた目覚ましが鳴っていたのだろう。
もぞもぞと布団から抜け出し、ベッドから身を起こす。
まぶしい朝日を浴びて目を細め、周りを見渡す。
伸ばした手の先には想像通りの懐かしい目覚まし時計がある。
いや、それだけではない。部屋全体が懐かしい。おいてある家具や間取りすべてが思い出にある実家の部屋そのままだ。
覚醒したはずの頭が混乱し始めるのと同時に、混乱を解消するべく部屋をぐるぐる歩き回る。
同じだ。やはり昔の自分の実家の部屋だ。
大学に進学して一人暮らしを始める前に毎日見た景色だ。
一人暮らしを始めたら、親に住んでないのだからいいだろう、とすぐに物置部屋にされたはずでもう存在しないはずの部屋だ。
部屋を見回す中で、壁にかかっているカレンダーに目が留まる。
西暦が間違っている。記憶にある数字から20ほど数字が減っている。
混乱度の加速度が増していく。
ふと自分の体を見てみると、昨日までよりも体が縮んでいる気がする。中年太りでたぷんと出ていた腹もへこんでいるようだ。カサついていた肌もきめ細かくなっている。
信じられないが、なんとなく状況が呑み込めてきた。本当にうっすらだが。
慌てる心を抑えつつ、2階の自室から1階の洗面台に小走りで向かう。
「あ、優ちゃん起きたの?おはよう」
母があいさつをしてきたが、それどころではない俺は母の横を通り過ぎて鏡を見る。
「マジか・・」
若くなっている・・?のは分かるが、記憶している若いころの自分の顔と若干違っている。
自分の顔の面影はあるが、少しづつパーツのバランスが違う。そこはかとなくイケメンに変わっていた。
さっきまではほぼ理解ができていた。タイムスリップしたのだろうと思っていた。
違うのだ。タイムスリップというより、同じようだが全く違う別の世界線に意識が飛んだようだ。




