第09話 「さようなら」
大変遅くなりました、最新話です!
成績がえらいことになってしまいまして、何とか修正するために1月全部使ってしまいました…。
でも何とか回復したので、これから少しずつコツコツと投稿していけたらなと思います^^
長めの黒髪、整った顔立ち。スラリと背が高いが細いというイメージは湧かない。キリリとしまった口と少々吊り気味の目のその人物、
「悠一…君…?」
―――相良悠一は、この場におおよそ似つかないすました表情で立っていた。
数秒間時間が止まった後、強盗の中で一番リーダー的な雰囲気を纏った人物がいち早くその異様な光景から立ち直った。
「な、なんなん…!」
男が言い終える前に、悠一が右手に持ったガトリングガンを発砲した。轟音と共に飛来する銃弾の嵐を体中に受けて男は吹き飛び、そのまま地面に崩れ落ちた。
「お、お前、いったい…!」
それを見て残りの三人が正気に戻ったと思いきや、彼らの体にも銃弾が着弾する。全員先ほどの男と同じように血飛沫を上げながら、声を上げる間も無く絶命した。
「…さっき言ったろ、『何の変哲もないただの兵器』って」
悠一が四つの亡骸に静かにそう告げた途端、数人の完全武装した人間、おそらく軍人が店内に上がりこんだ。
「状況は?…なんて聞くまでもないか」
「ん。目標の殲滅は終了。と言うわけでこれ頼んだ。ったくあの野郎、だから刀はいらないって言ったのに無理矢理持たせやがって…」
悠一は話しかけてきた隊長らしき人物に持っていた銃と刀を押し付けた。
「分かった、あとで俺が返しておく。残りの後片付けとか後始末とかはこっちでやっとくから、お前はもう帰っても良いぞ」
「ど~も。あそうだ、それとアイツな…」
悠一がチラリと、涙を流しながら呆然とへたり込んでいる優姫を見る。
「彼女がどうかしたか?見たところ一般人みたいだが…」
「一般人だよ、学校で仲良くしてる友達だ。と言うわけで、きっちり対応するように。あと多分あとからもう一人ポニテで吊り目の女子も来ると思うからそっちもよろしく」
「注文多いな…まぁ分かった、まかせろ」
「頼んだぜ、そいじゃ後よろしく」
すれ違いざまに男の肩をポンと叩き、悠一は店を出て行った。が、混乱している優姫はそれすら気づかずに呆けていた。
その後、悠一が出て行ったほぼ直後に瑞樹が店に到着。泣いている優姫を慰めつつ先ほど悠一と話していた男と共に外に停めてあった装甲車に乗ってその場を去った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「…落ち着いたか?」
基地についてから二人が通されたのは小さな部屋だった。人が十人も入れば窮屈そうな部屋に小さな机が一つ。天井から吊るされているライトは部屋全体を薄暗く照らしており、刑事ドラマなどでよく見る尋問室のような雰囲気だった。
部屋に通された途端、優姫は崩れるように置いてあった椅子に座り込み、それを瑞樹が横に立って頭を撫で続けた。それが1時間ほど続いただろうかと言う頃、二人をこの部屋に通した人物が、全ての武装を解除し、遠慮がちに部屋に入ってきた。
「私は大丈夫です。そもそも私はほとんど何が起こったのかを見てませんし」
「そうか。…君は?」
男は瑞樹の返答に安堵したような表情を向け、次に俯いたままの優姫に声をかける。
「…ですか?」
「ん?」
消え入るような声なので聞き逃したのか、男が聞き返す。優姫はもう一度口を開き、
「…悠一君はどこですか?」
真っ直ぐ男の目を見て言い放った。
予想外の返答が帰ってきたことに驚いたのか、男はしばらく呆然としていた。
…と、思った直後。
「はっはっはっはっ!成程、アイツもなかなか慕われてるじゃないか!ま、君も自分より先に友達の事を心配出来るなら問題ないだろ、結構結構」
大声で笑い出した。小さな部屋での大きな笑い声は壁を反響し音量を上げ、二人の耳に襲い掛かる。
たまらず耳を手で押さえている二人に気づいて、「すまんすまん」と謝りながら男は声量を抑えた。
「…それで、悠一君はどこなんですか?」
「まぁ少し落ち着いて。そんなに焦らんでもアイツはしばらくはこの基地から帰ったりしないから」
「でも確かめなきゃいけないことが…!」
「分かってるって、それに関係してる事で君たちに、特に君に前もって断っておかなきゃいけないことがあるから」
男は優姫の目を見て、先ほどの笑っていた時の目とは違い真剣な目をして、有無を言わさぬ迫力と共に言った。
―だが、
「そんな事はあとで聞きます。今はとにかく、悠一君のところに案内してください」
そんな迫力にまったく物怖じもせず、優姫は男を見据えて言い放った。その迫力は、最早命令と呼んでも良いかもしれない。
そのあまりの迫力に男は、瑞樹すら、しばし呆然と優姫を見つめる。そしてしばらく後、
「…分かった分かった、分かったからそんなに睨むな。どうせ連れて行かなきゃ話なんか聞いてくれなさそうだし」
男は軽く手を上げ席を立つ。
「…ミズキちゃん、行こ」
優姫もそれに従って立ち上がり、男と共に部屋を出る。それを見てようやく正気に戻ったのか、瑞樹も慌てて立ち二人の後を追った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「…悠一」
男は鉄製の扉の前に立って、目的の人物の名を呼ぶ。
「柚原だろ?あとついでに瑞樹も。いいぞ、入ってきて」
部屋の主の了承を得て、男は重そうな扉を開けて二人に道を譲る。優姫はそれを確認してから、男には目もくれずに部屋に侵入していく。
部屋には何も無かった。椅子も無い、机も無い。窓も無ければ、電気すらない。それはさながら牢屋のようだった。
そんな中で、
「…悠一君」
「…よ、久しぶり」
相良悠一は、何故かラーメンを片手に地面に座り込んでいた。
「…うん、久しぶり」
悠一の挨拶に返事をして、止まらずに彼に向かって前進する。
「落ち着いたか?」
「…うん、ありがとう」
止まらない。
「そっか。もう大丈夫なら、今日はもう遅いしとっとと帰ったほうが良いな」
「…うん、そうだね」
座っている悠一の前で足を止める。目線が悠一と同じ高さになる位置までしゃがみこむ。
「…お前も食うか?」
「ううん、いらない」
悠一の申し出を一刀両断した直後、部屋に「パァン」と言う音が鳴り響いた。音は壁を反響し、音量を何倍にもして部屋内にいる人物の耳に届ける。
「…」
「…」
乾いた音の後には、陶器の割れる音と箸の落ちる音。それが済むと、部屋は静寂に包まれた。
「…どうしてあんな事したの?」
静寂を破ったその声は、震えていた。
「…あんな事って?」
「どうしてあの人達を殺したりしたの?」
「仕事だからさ」
殴ったほうも殴られたほうも、互いに目を逸らさない。
「…私はこの前、もう人傷付けないでって言ったよね?」
「注意はされたかもな。でも俺は約束はして無いし、守る義理も無い。そもそも、これが仕事なんだから仕方ない」
「…仕事って何なのよ、人殺し?」
「否定はしないさ」
「…っ!」
もう一度乾いた音。
「友達だと…思ってたのに…!」
「…友達ってのはお互いの事を認め合うもんじゃないのか?」
「私の知ってる悠一君は人殺しなんかしない!」
怒声が鳴り響く。いったいこんな小柄な体のどこからこんな声量が出るのかと言うくらい大きな声で怒鳴る。
「…残念でした」
「…!っ…!」
優姫の手が再び振り上げられ…止まる。
表情は見えないが、唇を噛んでいるのだけはうかがえた。
行き所を失った手は力なく彼女の傍らまで落ちてから、強く握り締められる。
「…」
「…」
お互いにかける言葉が見つからないのか、それともかける言葉などそもそも無いのか。部屋は再び静寂に包まれる。
それがどれほど続いたのか、不意に優姫がゆらりと立ち上がった。
悠一に背を向け、コツコツと足音を立てて出口へと歩いていく。
部屋を出る直前。
「…さようなら」
振り返らずに告げた少女の姿は、ゆっくりと悠一の視界から消えうせた。
新しくコメディー始めました。あんまりシリアスばっかりだと飽きてくるし何より自分の気が滅入ってしまうので、息抜きにちょくちょく更新して行こうと思います。興味のある方は是非^^(二次創作ですので、苦手な方はご注意を><)