第08話 最低最悪のボーイ・ミーツ・ガール
随分遅れてしまいましたが、投稿できました。そして皆様、メリークリスマス!
物語のターニングポイント、お楽しみください!
「あ、悠一君、おはよ~」
「…眠い」
「こ~ら、挨拶はしなきゃだめだよ」
「…グッモーニン」
「…まぁよし、行こ?」
「ん」
月曜日午前7時、いつもの場所で悠一と優姫は合流した。
「いや~、昨日はビックリしたね!」
「『ビックリしたね!』じゃねーよ、お前が寝たから乗り過ごしたんじゃねぇか…」
「人のせいにしないでよ、自分だって寝てたんだからさ~」
「先に寝たのはお前だろ?」
「釣られた悠一君が悪いんだよ」
「開き直りやがって…」
昨日の話題で盛り上がりながら歩く二人が向かう先は瑞樹の家。
「ミズキちゃん、おはよ!」
「おはよ、相変わらず仲睦まじいようで」
「いやぁ~、それほどでも~♪で、ナカムツマジイって何?」
「…そんなオチだろうと思った。で、モンハンは買えたの?」
「う゛…」
「買えなかったみたいね」
「しょ、しょうがないじゃん、そのお店で売り切れてたんだから!」
「誰も責めてないでしょうが…。でも何件か回ったらあったんじゃないの?」
「私だってそうしようとしたけどさ~、悠一君がマイムマイム君にケンカ売られちゃったんだもん…」
「…マイムマイム君?何それ民謡?」
「あれ、違った?悠一君なんだっけ?」
「真崎雅樹な」
「え、そんな名前だったっけ?」
「…またの名を田中太郎」
「あぁ、そうだそうだ、田中太郎君!太郎君に絡まれて、それを悠一君が返り討ちにしたんだよ!」
「田中太郎…?あぁ、あのホモね」
「あ、そっかまだミズキちゃん知らないっけ?あのね―――」
そんな感じで瑞樹に昨日の話を聞かせつつ歩き、やがて三人は学校に到着した。
「ふぁ…ぁ…」
悠一が上履きに履き替えながら、大きな欠伸をした。
「悠一君なんか今日凄い眠そうだね?そういえば朝も眠いって言ってたっけ」
「どうせ夜更かしでもしてたんでしょ?」
「正解、知り合いと夜遅くまで話しててな…。ちょい寝不足」
「ふ~ん…何か悠一君が誰かと長電話なんてイマイチ想像できないね」
「そうか?まぁ俺もたまにしかやんないけどな」
「そうなんだ。あ、あたしにも携帯番号教えてよ。遊ぶ時連絡取りやすいし」
その時、授業開始1分前の鐘が鳴った。
「っと、時間ないから放課後な。お先っ!」
「あ、ちょっと!…もう、少しくらい待ってくれても良いのに。ねぇ、ミズキちゃ…あれ?」
同意を求めて瑞樹を探すが、彼女の姿は既になかった。
「優姫、早くしないと遅刻よ!」
声の方向を見ると、既に100メートルほど離れた瑞樹が叫んでいた。
「ちょ、二人そろって置いてかないでよ~!」
自分も急いで靴を下駄箱にしまい、教室に向かって駆け出した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
放課後。
「優姫、悠一、今日この後ヒマ?」
「俺はヒマだな」
「あたしも」
「じゃあこのあと遊びに行くわよ。とりあえずゲーセンとか」
「おぉ、いいね~あたしは行く!」
「…俺正直昨日行ったからゲーセンはお腹一杯なんだが」
「そんな都合知らないわよ、あたし抜きで勝手に昨日行ったあんた達が悪いの」
「ついでに財布のほうも悲惨な事になってるんですが」
「計画性に欠けた自分の責任ね」
「…分かったよ、行けば良いんだ―――」
そこまで言ったところで「ピロロロロ、ピロロロロ…」と言う何の変哲もない携帯の着信音がどこからともなく響いた。
「あれ、俺だ。悪い、ちょっと待ってろな。もしもし…」
一言断って悠一は電話に出た。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「チャ~ンス。優姫、ちょっと」
「ん、何ミズキちゃん?」
「あんたさぁ、昨日あいつに助けられたじゃない?」
「うん」
「それでアイツに惚れてたりする?」
「惚れ…えええぇぇぇ!?」
「シーッ、声が大きいって!」
「な、ななな、な、なっ!?何で!?」
「だって先週より何となく仲良くなってるっぽいし、いつの間にか『悠一君』とか呼んでるし」
「そ、そそそれはその、昨日友達だって言ってくれたからもうちょっと馴れ馴れしくなっても良いかなって思ったり思わなかったり!」
「…そんなに動揺しなくても良いって」
「ど、動揺なんてしてないよ!?私いつでもこんなテンションじゃん!」
「…う~ん、意識し始め、って所かな?さて、これからどうなるかしら…」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
一方その頃。悠一は携帯の向こうの人物と会話をしていた。
「こんな平日からか?ったくめんどくせぇな…確実に今日なのか?根拠は?…ん~、でも俺今から友達と出かける約束があるんだけど…分かった分かった、行けば良いんだろ行けば?」
「惚れ…えええぇぇぇ!?」
「…なんでもない、例の友達が騒いでるだけだ。…はいはい、とりあえず一旦そっち向かうから。…あぁ、了解。そいじゃ」
折りたたみ式の携帯をパチンと閉じる。一つため息。
「珍しく瑞樹の奴から誘ってきたってのに…。何て言われるか分かったもんじゃねぇなこれは」
携帯をポケットに滑りませ、悠一は待っている二人のところへ戻った。
「悪い、急用入った。俺今日はすぐ行かないとだ」
「え、そ、そうなの?」
「…優姫、何かあったか?顔真赤。そういえばさっきも叫んでたっけか、大丈夫か?」
「だだだ大丈夫!問題ないよ!」
「…何かあったのか?」
優姫のおかしな様子の見て、悠一は瑞樹に尋ねる。
「別に何もなかったわよ。それよりさっさと急用とやらに行けば?」
「んな怒んなって、今度なんか奢るから」
「別に怒ってないわよ、奢ってもらいはするけど。さっさと行きなさい」
「悪いな、じゃ行ってくる。柚原、またな!」
「へ!?あ、うん、バイバイ」
何となく元気がなかった優姫に別れの挨拶をして、悠一は教室を出て行った。
「…アイツは相変わらず『柚原』なんだ」
誰にともなく、瑞樹が呟いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
3時間後。悠一が去ったあと落ち着いた優姫は瑞樹と共にゲームセンターへ繰り出し、現在は町を歩いていた。
「それにしても、相変わらずあんたゲーム下手ね」
「うぅ…」
「勉強できない、運動もダメだしゲームも下手。あんた取り得ある?」
「…美少女」
「自分で言うな」
対戦ゲームで惨敗、リズムゲームではなかなか良い成績を叩き出したもの瑞樹には一歩及ばずという記録を残した優姫はそれなりに落ち込んでいた。
「…でも昨日悠一君には勝てたよ?」
「じゃあ悠一相当下手なんじゃない?」
「そんな事ないよ、多分あたしと同じくらい」
「十分下手よ」
「うぅ~、ミズキちゃんのイジワルイジワル!!」
「Sだからね♪」
「音符をつけるようなことじゃないよ~!」
ガシャン!バリィン!
「キャアアアァァァ!!」
二人がじゃれあっていると、近くの宝石店のガラスが盛大な音と共に割れ、数人の人物が店内に乗り込んでいった。
チラッとしか見えなかったが、それぞれが覆面と銃器を装備しているようだった。
二人はしばしその非日常的な光景に呆然としていたが、やがて我を取り戻し、今自分達の前で宝石強盗が発生している事を脳が認識した。
「マズイって…!優姫、逃げるわよ!出来るだけ遠くに全速力で!」
「…だ、ダメッ!」
掴まれた手を、優姫は振り払った。
「優姫!?何考えてるの、死にたいの!?」
「あ、あの人たち銃持ってた…」
「そうよ、だから早く逃げるの!」
「だ、ダメ…誰かが止めないと、人が死んじゃう…!」
「それは警察の仕事でしょ!?今逃げないと死ぬのはあたし達よ!ほら早く!」
「…ミズキちゃん…ゴメンね!」
瑞樹の説得を聞き入れず、優姫は宝石店の方へ向かって走り出した。
「…っ!嘘でしょ、ったく!」
携帯を取り出して110番を押しつつ、走り出した親友を追って瑞樹も同じく走り出す。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おら、お前ら早く荷物つめろ!」
「分かってるって、もうすぐ終わる!」
宝石店の中では覆面をした人物が4人、懸命に宝石を袋の中に詰めていた。
「ま、待って!」
「あぁ?」
4人がそろって声の方向を見る。視線の先には小柄の女子高生が一人。体を震えさせて立っていた。
「はぁ、はぁ…ほ、宝石が欲しいなら、持ってって良いから!だから銃は、使わないで!誰も、傷付けないでっ!」
女子高生、柚原優姫は震える体を押さえつけ、懸命に宝石強盗の4人に訴えかけた。
4人はそれを聞いて、顔を見合わせ…
「…ぷっ!」
『あっははははは!』
…盛大に笑い出した。
「なんだお前、要するに人殺しするなってことか?」
「そ、そう!誰も傷付けないで…お願い!」
「ん~、困ったなぁ、俺達もうみ~んな殺っちゃったしな~」
「…ぇ」
それを聞いて、優姫は慌てて店内を見回す。
強盗の4人以外の人間は店内におらず、壁の至る所に銃痕と血がついている。
「…ぁ…ぁぁ!」
辺りの悲惨な状況を見て、優姫の目から涙がこぼれる。その様子を見て、強盗4人が再び笑い出した。
「気づいてなかったってか!相当テンパってたんだな、傑作だ!はっはっは!」
「そういうわけなんで、お前邪魔だ」
リーダー風の男がいち早く笑いをおさめ、手にしている銃器の銃口を優姫に向ける。
「消えとけ」
バリィン!
男が人差し指に力を込めた刹那、またしてもけたたましい音と共に店のガラスが大破する。
「!?な、なんだ!?」
「まさかもうサツか!?」
「そんなバカな、対応がいくらなんでも早すぎる!」
予想外の出来事に強盗全員がうろたえた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
優姫は未だに俯いて涙を流していた。
「強盗罪、銃刀法違反、殺人罪、その他諸々の理由で逮捕、もとい処刑する。おとなしくするように~」
顔を上げた。聞き覚えのある声がしたような気がした。
「な、なんだてめぇ!?」
「いやぁ、何だと言われても…。お前らを制圧するために軍に送られた兵器ってとこかね」
涙の溢れる目で、声がした方を見る。
「て、てめぇはいったい何者なんだぁ!?」
「名乗る名前なんて無いさ」
そこに映ったのは、
「何の変哲もない、」
右手にガトリングガン、左手に刀を装備した、
「ただの兵器さ」
友達の、相良悠一だった。
新年だったり色々あって遅れる可能盛大ですが、気長に待っていていただければ幸いです。自分勝手を言って申し訳ありません…;;