第07話 友達
期末テストの勉強とかあるのでかなり状況描写がいい加減です、すみません。その代わり比較的簡単に思いつく会話は結構多いので、ご容赦いただければ幸いです^^
「…ちっ」
舌打ちをする悠一の足元には、横たわっている男達。そして背後の少し離れた場所で地面にへたり込んでいる優姫。
「十人以上いてこのザマか…。ま、もともと何も期待なんてしてなかったから構わんけどな」
沈黙している男達にそう吐き捨て、悠一は振り向き優姫に笑いかけた。
「怪我ないか?」
「…」
「あ~…やっぱ刺激強すぎたか?」
「…ゆ、相良君?」
優姫の表情からは感情は読み取る事はできなかったが、声は震えていた。
「…それともあれか、やっぱ俺が怖いとか?」
「なっ…」
「まぁそうだよな、顔色一つ変えないで相手のことをここまでボコボコに出来るやつなんてそうそういないか…。悪かったな、怖がら―――」
「何やってるの、相良君のバカー!」
「…はい?」
黙っている優姫の言葉を代弁しているつもりで喋っていた悠一は、その「予想の斜め上」とかそういうレベルでは表現できないほど想像からかけ離れた怒声を聞いて、あっけに取られて思わず聞き返してしまった。
「確かにいきなりバット持って仲間連れてケンカ売ってきた太郎君も悪いよ、でもそれ以上にそれを話し合いもなしに暴力で解決した相良君が悪い!」
「は…いや、えっと…は?」
「だから!太郎君がいくら自分の恋が実らないからって相良君に酷い事しようとしたのは確かに相手が悪い!でも、それをどうにか平和的に解決できないかを考えなかった相良君が一番悪いって言ってるの!」
「…」
唖然とするしかなった。悠一にとって、今この状況で優姫が取る行動は「感謝する」と「自分を恐れる」の二択だった。それをまさか助けた事を咎められるとは予想だにしていなかったのである。
一通り優姫の言い分を聞いたあと、悠一は必死に状況を整理し、ようやく会話が出来る程度には頭が落ち着いた。
「…つまりあれか、こいつらは俺が告白を断ったからその腹いせに暴力を振るいに来てて、それの打開策を探し出そうとしなかった俺が基本的に悪いと、そういうことか?」
「そう!」
「ついでにあそこに寝てるちっこいのが田中太郎?」
「そう!」
「…真崎雅樹じゃなくて?」
「…なにそれ、民謡?あ、それマイムマイムだから…モンハンの新アイテム?」
「…」
悠一は結論を下した。
「バカじゃねーのかお前!?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「…あの時雅樹君と教室出て行った時にそんなことがあったんだ…」
「そういうこと。納得したか?」
その後、近くにあったベンチに二人並んですわり、悠一は優姫に事の顛末を話した。雅樹が脅しをかけてきたこと、それを悠一が脅し返したこと、それが雅樹の転校の理由だと言う事、今日来ていたのはその復讐のためだということ、そして最後に雅樹の名前が田中太郎ではないこと、それらを全て包み隠さず話した。
「納得できない事が一つ…いや二つある」
「何だよ?」
「一つは、結局ここより前にも雅樹君に暴力を振ったことがあること。どうしてそういう事するの?」
「だから言っただろ、あいつから殴ってきたんだ。正当防衛だ」
「素直に成績わざと落とせばよかったじゃない」
「何で俺があんな奴のために手を抜かなきゃなんないんだよ」
「ケンカにならないのが最優先でしょ?」
「そこは納得できないな、ケンカを回避するために自分が折れる必要はない」
「…やっぱり納得できないけど、とりあえず今はもう一つの事」
「どーぞ」
「どうしてあたし達に黙ってたの?」
「教える必要がなかったから」
「私達は相良君に聞いたよ?『何だったの?』って。それなのにどうして嘘をついてまで隠してたの?」
「話さなきゃいけない理由がなかったからだ」
「嘘をついてまで隠す理由もなかったはずだよ」
「…」
「…」
気まずい沈黙が訪れる。悠一は隣に座る少女の事をチラリと見て、一つため息をついた。
「…何そのため息?」
「…別に」
とは言うものの、悠一は正直なところかなり困惑していた。
今まで一緒に過ごしていた中でも(というのもまだ一ヶ月も経っていないのだが)、本気で怒った優姫というものは見たことが無かった。
瑞樹とケンカをしてしまった時も朝の待ち合わせの時間に遅れてしまった時も、あまり迫力のない声で注意をする程度だった。
それが今はどうだろうか。さっきは自分達を襲った不良を返り討ちにしたことを本気で怒鳴られ、さらには余計な心配はさせまいと黙っていた出来事を信じられないほどのプレッシャーで咎めてくる。
もちろん事実のままに「心配させたくなかった」と言えばこの問題は解決するのだが、それは後日瑞樹にからかわれるというリスクを供えているゆえに最終手段なのであった。
「…相良君」
「え?」
そんなくだらない意地を張っている中、不意に優姫が悠一を呼んだ。
「私はさ、相良君は友達だと思ってる。だから相良君の事は信頼してるし、相良君の意見に納得できなくたって一緒にいるし、よっぽどの事じゃない限り隠し事はしないし嘘もつかない」
「…光栄だね」
「…相良君はさ、私のことどう思ってるの?友達?ただの頭の悪いクラスメイト?それとも自分の休日の予定を勝手なワガママでメチャクチャにする迷惑な女?」
「…頭の悪いクラスメイトだな」
「…そっか」
「そ。おまけに運動神経はないし恥じらいもない、その上さらにお節介で、まだ寒いこの時期の夕方にいつ来るかも分からない奴を自分が風邪ひきそうになるまで待ってるバカだ」
「…そうだね」
「そんでもって…」
「まだあるの?」
「…そんでもって、友達だな」
「…ぇ?」
今まで自分の膝の上で組んだ手を見つめながら話していた優姫は、悠一のその言葉を聞いてパッと顔を上げた。それは今自分の聞いたことが信じられないという顔だった。目尻が少し濡れているように見えたのは気のせいではないはずだ。
「…今、友達って…」
「…悪かったよ、黙ってて。余計な心配掛けたくなかったし、別にお前には何の関係もない話だったしな」
「…何の関係も無くないよ、友達でしょ?」
「そうだな、悪かった」
「…えへへ」
「…泣くか笑うかどっちかにしろよ」
「な、泣いてない!泣いてないよ!?」
「ほっぺに涙の跡が」
「嘘っ!?そんなに泣いてないよ!?」
「嘘だ」
「悠一君!今嘘つかないって言ったばっかりじゃん!」
「わかった、嘘じゃなくて冗談だ」
「そういう問題じゃな~い!」
日曜日の賑やかな町に、一つの怒声が木霊した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あ、あそこにマックあるよ」
「お、じゃああそこでパパッと食ってくか」
「あたしお腹空いたよ~」
「結局あのあと昼飯食いそびれたし、なんだかんだでもう4時だしな。これ食ったら帰るぞ」
「え~、もう?何かあんまり遊んだ気がしないよ~…」
「予想外の事が起こったからな。でも十分遊んだろ、ゲーセン行ったりウィンドショッピングしたり」
「そうだけどさ~…」
「文句言うな、ほれ早く行くぞ」
「あ、待ってよ!レディーズファーストって知らないの!?」
「…レディー?」
「…あ、どうしようその哀れんだような目すっごいムカツク。言いたいことがあるならハッキリ言って?」
「…自分でレディーとか言う前にその起伏に乏しい体を何とか…」
「死んで!ミズキちゃんじゃないけど悠一君死んで!」
「ハッキリ言えって言ったじゃねぇか!?」
「全然ハッキリ言ってないじゃん!?『起伏に乏しい』とかちょっと気を遣ったようなその言い方がムカつく~!」
「じゃあハッキリ『胸とか背とか成長してから言え』とか言ったら怒らなかったのかよ!?」
「ハッキリ言うなぁ~!」
「理不尽だ!」
「うるさいうるさい!言うほうが悪いんだ!」
「言えって言ったのはお前だ!」
そんな無限ループのようなやり取りをしつつ、二人はマックに入ってそれぞれの注文をする。
「ったく、な~んでそこまでフレンドリーに接せるかね…」
「どーゆうことよ?」
「今までの比較的仲良いと思ってた奴らはケンカに巻き込まれたりした途端に離れてったからな。っていうか普通そうじゃねぇか?あんだけ容赦なく人をボコれる奴なんかそうそういねぇぞ、自分で言うのもなんだけど。お前俺が怖かったりしないのか?」
「別に怖くないよ、さっきの悠一君と今の悠一君なんか違うから」
「…は?」
「自分でもよく分かんないけど、とにかく違うんだよ。何なのかな~、雰囲気が違うっていうか。今の悠一君はすごく優しそうな感じなんだけど、さっきまではすごく怖かった。なんか別人みたいだったよ?」
「…電波受信中?」
「…ゴメン『優しそうな感じ』って言うの撤回させて」
「いや、だって意味わかんないし」
「まぁしょうがないか、あたし自分でもあんま分かってないし。でも悠一君は私にひどい事しないでしょ?」
「何でそう思う?」
「友達なんでしょ?」
「…そうだな」
「ふふん♪」
「勝ち誇ったような顔すんな鬱陶しい!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ん~、楽しかった~!」
「楽しかったか…?」
現在時刻は5時半。悠一と優姫の二人は駅のホームで帰りの電車を待っている。
「楽しかったよ?色々トラブルはあったけど」
「目的のもんは無かったけどな」
「それを言わないでよぉ…」
そこで帰りの電車がホームに到着した。二人はそれに乗り、空いていた席に並んで座る。
「…ふぁ…ぁ」
「…寝るなよ?」
「ね、寝ないよ!?」
「…」
~五分後~
「すぅ…すぅ…」
「…嘘はつかないんじゃなかったっけか?」
「…くぅ…」
「…聞こえてるワケ無いか」
優姫は静かに寝息を立てて、悠一の肩に体重を預けている。
「…友達、か。そんな事ちゃんと確認されたの初めてだ…」
小さな声で呟く。
「…ありがと、な」
「…ふふっ、どういたしまして♪」
悠一は目を見開いて肩にある小さな顔を見る。そこには寝顔の代わりに優しい微笑みがあった。
「…狸寝入りかよ」
「何か面白い事が聞けそうな気がして」
「…前言撤回だコノヤロー」
「あたしが一字一句覚えてるから大丈夫♪」
「忘れろ、記憶喪失になれ」
「ふふ~ん、さっきの仕返しだよ」
「…まな板のくせに」
「負け惜しみにしか聞こえないね」
「…ちっ」
結局その後二人揃って寝てしまい、駅をだいぶ乗り過ごしてしまったのは二人だけの秘密だったりする。
前書きにも書きましたが、今週が期末テストなので更新は多分次の来週になると思いますが、もし余裕があったら少し短めの話を更新するかもしれません。