第05話 雅樹こと「田中太郎」
前の更新から…どれくらい経ちましたっけ?;;
申し訳ありません、引越し後のインターネット環境が整わなかったりテスト三昧で忙しかったりとチャンスがなくてなかなか更新できませんでした…。
これからまだちょこちょこテストがあったりするのですが、すこしずつペースを上げて行けたらなぁと思いますので、もしよろしければこれからも気長にお付き合いいただければ幸いです。
「相良君、おはよ」
「ん。そんじゃ行くか」
「うん」
例の事件から2週間後。悠一と優姫はいつもの場所で合流した。
「ねぇ、今日お昼食堂で食べるでいい?」
「何でだよ、今日も普通に弁当持ってきてるけど」
「だってあたし今日お弁当無いんだもん、お母さんが泊りがけで仕事してて作れなかったの」
「ん~、まぁ俺は別にどこでもいいから瑞樹がいいならいいんじゃねぇの?」
「やたっ!むふふ~、高校で学食食べた事ないから何気に楽しみにしてるんだよね~♪」
「それが本音か…」
その後、瑞樹の了承も得て食堂で昼休みを過ごす事が決定した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そんなわけで食堂。
弁当を持ってきた悠一と瑞樹は席を探し、弁当の無い優姫が食事を買ってくるのを待つ。
やがて優姫が蕎麦を買ってきて、三人でテーブルを囲って食べ始める。
「あ、そういえばさ、前に相良君に告白した男の子最近学校来てないね」
「あぁ、アイツならもう随分前に転向したわよ」
「え、何で!?って言うかミズキちゃん何で知ってるの!?」
「あんた以外全員知ってるっての、こないだ沙恵ちゃんが言ってたじゃん」
ちなみに「沙恵ちゃん」とは悠一たちのクラスの担任の沙恵理先生のあだ名である。
教師暦2年の新人教師で、美人の上に気さくな性格をしているので生徒から非常に人気のある教師だ。
「え~嘘だ、あたし聞いてないもん」
「聞いてないだろうな、お前寝てたし」
「…教えてくれても良かったのに」
「自業自得だろ」
「…じゃあ起こしてくれても良かったのに」
「起こしたところであんたが起きるわけないでしょ」
「…って言うかこういう時だけ仲良くなるのやめてよ」
「「こいつと仲が良いとかありえないから」」
「…やっぱ仲良いじゃん」
そんなこんなで食事が終了し、教室へと通じる廊下を歩きだす。
「って言うかあの子名前なんて言うんだっけ?」
「…あいつ可哀想に、名前すら覚えてもらってないのね」
「まぁ接点なかったしな。確か…田中太郎」
「…んなワケ無いでしょ…って、あれ?」
「あれ、何だ結局誰も覚えてないじゃん!?」
「お、覚えてないんじゃなくて思い出す必要がないだけ!」
「『思い出す』って言ってる時点で忘れたって自白してない?」
「う゛…まさか優姫にツッコまれる日が来るなんて…」
「それ軽く傷つくよ?」
「そうだよな~、思い出す必要ないだけだもんな~」
「オイコラそこ!ニヤニヤすんな!」
「ミズキちゃん、言葉遣い言葉遣い」
「…プッ!」
「殺す!」
「ミズキちゃん!暴れないで、目立つから!」
「そうそう、人目の多い廊下で女が『殺す』とか大声で言うもんじゃないぞ?せめて小声で言え、小声で」
「…っ!」
悠一の冷静なツッコミを受けて少し慌てた様子で辺りを見渡す。自分が注目されているのに気づき、少し頬を紅くして俯いてしまう。
「…殺す」
「…素直でよろしい」
かすかに聞き取れたその一言には、さっきの軽く3倍ほどの殺意が込められていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その後。
午後の授業は滞りなく終了し、帰りのホームルーム。
「さ~て、じゃあ今日はここまで。委員長、パパッと号令しちゃって」
沙恵理が呼ぶと同時に、委員長が号令をする。
「起立。れ…」
「あ、ゴメンちょっと待って一つ忘れてた!相良」
「ハイ?」
「あとで職員室来て。じゃあ委員長、続けて」
「…起立。礼」
礼が終わると同時に沙恵理が教室を出る。それがスイッチだったかのように教室が喧騒に包まれた。
「あんたなんかしたの?」
「むぅ、やっぱ沙恵ちゃんの机にゴキブリのおもちゃは強烈過ぎたか…」
「何その悪質なイジメ…」
「冗談だ。何のことやらさっぱり見当もつかん。長くなるかもしれないから先帰っていいぞ」
「マジッ!?やっほー!」
「そこまで心の底から喜ばれると超ムカツク」
「い、良いから早く行ってきなって!」
「チッ…。じゃ、また明日な」
「二度と帰ってくるな~」
「も~、ミズキちゃん…相良君、また明日ね~」
挨拶を済ませると、悠一は手っ取り早く帰り支度をして教室を出て行った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ふぅ…」
一つ大きなため息をついて、雄一が校舎を出る。日は既に傾き、空は真紅に染まっている。
「…さて、帰るか」
「あ、相良君おかえり」
「んぁ?」
校門を出たところで不意に声をかけられ立ち止まる。振り返ると、そこにいたのは先ほど分かれたはずだった柚原優姫だった。
「何でお前いるんだ?遅くなるかもしれないから帰れって行ったろ?」
「いやぁ、さっきまでそこのコンビニで立ち読みしてたんだけど気づいたら結構遅くなっちゃって、相良君いるかどうか気になったから来て、まだいるみたいだったから待ってたの」
「俺がまだいるって何で分かったんだよ」
「え?そ、それは…靴箱に靴がまだ入ってたから」
「…どのくらい待ってた?」
「え~っと…5分くらい?」
「…」
悠一は少しの間黙り込み、小さなため息をついて優姫に歩み寄って素早く手を掴む。
「えっ…!?」
「んな都合よく行くワケ無いだろうが、見え見えのうそついてんじゃねぇっての。手がめちゃくちゃ冷たいぞ、軽く30分は待ってたろ」
「さ、相良君の手も結構冷たいよ?」
「俺は生まれつきそうなんだよ。それとも何か、お前も元々手冷たいのか?」
「そ、それは…。」
「ったく、そんなに呼び出しの内容が気になるんなら電話でも何でもいいだろうが。風邪ひ…きはしないだろうけど、寒かったろ?」
いくら春とはいえ日も落ちているこの時間はかなり冷える。現に今も通行人は厚手のコートやジャケットを着ていたりマフラーをしていたりする。
「わ、私だって風邪くらいひくよ!」
「だったらなおさらだバカ、寒い中何やってんだか…」
「…ご、ごめんなさい。…で、先生なんだって?」
「雅樹の奴が転校した理由聞かれた」
「マサキって?」
「2週間前に俺にアタックしてきた男子生徒」
「あぁ、あの子マサキって名前だったんだ…って言うかなんでその子が転校した事について相良君が聞かれるの?」
「あっちの母親から学校に電話があったらしい、『うちの子が転校したいって言いだしたのは相良って生徒のせい』ってな」
「え、そうなの!?」
「多分」
「さ、相良君何したの!?」
―まさか暴力!?それとも逆転の発想で…男の子同士で禁断の…!?
という感じで妄想全開の優姫を特に気にした様子もなく、悠一は平然と答える。
「あいつの告白を断った」
「…へ?」
「いやだから、今の時代ってそういう人間って認められないだろ?それを分かっていながらも勇気を出して告白してきたあいつを拒んだから、居心地が悪くなってって言うかここにいられなくなって転校したんじゃないかと」
「…」
「…なにちょっと残念そうな顔してんだお前」
「ふぇっ!?いやいやいや、ソンナコトナイデスヨ!?」
「…まぁいいや。ほれ、帰るぞ」
「あ、ちょっと待ってよ!」
不意に踵を返して歩き出す悠一の後を追い、横に並ぶ。そして同時にくしゃみを一発。
「ほれ見ろ言わんこっちゃない」
「だ、大丈夫大丈夫、くしゃみの一発くらいなんともないから!」
優姫は笑ってそう言い、鞄からティッシュを取り出して鼻をかむ。その様子を見て悠一は放課後三度目のため息をつき、上着を脱いで優姫の肩に掛ける。
「え?あ…」
「勝手に待ってたのはお前だけど、俺が待たせたって言うのも事実だからな。それになんか暑かったし、ないよりマシだろ?それともいらないか?」
「そ、そんな事ないよ!凄く暖かい…ありがと」
「ったく…」
夕焼けに染まった道路には、寄り添う二つの長い影が出来ていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
夜。正確に言うと午後11時43分。
『ご、ゴメンね、こんな時間に』
「別に。もうお前の奇想天外な行動にも慣れてきた」
『ひ、人を珍獣みたいに言わないでよぉ!』
ベッドで良い感じに夢の世界へ旅立とうとしていた悠一を一気に現実の世界に引き戻したのは、優姫からの夜中の電話だった。
「十分珍獣だろうが…。で、わざわざこんな時間に電話してきて何の用だ?」
『あのさ、今週の日曜日って暇?』
「日曜?ん~…多分。確認しないとちゃんとした事はいえないけど」
『そっか。もし暇ならさ、隣町に遊びに行かない?』
「べつにいいけど、何かやりたい事でもあんのか?」
『うん。こないださ、モンハンの新作の発売日だったでしょ?』
「あぁ、そういえばそうだったな」
『そう。それでこないだこの町の一番大きい電気屋さんに行ったんだけど売ってなくて…。だから隣町の大きい電気屋さんに探しに行こうと思ったんだけど、どうせ行くなら色々遊びたいよね~って』
「なるほど。ま、暇ならな」
『やたっ!』
「まだ決まってないけどな。っていうかそろそろ…」
『あ、ゴメンね!おやすみ!』
「はいよ、おやすみ」
「ピッ」と小気味の良い音がして、ディスプレイの光が消える。
悠一は携帯をたたんで机の上に放り投げ、布団に包まり目を閉じた。
ちなみにタイトルは間違いではありません。雅樹こと「田中太郎」です、間違っても田中太郎こと「雅樹」と読まないでくださいw